なんでそうなる!?
な、なんでここにセルシオ!?
状況にパニック状態だ。
(ここは、伯爵家の娘の寝室、だよ?)
「え、あの、なんでここに?」
アワアワしながら聞けば、何てことないような顔で返事。
「侍女が通してくれたよ。起こしても起きないって聞いたから、驚かせたいから側でみていたいって言ったらね。」
(侍女ー!!)
だが、昨日までの私はセルシオが全てだったのだ。
追い返した方が怒ったであろうことは簡単に予想がつく。
・・しかも相手は公爵。基本的にその要望に、ノーはない。
「ねえ、リーファ。昨日、僕はきっと悪い夢をみていたんだ。だから、改めて言わせて?」
ぎしっとベッドがきしむ。
視界に、セルシオの美しい顔がどアップになる。
「リーファ。僕と結婚してほしい。」
涙がにじむ。どうすればいいのだろう。
分かっているのは、今、了承してはいけないということだけ。
このまま了承すれば、両親の命も、私の未来も、全て失う。
それだけではない。何より嫌なのは。
「お受け、できません。」
「なんでなのかな?僕が嫌い?」
「・・!!それは!」
「君の心が僕にあると思ったのは、僕の勘違い?それとも、君は意図的に僕をもてあそんだの?」
「違います!!」
否定するが、説得力がないことは分かっている。
言葉が続けられずにいると、セルシオがフッと笑った。
「いっそのこと、既成事実でも作ろうか?」
「・・え?」
そのままベッドに乗り上げ、迫ってくるセルシオに、私ははからずも押し倒されたような形になる。
「・・キス、していいよね?」
耳元でささやかれ、気を失いそうになりながら、必死に堪える。
「っ!やめて、ください。だめ・・。」
聞こえているのかいないのか、そのまま近づくセルシオの肩を全力で押し返そうとするのに、彼はびくともしない。
「だめです。セルシオ様。あなたは、私のこと、好きじゃないのにっ!」
「・・は?」
セルシオには珍しい、呆気にとられた顔は、少し普段より幼く見える・・じゃなくて。
セルシオの力が弱まった隙にぐっと押し返すと、距離が離れる。
「今、なんて?」
セルシオの声が低くなる。
(ああ、もうだめだ。)
求婚をはね除け、キスを拒んだ。
前世でも今世でも、イチオシで大好きだったセルシオだけど、彼との結婚は不幸しか生まない。
一番嫌なのは、それで一番不幸になるのは、恐らくセルシオであるということ。
復讐にかられ、私を不幸にさせ、全てをやり終わったとき、彼は空っぽになってしまう。
隠れキャラにして難易度の高いセルシオルートを、必死に何度もやって攻略したのは、ゲームだから、ではない。
セルシオに幸せになってもらいたかったから。
(王宮の庭で求婚された私に、セルシオ様を幸せにすることはできない。)
涙が溢れてしまう。
セルシオの戸惑った顔。
「ちゃんと気づけなくてごめんなさい。でも、これ以外に今は方法がみつからないんです。さようなら・・。」
その時、寝室のドアがノックされた。
「じきに旦那様と奥様がお帰りになります。ご支度を。」
さすがにこの場面を見られるのはきつい。
セルシオもそれは理解したようで、ベッドから降りた。
「君は今、なんだか混乱しているみたいだ。日を改めるよ。・・ああ、一つだけ。」
そう言うとセルシオは私の喉に、二本の指をそっと当てた。
『僕が許可するまで、昨夜から今までのことを他の人に言ってはならない。』
ずくん、と喉の奥がしまるような感じがする。
「勝手に離れていかれたら悲しいからね。リーファ。愛してるよ。」
(こんなこと、愛してたらしないよ・・。)
セルシオの闇魔法。『緊縛』は、破ろうとすればひどい痛みと苦しみに襲われる。
セルシオはやっぱり美しい笑顔で、部屋を出ていった。




