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愛と終着の奏  作者: いなほ
3/23

攻略対象といっしょ

はじまった同居。

ここが冬哉さんの「ホーム」になってくれれば。餌付け作戦開始!

「おはよっ」


一部の人(家族)から急に遥は社交的になったと不信な目で見られつつ、

今日も私は、冬哉さんに声をかける。


それまでの「遥」は内気で人見知りだったので、傍目にはイケメンのお兄ちゃん効果が抜群というところだろう。


「おねぇちゃん…」


弟の真也が今も露骨に不信な目を向けているけど…気にしないのだ。


「おはよう冬哉兄」


真也は、もう呼び捨てだ。ちくせうコミュニケーションモンスターめ。


真也の癖に生意気だ。


「おはようございます…」


対して我らの攻略対象の冬哉さんはなんかまだ他人行儀だ。

まぁ仕方ないよね。


自分が冬哉さんとの同居の言い出しっぺという事もあり、私は母を助けるために家事を手伝う事にした。



「涙ぐましいねぇ…」


ベーコンエッグが乗った皿をテーブルに並べる私を見て、新聞を読んでいた父がこちらをチラリとみて肩をすくめた。


違うからねっ!従兄に初恋して急になんか色々手伝いをはじめた風に思ってるみたいだけど、違うからっ!アラサーだった前世の記憶が蘇って子供のままじゃいられなくなっただけだからっ!


後、冬哉さんにいろいろ話しかけたり面倒見てるのは彼の破滅フラグを潰そうとしているだけなんだからねっ!!


そりゃ冬哉さん、攻略対象だけあって美形だけど。

高校生なのに妙な色気まであるけど!!


断じて下心だけだからじゃないからっ!!



「お兄ちゃん、遥、お弁当作ってみたんだー」


そうそう、彼のトラウマというかフラグ的にはこの「お弁当」というのは重要なアイテムだったんだよね。


お祖母ちゃんのツヤさんに遠慮していつも「学食で食べてるから大丈夫」って言ってたんだけど

冬哉さん、本当は皆のお弁当がうらやましかったんだ。


クラスメートの「お前いっつも学食なんだな」って言葉に人知れず傷ついて、パン買って屋上で一人で食べたりしてた事もあるんだよね。


まぁそれがヒロインとのエピソートの一つでもあるんだけど。


つっか、そのクラスメート、ちょっと相手の事情を考えて発言しろって感じよね。


冬哉さん、ヒロインの最初は下手くそな手造りのお弁当をすごく喜んで受け取ってたんだよね。

二人の親密度が上がるにつれて、ヒロインのお弁当も上達していくんだけどさ。


最後にヒロインに選ばれなかった場合、「あのお弁当おいしかったな…」って思いだすんだよ。

それもヒロインの初期の下手くそなお弁当を…。

泣けるよ。泣いちゃったよ。


遊園地で凍えて死んじゃう前に、お腹が空いたらまっすぐに家に帰るように餌付けしないと。

何もかもどうでもよくなって死んじゃう前に!

「腹へった!」って家にまっすぐ帰るようにしたくって。


「ありがとう…」


だから、そんな顔して喜ばれると少しだけ良心が疼くわー。

冬哉さんの黒髪から覗いた耳が少しだけ赤くて、私の方が子供だから背が低くて見えちゃうんだよ。

彼の伏せられた顔の表情が…。


「残さず食べてねっ」


だからおませな妹(従妹だけれども)を演じてちょっとツンとしてみる。

だって私も顔がにやけちゃうから。


くぅぅぅ。喜んでくれてるっ。やった!!



…弟よ。その不審者を見るような目はやめなさい。


「パパのは?」


「出張に持ってくの?荷物になるよ?空いた容器自分で洗える?」


「……ママァ?」


父は助けを求めるように母を呼んだ。


母はクスリと笑うと父に食後のコーヒーを手渡した。


「新幹線の車内販売のサンドイッチもおいしいわよね?」


「高いけどなー」

「ボク構内の立ち食いソバも好きだなー」

「え?真也いつ食べたの?」

「この前、サッカーの遠征に行った時。前島につきあって食べた。朝食ぬいたって言ってたからさー」

「へぇー。前島君てこの間ウチに来た子?」


話はとりとめもなくなって来た。


ふと会話に入れないんじゃないかと思って、冬哉さんの方を見たら、めちゃくちゃニコニコしながら話を聞いてた。

なんかこんなしょうもない会話ですら楽しんでくれてるみたいで、冬哉さんがめっちゃ不憫に見えてくる。


「途中まで一緒にいこう?あのねリコちゃん家で子犬を飼う事にしたんだって。リコちゃん家の前を途中で通るから子犬見られるかも?テリアっていう種類なんだって」



ううう、高学年とはいえ、小学生女子の話題なんて、こんなもの。

とても高校生男子が食いつくような話題なんて振れません。

何とかして、冬哉さんが興味を持ちそうな話題を仕入れなくては。

間違っても前世のアラサー臭がしないような。


「あ、それから冬哉君。洗濯物出してね。遠慮しないで」


母よ、高校生男子にそれを求めるか。


「あ、はい。帰ったらお願いします。」


これは何だかな。思春期女子特有のあれを出すべきだろうか。

伝説の宝刀、パパの洗濯物と一緒に私のものを洗わないでっていう奴。そして自分のは自分で洗うとか宣言しちゃう奴。

そうすれば冬哉さんも、自分の洗濯物を自分で洗濯しやすくなるだろうか。

どうせ全自動で乾燥までしちゃう洗濯機だし。


でもなー。まだ遥はそういう思春期ムーブしてないんだよなー。急に言い出したら変だよなぁ。


とか言ってるうちに…。


「遥、時間よ?大丈夫?」


おうふ。考え込んでいて時間を忘れたわー。

ちょっと巻いていかないと、冬哉さんを待たしちゃう。


さりげなくコインランドリーの場所を誘導するか。それだと外で洗濯しろって求めてるように勘違いされちゃうかなー。冬哉さんけっこう気遣いの人だし。



「遥ちゃん。襟」


おっと、冬哉さんに襟を首の内側に入れちゃってたのを直されましたー。

冬哉さんはキッチリと制服を着ているのに恥ずかしい。


「冬哉兄さん。カッコいい」

おっと学校の制服のブレザー姿がかっこよすぎます。

思わず脳内の感想がもれちゃってました。


「そんな事ないよ」


でも黒髪からのぞく耳がちょっと赤いです。


か、かわゆす。


「もう!ねぇちゃん遅すぎ!」


面目ない。弟まで待たせてたとは。


「じゃ、いこうっ」


空木冬哉さんとの同居はそんな風にしてはじまった。



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