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1:空の上

新作です! べたべたな異世界転移ものですので、ゆったりのんびりお楽しみください!

「いや、どこだよここ」


 思わずそうツッコミを入れてしまうのも無理はないし、許してほしい。


 俺は目覚めると、謎の島にいた。

 まるで出来の悪いB級映画のような始まりで恐縮だが、そうとしか言いようがなかった。


 島の中心部には森があり、何やら文明の名残らしき遺跡が見える。だが、人どころか生物の気配が一切ない。


「ふー。とりあえず深呼吸しよう。すーはー……空気美味いなここ」


 じゃなくて。


「島なんだけど、なぜか目線の高さに雲があるんだよなあ」


 俺は島の沿岸部で目覚めたのだが、島の向こうには海はなく、代わりに空が広がっていた。


「んなアホな」


 俺は眩暈を感じながら、分かりやすいところに目印を付けて、沿岸にそってぐるりと歩いてみた。


 付けっぱなしだった腕時計はなぜか壊れていたので体感でしかないが、約三十分ほどで元の場所に戻ってきた。


「大きさはそれほどではないけど、とりあえずここが浮遊島だと言う事がよーく分かった」


 この島は、上を見ても下を見ても空しかなかった。


「い……いやああああああああ!! どこなんだよここおおおおおおおおお!!」


 俺は思わず叫んでしまう。ここまでずっと冷静でいようと押し殺していた想いが爆発した。


 全く状況が理解できない。


「落ち着け俺、まずは現状把握だ。俺は誰だ――俺は四ノ宮(シノミヤ)凜人(リンド)、二十歳、府内の大学に通う学生。昨日はサークルの飲み会があったから、帰ってきてそのままベッドに直行して寝たはずだ」


 大丈夫、昨晩は先輩にしこたま飲まされたが記憶は残っている。


 だが何度思い返しても、こんなファンタジックな浮遊島で目覚める意味が分からない。


「いや、一個思い当たることがある」


 それはおぼろげな夢の中の話だ。誰かと話した気がするが、それが誰だったか覚えていない。だけども唯一はっきりと覚えている言葉があった。


「そうだ、スキルを授かったんだ……確かスキルの名前は――【起動】」


 俺がそう口にした瞬間に、淡い光が俺の左手首を包んだ。


「なんだ今の」


 俺が訝しがって左手首を見ると――壊れていたはずの時計の針が確かに動き始めていた。


「……直った?」


 どういうことだろうか。俺はもう一度、〝起動〟と口にしてみたが、今度は何も起こらない。


「さっきの謎の光がスキルの効果?。 それで時計が直ったってことか? うーん。一旦ここは、スキル的な何かがある世界と仮定しよう……なら、まあ島が浮いてても不思議じゃないな! わっはっは」


 俺は笑いながら、地面へと仰向けに倒れた。


 もうやだ。時計が直るスキルとかクソスキルかよ!


「異世界転生……いやこの場合転移か。そういうやつなんだろうけど……おもてたんとちゃう! チートスキルで美少女ハーレムなんじゃないのかよ! 美少女どころか、虫一匹すらいねえよ!!」


 怖いぐらいに、この島は静かだった。森は少しだけ入ってみたが、なんというか異様な雰囲気だ。緑は豊かなのに生物の気配がない。まるで、室内に作られた人工的な森のように感じる。


 だからこそ、俺の中で恐怖心が鎌首をもたげはじめた。


 この島に逃げ場はない。いるのは今のところ俺一人。頼みの綱のスキルは、時計が直るという使い道が謎なやつだけ。


 それはつまり……俺はここで誰にも見付かることもなく野垂れ死ぬ運命だということだ。


「なんだよそれ……ふざけんなよ! 俺が何をしたって言うんだよ!!」


 そう叫ぶも、誰も答えてくれなかった。



☆☆☆



「疲れた」


 膝を抱えて泣き続けた俺だったが、いい加減涙も涸れたし、喉も渇いて腹も減ってきた。


「……うっし、泣いてすっきりしたし、これからどうするか改めて考えよう」


 前向きに思考を切り替える。ここで嘆いていても何も始まらないし、何より腹が減りすぎて動けなくなる前に色々とやらないといけない。


「空島サバイバルってか」


 俺は普通の大学生だ。そりゃあ両親に連れられてキャンプに行ったり、友人達とアニメに影響されて山登りしたりと、アウトドア活動はある程度やってきた。


 動画配信サイトにある、サバイバル系動画やドキュメンタリーも好きで結構視ている。


「そうだ、思い出せ」


 とはいえ、自分がこんな状況に陥るなんて当時は微塵も考えていなかった。だからそれは、うろ覚えのにわか知識でしかない。


 それでもないよりはマシだ。


「まずは、雨風を凌げる場所を探さないと。幸い、空の上ってわりに半袖でも寒くはないし、雲は水平線上にしかないから雨の心配もない」


 とはいえ、異世界だ。急に雲がかかって雨が降るとも限らない。屋根があって寝床となる場所を作るのは必須だろう。


「次に、水の確保」


 これはかなり重要だが、俺はこれに関しては少しだけ楽観視している。


「生物がいないのは気になるけど、あんだけ豊かな森があるってことは、雨なり、なんなりの水源があるはず」


 島の中央部を覆う森は、いわゆる熱帯雨林系の植生に見える。となると、必然的に水はどこかにあるはずだ。


「とはいえ、飲料に適するかは確かめないとだが」


 万が一適さない場合、煮沸か濾過が必要になるだろう。


「となると……()()()()()


 そう。サバイバル動画を視ていていつも思うのが、火起こしがいかに難しいかについてだ。現代の道具を持ち込めないタイプのやつだと大体、火起こしに失敗した者から脱落していく。


 暖を取る、煮沸する、食料を焼く、野性動物を遠ざける……などなど、火がないと出来ないことが多過ぎる。


「とはいえ……ゼロからの火起こしなんてさっぱりわからん」


 なんか良く分からない木の道具を使って摩擦熱で付けるやつとかはあるが、形を覚えていないし、作るにしても道具がない。火打ち石で付けるにしろ、どんな石でやればいいかも分からない。


「ナイフ的な何かがいるのかな……やっぱり」


 道具探しもしくは製作も必須だろう。


 人類は弱い。弱いが、類い希なる持久力と道具を作り、使いこなすその頭脳が最大の武器だ。


 そうやって俺はつらつらと今後の計画を練っていく。


 残念ながらあまり時間はない。ナイフそのものはないかもしれないが、黒曜石のように割ってナイフ代わりに使える石や岩を探す必要性がある。


「とりあえず、使えそうな石や道具がないか探しがてら、水源と寝床の確保だな」


 この島、ところどころに遺跡がある。沿岸部はさしてないが、森の中にはいくつか見えた。しかも一部は金属っぽい光沢をしていたので、希望はある。


「何かしらの文明はあったってことか。つまり、その名残とか遺物があるかもしれない」


 万が一何か見付かっても、壊れていては意味が無いと思うかもしれない。


 だけど、俺には謎のスキル――【起動】がある。


「仮説でしかないが……壊れていた時計はスキルによって強制的に〝起動〟した、だから直った。因果が逆転してるが、まあ島が浮くぐらいだから、不思議ではない」


 それならばスキル名にも納得がいく。もし仮にスキルの効果がそうだとすると、例え対象が壊れていても、スキルの効果によって強制的に起動させることが可能になる。それはつまり――希望があるってことだ。


「この遺跡のある島で、かつ授けられたのは【起動】のスキル。きっと何か意味があるはずなんだ」


 希望は多いほどいい。


 俺は大きく息を吸ってゆっくりと吐くと、頬を一度パンと叩いて、中央の森へと足を踏み入れた。


 だが俺はまだこの時点で気付かなかった。


 脅威が――空からやってくることに。


リンド君の災難は続く

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