家族に感謝
「遙っ!!」
会社から血相を変えて病院に駆け付けた母に抱きしめられた。
「ママ。痛いから…」
「あ、ごめんなさい。ケガしたのね?具合はどう?ああ、仕事なんて休むんだった」
学校を休んだのに食い意地を張って出歩いた私のせいでもあるので、あまり母は自分を責めないで欲しい。
「今日は念の為、入院してもらいますが、何ともなければ明日は退院できますよ」
お薬を点滴に注入しながら看護婦さんが請け負ってくれる。
「それは何のお薬ですか?」
「痛み止めよ。今夜はきっと痛んで眠れないと思うから」
さっき診察してくれたお医者様の方がそれ、必要だと思う。何しろすごい隈が目の下に出ていたのだから。
「こちらは飲み薬。夕食の後に飲んでね」
うーん薬が多いなぁ。何だろう?抗生物質?胃腸薬に…栄養剤?
何で抗生剤?ああ、転んだ時にひどく擦りむいたからかな。
確かに今夜眠る時になったら痛むかもしれない。今は興奮しててあまり痛みを感じていないけれど。
膝や足首、肩に手首と包帯だらけだ。
「ねぇママ。リリーは大丈夫だった?」
「それねぇ。犯人も酷い事するね。遙にもこんなにケガをさせて…」
けっこう凶悪なタイプの泥棒だ。たしかケガをさせると強盗致傷とかで罪が重くなると思うんだけど、それは飼い犬にも当てはまるのだろうか。
「リリーちゃん、動物病院に入院してるって。これで人間の事を嫌いにならなきゃいいけど」
リリーが人間の事を嫌いになったら問題だ!
もう警戒して一緒に遊んでくれなくなったらどうしよう。次に会った時に吠えられたりしたらショックだ。
「リリーのケガは酷いの?」
「動物病院のお医者様がついているから大丈夫。遙は自分のケガの心配をしなさい」
…母の言い方が何かはぐらかしているようで、リリーもけっこう酷い事をされたのだと想像がついてしまう。
「…リコちゃんのお家は?」
「窓を割られて家に入られたそうよ。ちょうどまとまった現金が置いてあったそうだけど遙のおかげで無事だったって。ちょっと貴金属は盗られちゃったみたいだけど」
「…退院したらリリーのお見舞いに行きたい…」
果たしてリリーは無事なのか。
リコちゃんもお家に泥棒が入ってショックを受けているに違いない。退院したらリコちゃん家に行こう。
自宅に断りなく他人が上がり込む、なんて悪夢だろう。
お見舞いにいかなくちゃ。
そこまで考えた時にふっとろうそくに息をふきかけられたように意識が曖昧にまってきた。
さっき点滴に足してた薬のせいだろうか。いささか強すぎじゃないだろうか。
「あ、お母さまですか?事情を少し…」
タイミング悪く入室してきた飯塚刑事の声がする。
「ごめんなさい。少し眠れるお薬を入れたところで…寝ちゃいました」
看護婦さんのそんな声を最後に私は意識を失った。
だから冬哉さんと真也が血相変えて病院に飛んできた事も知らなかったし、担任の先生やクラスメートがお見舞いに来た事にも気づかなかった。
パパも出張先からトンボ返りして来たみたいで、私って愛されているなぁと
、後から聞いてうれしく思った。