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神の見えざる手

作者: 順慶碧琉

「おーいタケル、元気してっかぁ?」

大学模試会場の大講堂で中央高校2年生のcに声をかけたのは、クラスメートのジョヴァンニ・マルコ・イシハラ。イタリア人の父親譲りのイケメンでラテン的楽天家。クラスの人気者である。

「おう、マルコか。お前、なんでこの、クッソあちぃ日にブラックパーカー着てんだ?」

「いいじゃんかよ、どうせアバターなんだし。しっかし、このメタバ(ヴァーチャルロケーション、メタバースの略語)の造り古くね?ちょっとハックすりゃ何でもできんじゃね?」といっぱしの高校生らしく、ちょっと偉そうなことを言ってるが、実際にできるかどうかはかなり怪しいマルコであった。くだらない話をしながら、出口へと向かっていると、マルコがシリアスな話題を振ってきた。

「タケル~、夏休みの宿題どーすんだ?あの自由研究ってやつタケルも終わってねぇ~んだろ?」

タケルは嫌なことを思い出させてくれたなとばかりに、思いっきり深いため息をつくと、「そう、それが問題なんだよな。」とつぶやいた。しばらく思案していたが、開き直った感じで、「マルコ。俺のオヤジがさ、会社で、改良型アニーリング方式の量子コンピュータークラウドのβ版作ったからモニタリングしろって言ってんだよね。バイト料も払うって言うし。でも、チョーメンドクセーんだよな。レポートとかウゼーし。」

「タケル!その話乗った!その新型量子コンピューターで夏休みの自由研究をシミュレートすりゃ、あっと言う間じゃん。しかも、金貰えんだろ⁉」

「ちょっと待った。マルコ、お前、量子コンピューターって何が出来んのか判ってんのか?」

ナンパなら任せとけのマルコだが、こういった“ムズカシイ“話は大の苦手で、一言、「何でもできるんだろ⁉」という一般的な願望レベルの答えが返ってきた。

ちなみに、量子コンピューターとは、「量子重ね合わせ」や「量子のもつれ」などの不確定性原理と言った量子力学の現象を利用して並列計算を実現するコンピューターである。ただし、量子の動きを人為的にプログラムした場合、相対性理論的効果を考えない数式上は動くが、どのような結果が算出されるのかは、実際の所は実用面も含め不明という代物である。しかしながら、演算能力は21世紀初頭のスーパーコンピュータを圧倒的に凌駕していることは間違いない。現在は、確実に出来ることを増やす為に、開発に携わる研究機関や会社はしのぎを削っているという状況であった。

詐欺まがいの、なんちゃって「量子コンピューター」も意外と多く、まじめな開発団体の開発資金調達が難しくなるなどの問題も発生している業界である。また、水面下での諜報活動も非常に盛んなお陰で、エンジニア不足となっている。

そんな量子コンピューター業界なので、新型のテストには最新の注意が必要であった。β版のテストにおいて、参加者を一般公募すれば、必要人数は圧倒間にそろうが、セキュリティーの確保が難しくなる。そこで、タケルに話が来たという訳だった。

タケルは小さいころから開発中の量子コンピューターに触れてきたため、かなり複雑なコードを書くことはできる。しかし、コードは全て手入力なのでどうしても気が進まなかったのである。マルコとの共同研究ということになっても、入力できるのあタケルだけなので、気が重いのであったのだが、マルコの勢いに負けて、共同研究をやることになってしまった。

しかし、今度は何を研究テーマとするかで頭を悩ませることになった。地球環境とか、宇宙開発などはやりつくされている感があり新鮮味がない。生物の進化が流行りだが、基礎データを集めるのが大変なうえ、ちょっとでもアルゴリズムに不備があるとトンデモ進化という結論がでることが判っている。これでは笑い者になるだけなので、それは願い下げしたい。二人で話していてもらちが明かないので、幼馴染でいつもつるんでいるアニータに相談することにした。

彼女は、京都名門桜小路家の分家で明治期に南米に渡った一家の末裔である。本名を、未央・アニータ・桜小路と言うのだが、南米系の明るさから、ミドルネームのアニータと親しみを込めて呼ばれている。ハイパーネットで呼び出すと、「なに、なに、なにぃ~。まだ宿題やってないんだって⁉バッカじゃないの。そんなんは前半で片付けるのがセオリーでしょ。」と見透かしたように罵倒されてしまった。基本的にはその通りなので、アニータの「バカ・カス・アホ」の嵐が収まってから、状況を説明すると、興味をもったらしく積極的に提案してきた。

「なら、歴史やってみればいいじゃん。いわゆるIFってやつ。20世紀以降ならデータも腐るほどあるし、結論がどう出ようとあくまでもIFだから、その原因をレポートすればいいんじゃない?ちょっと待ってて」というと、アニータのアバターがBGMに合わせて踊る画面が流れ始めた。

「いつまで待たせんだよ!」とマルコがつぶやいた時、「今、誰か遅ぇとか、何とか言った?」と突然アニータが戻ってきた。そしていきなり「あんた達これは何か判るわよね。」と映し出したのは、モノクロの戦艦大和の写真であった。「私のじいちゃんがこいつの研究家なのよ。じいちゃんの口癖が、『使い方を間違えなきゃ、もっと活躍できたはず。』とか、『一花咲かせたかった』なのよ。だから、こいつのIFやってみようよ。じいちゃんに聞いたら、持ってる資料は全部好きなように使っていいってさ。どう?」

タケルとマルコにしてみれば、渡りの船でアニータの案に飛びついたのだった。

早速3人は、アニータの祖父が持っていた膨大な資料をデータ化し、クラウドに叩き込んでいった。歴史背景や歴史的人物のデータはハイパーネット上にごまんとあるので、リンクを張り巡らせるだけでいいので、これはマルコとアニータが二人係で根気よくやることになった。アニータの祖父が持っている資料は、そのほとんどがアナログ媒体の紙なので、データ化できるのはタケルしかいなかった。タケルは、膨大な資料のデータ化を終えると、その勢いでアニータの祖父の話を原案としてシミュレーションアルゴリズムを組み上げ、必要なパラメータ―の入力を文字通り不眠不休でやり遂げ、いよいよシミュレーションをスタートするだけとなった。

「さあて、どんな結果が出るか楽しみだねぇ。マルコがカウントダウンしてタケルがスタートボタン押してね。」とアニータが言うと、マルコが「3・2・1・GO」と声をかけると同時にタケルがシミュレーションをスタートさせた。タケルが書いたクラウド上のアプリが無事起動された。ハイパーネットパーソナルデバイス(HNPD)には量子コンピューターが稼働している状況を抽象的に表現した無数のドットが点滅していた。


翌日、アニータから「すぐ会いたいから、リアルの学校に来てほしい。」とメッセージが入ってきた。タケルは一瞬(もしかして告られる?)とひそかに胸を膨らませたが、マルコも宛先に入っていたので、自己チューな勘違いにもかかわず、勝手に落胆し落とした。とはいえ、夏休みの最中に学校に集まろうとアニータが言い出すということは、なにか重大なことがあったのだろう。タケルは急いで自動運転のスクールタクシーを呼んだ。

数分後に到着したタクシーで乗り込んだタケルは、学校までの快適な空の旅を満喫しながらアニータに連絡を取ろうとしたが繋がらない。「今、学校に向かっている」というメッセージを残すと、昨夜設定した戦艦大和のシミュレーションの結果を見ようとクラウドにアクセスを試みた。しかし、エラーメッセージが出るだけで、シミュレーションにはアクセスができない。タケルはこの量子コンピュータークラウドがベータ版だったことを思い出し、システム全体で何か障害が発生しているのだろうとアクセスするのをあきらめた。HNPDハイパーネットパーソナルデバイスをバッグに入れて間もなく、タクシーは学校の降車場に着陸した。

タケルがタクシーから降りるや否やアニータが駆け寄ってきて、「なんかおかしくない?」と質問してきた。あまりにも唐突な質問だったので、きょとんとしていると、マルコが愛用のモノホイール(一輪車のバイク)で、校門から入ってきた。

よほど慌てているのか、駐輪場に行くのももどかしいようで、そのままこっちに猛スピードで接近してくる。タケルとアニータの目の前で止まると、ヘルメットを取りながら、「どうなっちゃってんの?」と素っ頓狂な質問をタケルたちにしたのだった。

タケルには二人の質問の意味がさっぱりわからないが、彼らがじっとこっちを見ているので、「な、何事?」と後ずさりした時、ちょっとした段差につまずいて後方にひっくり返ってしまった。助けようとしたマルコの素早い行動が裏目に出て、マルコの膝で思いっきり後頭部をぶつけたタケルは意識がすっ飛んでしまった。

タケルが意識を取り戻したのは保健室のベッドの上だったが、もちろん保健の先生はいない。いるのは、心配そうにのぞき込んでいるアニータだった。タケルは、朦朧とした意識の中で、アニータの顔があまりにも近くに見えたため、慌てて起きようとして、アニータの額とゴツンとやってしまった。アニータに「痛いじゃないの!バカ!!!」と言うなり、思いっきりタケルの頬を平手でぶっ叩いた。お陰で、タケルは完全に正気に戻ったのであった。

「ごめん、ごめん。保健室まで連れてきてくれたんだ。ありがとう。あれ、マルコは?」と聞くと、今コンビニに行っていると教えてくれた。

アニータはマルコが帰って来る前に話を始めるのは気まずいのか、黙って立ち上がると窓側に歩いて行った。タケルもアニータの横に立つと、東京湾が見渡せた。遠くにはこの季節らしい入道雲が天高く上がり始めていた。ふと、目線を東京湾に戻した時、「なんじゃ、ありゃぁ!」とタケルは叫んでしまった。お台場海浜公園に見える奇妙な形のTV局本社ビル手前に、一目で戦艦大和級と判る巨大な船が停泊していたのだった。横浜の方に目を向けると、空母らしき艦船の姿が見える。米軍基地は横須賀にあるはずなので、東京湾の奥までよほどのことが無いと入ってこないはずである。開いた口が塞がらないとは正にこのことで、ポカンとしているとマルコがコンビニから帰ってきた。

「オウ!タケル、元気になったか。さっきは悪かったな。助けようとしたら返ってひでぇことになっちまってよ。」とあやまりながら窓際に立つと、「タケル、あれ何⁉」と戦艦大和と思われる艦影を指さしながら聞いてきた。

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った。俺に聞くな。俺も数分前まで気づかなかったんだ。俺が、知る訳ないだろう。」と俺に振るなという口調でタケルが反論し、「アニータ、そもそもお前が呼び出したんじゃん。」とアニータに丸投げした。

「あんたらねぇ。私が判ってたら、呼び出す訳ないでしょ!私は、朝これを見てぶっ飛んだんだからね!」と言いながらHNPDを開いて見せたのが、今朝の電子新聞であった。

『9月1日の終戦記念日に吉田大統領が米国大統領とともに靖国参拝を表明』や、『G7は、500年の歴史がある名古屋城大天守閣で開催』といった見出しが並んでいた。

「おい、おい、終戦記念日は9月1日じゃないぞ。日本は首相であって、大統領じゃぁないし。その上、名古屋城の大天守閣は太平洋戦争で焼け落ちて昭和の時代に作り直したから、せいぜい100年だろ?歴史が苦手な俺でもそれ位は判るぞ。」

「タケルにしては、上出来ね。ついでに教えてあげるけど、あそこに停泊している空母は、日本の最新鋭空母『白鳳』だって!」とアニータがこともなげに言った。

タケルが「はぁ?」といった瞬間、コンビニで買ってきたアイスを食べ始めていたマルコが咳き込んでしまった。

アニータは、咳き込んでいるマルコの背中をさすりながら、「ねぇ、タケル。ここに来る間、なんかいつもと違う変なことなかったの?それとも、超鈍感?」。タケルは、スクールタクシー乗車中は、ずっとHNPDをいじり続けていたので、外の風景には全く注意を払っていなかったことや、量子コンピュータークラウドに入れた自分たちのシミュレーションサイトに繋がらないことを話した。そして、超鈍感なわけではないとも付け加えた。

そこから喧々諤々3人で話をしたが、堂々巡りを繰り返すばかりで全く埒が明かず、3人は黙り込んでしまった。完全に手詰まりかと思った時、何かを思いついたアニータがHNPDに『手書き』で何やらメモを書き始めた。そして、タケルに書きながら尋ねた。

「ねぇ、タケル。シミュレーションプログラムの最後に入れた条件っていうか、パラメータは何だったの?」

「えぇ~っと。確か、“Use the battleship Yamato in the most efficient way.”だったと思う。」

「おいおい、なんでそこはプログラム言語じゃなくて英語なんだ?」とマルコが突っ込むと。「あんたは、黙ってて!」と一蹴され、マルコは慌てて口をふさいだ。

アニータは手書きの年表を二人に見せながら、「日独伊三国同盟締結が、1940年の9月27日でしょ。真珠湾攻撃が1941年の12月8日。ここまでは、いいわね。」歴史を苦手とする二人がちゃんと聞いているかを確かめてから、「私たちが知る歴史と、この世界の歴史が同じなのが、1940年末ぐらいまでなの。」というと、HNPDに1940年から50年の歴史を表示させ、「ほら、1940年9月に日独伊三国同盟締結ってあるでしょう。1941年に入ってからがおかしいの。1941年4月の日ソ中立条約は全く同じなのに、その前後に見たことも聞いたこともない話が出てくるのよねぇ。」と早口に話しながら、画像や年表をタケルとマルコに見せていった。しかし、タケル達はついて行けず「アニータ、すまん。全くついて行ってない。」と男子2名が同時に白旗を上げたのだった。アニータは一瞬あっけにとられたが、あまりにも情けない顔をした男子二人の顔を見てケラケラと笑いだした。そして、「ごめんごめん。君たち歴史『も』苦手だったよね。」とかなりキツイ嫌味のスパイスを効かせた言葉を口にすると、男子二人でも判る様に嚙み砕いて説明し始めた。

アニータに言わせると、第二次世界大戦の勃発は、自分たちの知っている歴史と同じなのだが、太平洋戦争開始となる真珠湾攻撃は3人の知る歴史とはか大きく異なっていた。真珠湾は完膚無きまで破壊したのは、航空戦力ではなく、戦艦による艦砲射撃だったという。特に戦艦大和の砲弾は米国の戦艦を次々と爆沈させただけでなく、陸上施設にも大被害を与えたという記録されているという。米国の太平洋艦隊司令長官のキンメル大将も、ハワイ方面陸軍司令長官のショート大将も戦艦の艦砲射撃で行方不明になったと記録されている。

当時、真珠湾に停泊していなかった空母2隻は日本海軍の空母艦載機に発見され、高速戦艦(巡洋戦艦)に追い掛け回されたあげく、砲撃であえなく撃沈されている。3人の知る歴史では、ハルゼー中将は空母を率いて真珠湾に戻り、後に南太平洋方面軍司令官として活躍したのだが、こちらの歴史では、空母と運命を共にしている。つまり、太平洋戦争において、米軍の重要人物が早々と舞台から姿を消している。

この真珠湾攻撃で、アメリカは戦艦の破壊力を再認識し、戦艦の大量生産を発注するこう緊急議会が開催され可決されると、大統領も即、署名したという多くの資料に書かれている。結果として、第二次世界大戦は3人が知っている歴史とは全く異なる経緯をたどったことであった。

経緯が変われば、その結末も全く異なる形となるのは必然で、アニータの調べた歴史だと、欧州戦線より先に、太平洋戦争が先に終結している。なぜなら、日本海軍は米太平洋艦隊を壊滅させた後、ハワイを足場に怒涛の如く米西海岸にその牙を向けた。米国西海岸の軍事拠点や造船関連施設に多大な損害を与えるに至り、山本五十六の目論見通り西海岸市民を中心に厭戦気分が充満し始めた。ルーズベルト大統領は、国民感情を無視できない。しかし、ホワイトハウスは負けを認める訳にはいかないという政治的事情もあり、板挟み状態に頭を抱えていた。そこへ、是が非でも米国の支援が欲しい英国が外交力をフルに発揮し、ポーツマス条約の逆バージョンを実現した。当時は、まだ連合国の一員であったソビエト連邦(ソ連)が日米両国の仲介役となり、真珠湾攻撃から10ヵ月後には、サンクトペテルブルク条約(日米講和会議)で終戦を迎えたというのだ。日本は、大陸からの撤収、三国同盟破棄、日本艦隊の大西洋派遣などが主な条件であった。勝ち進んでいただけに陸軍を中心とした反発を抑えるに、天皇陛下自らがラジオを通じてこの条約を締結の宣言。いわゆる、玉音放送が行われた。この方針に反する者は、国賊であるとまで言われては、鼻息の荒かった陸軍幹部達も黙らざるを得なかった。対して、米国は、賠償を一切求めない、対日貿易の禁輸策を撤廃することに加え、なんとハワイ王国の独立と承認するという内容が含まれていい。


アニータの一通りの説明が終わり、しばらくの間は誰も口を開こうとしなかった。この沈黙を破ったのはマルコで、「アニータ、ってことは、第二次世界大戦っていうか、欧州戦線はどうなった?イタリアはどうなった?」やはり父親の母国であるイタリアが気になるようであった。

「マルコ、どうなったと思う?日本が三国同盟を脱退しちゃったからねぇ。アメリカとしては、振り上げたこぶしを振り下ろす先が必要だった訳。それがドイツとイタリア。条約条件に日本海軍の大西洋派遣があったけの覚えてる?実は、英米と商戦護衛ぐらいできるだろうと、それほど期待してなかったの。ところが、日本海軍は、全力出撃で大西洋にやってきたお。油断していたとはいえ、米海軍(太平洋艦隊)を壊滅させた艦隊が、通過の駄賃として地中海にいた独伊の戦闘艦艇と海軍基地も再建不可能な位破壊して大西洋にやって来たわけ。まぁ、この時点であっさりとイタリアは白旗を揚げたんだけど、ナチスドイツに占領され傀儡国家になっちゃったのよ。」

「えぇ~、マジで?それってやばくない?」

「詳しくは、イタリア史のサイトを見ればわかる、私たちが知っている歴史と大差ないわね。」

マルコはそれを聞くとホッとしたのか、ふぅ~と息を漏らし、「じゃぁ、ナチスドイツは大変だったんだろうな。」と独り言をいった。

実は、その通りで、日本海軍により、ナチスドイツ海軍を壊滅させただけでなく、ドイツの港湾施設は完膚なきまで叩きのめしたのであった。極東の戦艦が暴れまわることで、ナチスドイツの支配地域では、「黄禍論」が再燃したのであった。

英国のチャーチルと、フランス亡命政府のド・ゴールは、日本海軍こそ救世主だといった見解を述べ始めたので、焦ったのは、米国であった。

日米講和条約に日本海軍の大西洋派遣条項をねじ込んだのはトルーマンであったが、目論見が完全に外れてしまったばかりか、欧州救世主のポジションも危うくなっており、「戦後」を考えてがむしゃらな支援を開始することになる。本気を出した米国にナチスドイツが勝てる訳もないのは、自明の理であった。

日本海軍の戦艦がドーバー海峡設置されたナチスの要塞を徹底的に破壊したため、フランスへの上陸作戦は、気抜けする程あっさりと成功した。戦闘らしい戦闘もなくフランスの開放が宣言されてなく、後に新生ドイツの初代首相となるロンメル将軍によるクーデターでナチスドイツが崩壊した。お陰でベ東西に分裂によるルリンの壁が造られることあなかった。」

その話を聞いて、しばらく沈黙が続いたが、タケシが「あっ!」と何かを思い出したようで、「パラメーターにマーキングを入れてたんだ。確か…“a wise man keeps some of his talents in reserve”だったと思う。」

「それって、『能ある鷹は爪を隠す』っていう意味でしょ?なんでそんな言葉を入れたの?大体、マーキングって何?」とプログラミングはあまり得意としないアニータがタケルに興味津々な顔つきで聞いた。

「わりぃ、わりぃ。マーキングってのは俺が『作った』とか、『書いた』っていうことをプログラム自体には影響のない、いわゆるサインみたいなもの。今回は、パラメータは俺が決めたんだぞ!というマーキングに“a wise man keeps some of his talents in reserve”を入れた訳。なんで、この言葉かって言われると困っちゃうんだけどねぇ。たまたま思いついたとしか言いようがないね。冒頭に入っているUse the battleship Yamato in the most efficient way.も同じ。」

途中からアニータはタケルの話も聞かずに、「“a wise man keeps some of his talents in reserve”、能ある鷹は爪を隠す。」を数回ブツブツと念仏のように唱えながら、右手を額に当てて何かを考えていた。数秒後、ふと何かに気付いたようで、HNPDで何かを検索して見つけたらしく、

「見てみて、山本五十六が戦後に書いた太平洋戦争回想録に、こんな一節があるの。『あの日、神仏を信仰せぬ私に天啓が舞い降りてきた。大和を使え。航空戦力の価値を教えるな。とはっきりと聞こえた。大西君、源田君、あの時はすまんかった。』」


クレムリンが巨大なクレーターになったことで終結したロシア軍によるウクライナ侵攻。

国連常設軍となったウクライナ救国騎士団ヒマワリの司令部は戦艦ヤマトに設置されることとなった。

なせ、第二次世界大戦の仇花とも陰口を叩かれる戦艦大和がこの世界では大活躍することになったのか?

前作の前のストーリーとなるのが、この「神の見えざる手」。


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