小さな依頼人
部室にて。
僕は自分のパソコンを毎日、持ってくるようになっていた。
2人で作業するのに、1台だとどうしても不便だから。
ユリさんと、お互いの作った作品を見せ合いながら、「ここはこうした方がおもしろいかも。」なんて意見を出し合っていた。
コンコン、とドアをノックする音。
ユリさんが、「はい。」と返事をして、ドアに近づこうとすると、ドアが静かに開いた。
顧問の黒田先生だ。
僕より年下っぽい女の子を連れている。
先生は部屋を見渡し、僕のパソコンに目を止める。
ヤバっ…。パソコン持ってくるの、許可取ってなかった。怒られるかな。
「あのパソコンは?」
「僕の私物です。」
怒られるだろうな。
「部室に置きっぱなし?」
そこ?
「いいえ、毎日持ってきてます。」
「そうか、落とさないように。」
それだけ?
「先生、その子は?」
ユリさんが話題を変える。
「ああ、きみたちに頼みごとがあるそうだ。」
「はじめまして、ヒカリ小6年のヒカリといいます。」
ヒカリ小というのは、僕の母校。
「ヒカリ小のヒカリちゃん?」
言われた通り繰り返しただけなのに、すごくイヤな顔をされた。これ以上、突っ込んじゃいけないとこらしい。
「ヒカリちゃん、私たちになんのご用?」
ユリさんが優しくたずねる。
「じつは先輩がたに…。」
しっかりしてると思ったら、ヒカリちゃんは児童会長とのこと。要望は、来月の校内イベントで、僕らにクイズ大会をやってほしい、というものだった。
「去年の文化祭、とても楽しかったです。」
ヒカリちゃんは去年のユリさんたちの文化祭に来ていて、あのお兄さんたちが作ったクイズをずっとやっていたらしい。
「鶏肉のクイズがいちばん好きです。」
あの、鶏肉のクイズを友達に紹介したところ、学校中で流行ってしまい、ついには児童会長に推薦されてしまったのだとか。
お兄さん、こんな子にまで影響を与えてますよ…。
「それで、来月、児童会で校内フェスティバルするんですけど、ぜひ先輩がたに力を貸していただきたいと…。」
ユリさんは、ちょっと困っているみたい。
黒田先生に目を向けると…。
「君たちがしたいようにすればいい。」
あぁ、この先生はこれしか言わないんだ。
「先輩がたのご予定もおありでしょうから、お返事は、来週中で結構です。」
ほんとにしっかりしてるな。
ペコリと頭を下げると、黒田先生と一緒に部室を出ていった。
「どうする?」
「私は、やりたい。」
ユリさんがやりたいのなら、僕に反対する理由はない。
「やろう。」
こうして、僕らのクイズ作りがはじまった。