17.ケイティ復帰
翌日、謹慎処分が解けたケイティが学園に姿を見せた。
「ケイティ!」
門の前で待ち構えていた王太子グリフィンが、彼女の名前を呼んで駆け寄っていく。
「ああ……王太子殿下! 会いたかったですわ!」
ケイティは感極まったように涙を浮かべて、グリフィンに抱きついた。
「僕もだよ。ああ、愛しいケイティ……」
グリフィンは愛おしげに彼女の髪を撫でる。その様子はまるで恋人同士のようだ。
周囲の生徒たちがざわめきながら、二人の様子を遠巻きに見守っている。
しかし、二人の世界に入り込んでいるグリフィンとケイティは気づいていないようだ。
「まあ、こんなに堂々と……」
「やっぱり浮気しているのね……」
「なんて節操のない……」
周囲の生徒たちは呆然としながら囁き合っている。
そんな様子を、レイチェルとジェイクは遠くから見つめていた。
「隠す気もないらしいね」
ジェイクは苦笑してレイチェルを見た。
「そうですね……」
レイチェルはため息をつく。
ケイティは人目も憚らずにグリフィンに抱きついたまま、愛を囁いていた。
「周りの目なんか気にならないんだね」
「ええ……」
ジェイクの言葉にレイチェルは頷く。
「まあ、このほうが好都合ではある。それでは、放課後に会おう」
「わかりましたわ、お兄さま」
レイチェルは笑顔でそう言うと、その場を後にした。
放課後になり、レイチェルはカーティスの研究室を訪ねた。
ドアをノックすると、中から返事がある。
「どうぞ」
レイチェルがドアを開けて中に入ると、カーティスは資料から顔を上げて微笑んだ。
「やあ、レイチェル。よく来たね」
立ち上がると、カーティスはレイチェルの手を引いてソファへと促す。
部屋には彼しかおらず、ジェイクはまだ来ていないようだ。
レイチェルがソファに座ると、カーティスは隣に腰を下ろした。
「会いたかったよ、レイチェル」
カーティスはレイチェルの肩を抱き寄せると、額に口づける。
その感触に、レイチェルの鼓動が高鳴った。心臓がドキドキして、顔に血が上ってくる。
「カーティスさま……」
レイチェルは潤んだ瞳でカーティスを見上げる。
その視線に応えるように、カーティスもじっと見つめ返してきた。
「好きだよ、レイチェル」
カーティスは熱っぽい声で囁きながら、レイチェルの髪を撫でる。
その手つきが妙に艶めかしく感じられて、レイチェルはますますドキドキしてしまう。
そんな様子に気づいたのか、カーティスは少し意地悪そうな表情をしつつ続けた。
「本当に可愛いね……」
そう言って微笑むと、今度は耳たぶに噛みつくようなキスをする。その衝撃に、思わずレイチェルは身を震わせた。
「ちょっと……カーティスさま……やめてください……」
レイチェルは顔を真っ赤に染めて抗議するが、カーティスはクスクスと笑いながらもう一度耳に口づける。
そして、今度は首筋に唇を這わせてきた。柔らかな感触がくすぐったくて、レイチェルは思わず身をよじる。
そんな反応を楽しむように、カーティスはますます強く抱き寄せてくる。
さすがにこれ以上はまずいと思ったレイチェルは、カーティスの胸をそっと押し戻した。
「あの……カーティスさま、ちょっとやりすぎだと思いますわ……」
レイチェルが上気した頬を押さえながら抗議すると、カーティスは少し残念そうな顔をして手を止めた。
「ああ、すまないね。きみがあまりにも可愛いものだから、つい我を失ってしまったようだ。求婚を受け入れてくれたのが嬉しくてね」
カーティスは苦笑すると、レイチェルの手を取って指先に口づける。
その仕草は優美で美しく、思わず見惚れてしまうほどだ。しかし、同時にどこか危険な香りも孕んでいて、レイチェルは困惑してしまう。
「あの……カーティスさま、私をからかっているのでしょうか?」
レイチェルが尋ねると、カーティスは首を横に振った。
「そんなことはないよ。私は本気だ」
そう言って微笑むと、カーティスはレイチェルの頬に手を当ててじっと見つめてくる。
「きみを愛しているよ、レイチェル」
その眼差しは真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。
紫色の瞳の奥には、微かな熱情が宿っているように感じられて、レイチェルは思わず息をのんだ。
カーティスはレイチェルの髪を耳にかけると、そのまま指を滑らせるようにして頬に触れる。そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「ま、待ってください……」
レイチェルは慌てて制止するが、カーティスは止まらない。
そのまま唇が触れ合いそうになった瞬間だった。
コンコンとノックの音がして、カーティスが動きを止める。
「失礼します」
聞こえてきたのは、ジェイクの声だ。
カーティスは残念そうにため息をつくと、レイチェルから手を離した。
「残念、時間切れだね」
カーティスは立ち上がると、ドアを開けた。そこには予想どおり、ジェイクが立っている。
「やあ、ジェイク。久しぶりだね」
「お久しぶりです、カーティス殿下」
ジェイクは一礼すると、カーティスの研究室に入った。そして、ソファに座るレイチェルに視線を向ける。
「レイチェルは先に来ていたのか。待たせたみたいだね」
「い、いえ……大丈夫ですわ」
まだドキドキしている胸を押さえながら、レイチェルは平静を装って答えた。
ジェイクが来なければ、きっとあのままカーティスに唇を奪われていただろう。そう考えると、まだ心臓の鼓動が収まらない。
しかし、少しだけ残念に思う気持ちもあって、レイチェルは自分の感情に戸惑わずにはいられなかった。






