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自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました  作者: 葵 すみれ


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04.図書室の青年

 翌日から、レイチェルは決意を行動に移していく。

 まずは何事もなかったかのように振る舞い、今までと同じように学園に通った。

 ケイティを下手に刺激しないよう、できるだけ近づかないようにする。

 そして、こっそりと観察することにした。


「ケイティさまがいらしたわ」


「今日はグリフィン殿下にべったりね……」


 周りの生徒たちがひそひそと囁き合う。

 ケイティはますます堂々とグリフィンに密着するようになっていた。

 どうやらレイチェルが何も言ってこないのを、自分が創造主であるという言葉に委縮していると受け取ったらしい。


「ふふっ、お姉さまったら、私の言いなりになっているわね」


 優越感に浸りながら、ケイティは微笑んだ。

 自分の都合のよい展開になりつつあることに、すっかり満足しているらしい。


「……このまま放っておいても、自分で墓穴を掘っていきそうね」


 ケイティの様子をうかがいながら、レイチェルは呆れ果てていた。

 もともとの小説でも、ケイティは最後には破滅するのだ。

 むしろ、彼女にはストーリーどおりに破滅してもらって、それからのことを考えたほうがよいかもしれない。

 そのようなことを考えながら、レイチェルは一日を過ごした。


 そして放課後、レイチェルは図書室へ向かう。

 この学園には大きな図書室があり、生徒たちは自由に出入りできる。

 魔術に関する書物や歴史書など、幅広い分野の書物が揃っていた。


「さてと……結界について調べてみようかしら」


 図書室の奥に行き、レイチェルは本棚を眺める。

 この国を守る結界は、王家の血を引く者だけが施せる特別なものである。

 その結界を強化する儀式が年に一回行われるのだが、小説ではそれに失敗するという展開だった。


「失敗の原因は……あのことに加えて、ケイティが四大公爵家の直系ではないからよね」


 ケイティの父はリグスーン公爵ではあるが、彼はもともと傍系の出である。

 本当の直系はレイチェルの母であり、父である現公爵は中継ぎに過ぎない。兄ジェイクが成人すれば、彼が公爵位を継ぐことになっている。

 父と愛人の子であるケイティは、正確にはリグスーン公爵家の血筋とは言えないのだ。


「私が殿下の婚約者として儀式に参加すれば、多分、失敗はしないはず……。でも、やっぱり気乗りしないわね。あの子だって邪魔してくるでしょうし……」


 ため息をつきながら、レイチェルは本の背表紙を眺める。


「ええと……この辺りかしら?」


 目的の本を見つけて、レイチェルは手を伸ばす。

 だが、その途端、別の手が伸びた。


「あっ……」


 同じ本を取ろうとしていた相手がいたのだ。

 レイチェルは驚いたが、相手もこちらを見て目を見張る。


「……レイチェル」


 そこにいたのは、見覚えのない青年だった。

 金髪に紫色の目をした、端正な顔立ちをした人物だ。気品のある落ち着いた雰囲気をまとっている。年齢は二十歳くらいだろうか。

 学生の制服ではなく、白衣を着ていることから、研究者なのだろう。

 長身で細身だが、しっかりと筋肉がついていることが服の上からでも見て取れた。


 どこかで見たことがあるような気がするのだが、思い出せない。

 それなのに、なぜか彼がレイチェルを見つめる瞳は、泣きそうに揺らいでいる。


「あの……失礼ですが、どこかでお会いしたことが……?」


 レイチェルは首を傾げながら尋ねた。

 すると、青年ははっとしたように顔をこわばらせる。その口元には徐々に苦い笑みが浮かんできた。


「……そうか。きみは私のことを覚えてはいないのだな。いや、覚えていなくて当然だ」


 青年はどこか諦めたような口調で言うと、寂しそうに微笑む。

 その表情を見て、レイチェルの胸はちくりと痛んだ。


「あの、どこかでお会いしたのなら、申し訳ありません。どうしても思い出せなくて……」


 申し訳なくなって謝ると、青年は首を横に振る。


「いいんだ。これから新しく思い出を作っていけばいいのだから」


 そう言って、彼はレイチェルを見つめてきた。

 紫色の瞳には、何か決意を秘めたような強い光が宿っている。

 レイチェルは吸い込まれそうな感覚に陥り、目が離せなくなってしまった。


「あの、あなたは……」


 おずおずと尋ねるレイチェルを見て、青年は微笑む。

 そして、彼はレイチェルの手を優しく取ると、その甲に口付けを落とした。


「……私の名はカーティスだ」


「……っ!?」


 突然のことに驚き、レイチェルは顔を真っ赤にして固まった。

 そんなレイチェルの反応を見て、カーティスは微笑む。慈しむように目を細めながら口を開いた。


「きみが私のことを覚えていなくてもかまわない。私が覚えている」


 そして、彼はそっと手を離すと図書室から去っていった。

 後に残されたレイチェルは、しばらく呆然としていたが、我に返って呟く。


「な、なんなの……今の……」


 心臓がどきどきと高鳴っていた。顔は火が出そうなほど熱いし、頭は混乱して何も考えられない。

 まるで熱に浮かされたときのように、ふわふわとした心地だった。


「っ……いけない、落ち着かないと」


 レイチェルは深呼吸して気持ちを落ち着かせようとする。

 だが、なかなか心臓の鼓動は収まらなかった。


「……カーティスさま」


 彼の名前を呟いてみる。

 口に出してみても、やはり聞き覚えのない名だ。レイチェルの記憶にも、前世の小説のストーリーにも出てこない。

 それなのに、どこかで会ったような気がする。


「……いいえ、気のせいね。だって……あんな印象的な方、会ったことがあるなら覚えているはずだもの」


 レイチェルは自分に言い聞かせるように呟くと、再び本の背表紙に目を落とす。


「ええと……結界について調べないと」


 カーティスのことは頭の隅に追いやり、レイチェルは本を抱えて閲覧用のテーブルへ向かった。

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