バラバラ薔薇
薔薇っていう字普通に書ける?
私は書けないけど。
私というアラサーの魂に12歳の私の身体があると思っていた。
でも、私は単なる前世の記憶があるというだけの12歳の子どもだったと思いしらされた。
上履きを隠された次の日、学校を休んだ。
どうしても学校に行く気が出なかったので思い切って休む事にした。
共働きの我が家では平日休むと家に一人でいる事になる。
やったー、二度寝だ何だと楽しかったのは10時頃まで。
後はTVをつけても面白くない。
どこぞの元アイドルと誰かがフリンだ何だと騒いでいるけど興味が沸くはずもない。
冷蔵庫を開ける。
食材はいろいろあるけど、食べたいものがない。
さりとて食べたい物が何かと聞かれてもこれだという物もない。
強いて言うならば、誰かの作った暖かい物が食べたい。
「コンビニ行こう」
ポシェットにお財布とママから借りた携帯を入れお気に入りのサンダルをつっかけて家を出た。
「んー。季節的にどうかなぁ。いいや履き替えるの面倒だし家に帰って出直すのもちょっと」
もう季節は晩秋に入っていてサンダルはちょっと季節感がアウト的な感じというのに気がついたけど、家に戻るのはやめて住宅街を抜けた先にあるコンビニを目指した。
平日昼間の住宅街は普段と違って余所行きの顔をしているように感じた。
もっと子供のころ、尊やリコちゃんとよく遊んだ公園も通りすぎた。
ママさん達と子ども達が砂場で遊んでいた。
銀杏が綺麗に色づいていて日の光に黄金色に輝いている。
綺麗だなぁ。この銀杏も最近はじっくり見る事がなかったなぁ。
今度リコちゃんを誘ってきてみよう。
リコちゃんの家の前を通る。
リコちゃんは違う学校に行っていて留守だ。
もちろんおじさん、おばさんもお仕事中でいないのだろう。
リコちゃん家で最近飼い始めたジャックラッセルテリアの「リリー」が窓辺で外を見ていて私に気が付くとしっぽを振ってくれた。
「ふふ、リリーったらレースカーテンの下から潜り込んでるから、レースが花嫁のベールみたい」
子どもらしく、暫くアルミのフェンス越しに「リリー」を愛でていると、リリーはそのうちに飽きたのかカーテンの向こうに行ってしまった。
仕方ない。帰りにまた見に寄ろう。
住宅街を抜けて幹線道路に出ると、通りの向こうには大きな店舗もあり、
コンビニのお弁当コーナーにはそろそろお昼時というのもあって、大人の人たちがお昼を選びに群がっていて、小学生の私の入る余地はないように思われた。
限られた時間で昼食をとらなければならない働いている人を優先で、と遠慮しているうちに
微妙なラインナップしか残らなかった。
3色弁当と、海鮮丼、サラダチキンのサンドイッチ。
何かこう心に刺さってこない。もちろん食べたら美味しいのだろうけど。
食べたいものじゃないんだよなあ。
唐揚げ棒と肉マンとメロンソーダを買ったけどこれじゃない感が半端ない。
「公園いって食べよう」
そう決めてリコちゃんの家の前まで来た時だった。
ガシャン
何か割れる音?なに?
リリーの吠える声。そして悲鳴。
「キャンッ!!!」
「うるせえクソ犬!!」
リコちゃん家にこんな乱暴なしゃべり方する人はいない。
おばさんはおっとりしてて。おじさんもとても物静かだ。
何かリコちゃん家で起こってる!!
それも悪い方だ!!
震える手で、ポシェットの中の携帯を取り出す。
「警察ですか?お友達の家の前にいるんですけど、留守のはずなのに中から男の人の怒鳴る声と飼ってるジャックラッセルの悲鳴が…」
「ギャン!ギャン!キャヒィィン!!」
ひときわ悲痛なリリーの鳴き声。
どこか中の様子がわかるところが無いだろうか?
リリーが心配でアルミの門を開き敷地に入る。
「あ!窓が割られてる。
…中にいるのは泥棒?」
その時の自分はどこか現実味が欠如していたのに違いない。
今、自分は小学生なのだという自覚も何もかも失念していたのだ。
「中に入っちゃだめだよ。自分の安全を確保…安全な人のいるところに避難して。」
受話器からは警察の人からの警告。
「でもリリーが…」
裏口のドアが大きく開いていた。
そこから家の中を密かにのぞいたつもりの私はハンマーのような物を手にした家の中にいる男の人と目があった。
心臓が早鐘のように打つ。
相手からは携帯をもって話しながら家の中を伺う私が見えただろう。
「あ、ああ」
何故かその時、携帯を落とさないようにポシェットの前にしまう事を優先してしまった。
後ずさる私。
「見たな」
男は断定した。
私はくるりと後ろを振り返ると一目散に逃げだした。
慌てていたので裏庭に植えてあった薔薇の棘に、着ていたカーディガンがひっかかった。
「いや、何なのこのトラップ。ここは私がかかるんじゃなく、泥棒がひっかかるべき」
パニックになりつつ無理やりひっぱると抜けたけど、これ、穴があいちゃってると思う。
走りだしてすぐ後悔した。何でサンダル履いてきた?私。
「キャァァァ!!!」
男はすぐ追いかけてきた。
玄関のところで靴を履き替えるだろうから少し時間がかかると思っていたけど、相手は土足で家にあがっていたようだった。
口からは勝手に悲鳴が漏れる。
「いやぁぁ!!!助けてえぇぇ」
足音はすぐ後ろまで迫ってきていた。