ピザパーティ
夏樹さん、冬哉さんと話すヒロイン、
ヒロインはとてもいい子だ。それはわかってる。
でも冬哉さんと話してる所を見た時、胸がチクっとした。
わかってる。冬哉さんは普段は隠しているけれど、厭世的な所があって、それは冬哉さんが子供の時にお母様が冬哉さんを置いて家を出てっていったことに起因する。
お父様の早すぎる死。
育ててくれた祖母との死別。
ひとつひとつの出来事が積み重なって、彼は生を手放し、死を迎える。
もちろん保護者となったはずの友成叔父の裏切りも原因のひとつではあるだろう。
彼が死ではなく、生に執着するようになるにはヒロインの力がいる。
そしてヒロインも、明るいいい子だけではなく本人も気が付いていない闇を抱えている。
複雑に絡み合う本人たちの感情が、環境が、生い立ちが物語を紡いでいく。
そこにどれほど、遥のような存在が力になれるのか。
それは未知で頼りない力だ。
最近の冬哉さんは遥や真也の面倒を見てくれたり、部活に入ってみたり、前向きで活動的になってきている。
だからといってヒロインは必要ないとかにはならないと思う。
だからヒロインとの交流は必要なのだ。
だけど、胸がざわめくのを抑えられない。
「夏樹にーちゃん、それダメっ」
考え事をしていて、夏樹さんがヒロインの持ってきたコーラに手を伸ばすのに気がつかなかった。
真也の静止の声もむなしく、噴射されたコーラをかぶってしまった夏樹さん。
「あーあああ。大変!」
遥はバタバタと走ってタオルをとりにいく。
「目、目にはいった!」
目を抑えている夏樹さん。
目に炭酸、い、痛そう。
「あわわわわ」
慌てるヒロイン。
遥のスマホで対処方法を冷静に検索する真也。
「…水でよく洗い直した方がいいって。へぇー炭酸入ってると弱酸性?コーラで髪の脱色?うっそだー」
…炭酸で髪の脱色とか都市伝説だよね。
なんか大人遥の小学生時代にもそんな噂が流行ったな。
そうじゃなくてもシャワーを浴びた方がいいんじゃないかな?糖分でべとべとするかも。
「弱酸性?身体に悪そうだけど、…飲んでるよね?普通に売ってるんだし…わわ、どうしよう失明とかなったら…」
「落ち着け…風呂はこっちだ」
「すみません。すみません」
ヒロイン、めちゃくちゃペコペコしてんじゃん。
「僕のシャツで着てないのあるから、もってくるよ」
こぼれた床を掃除したりしていると軽くシャワーしてきた夏樹さんが出てきた。
「やーどうしよう。髪の色抜けちゃった。アハハ」
まさかの自虐ギャグに目が点になってると、真也が突っ込んだ。
「そんなことあるかーい。元からの色じゃん!」
「アハハ。そーでした」
髪の毛をガシガシ拭きながら、夏樹さんは独り言みたいに呟いた。
「これから、髪のことで言われたら、『コーラかぶちゃったんだ』って言うの、いいかも」
「わわわ、ごめんなさい。私ったらコーラ、振り回して」
「いいよいいよ。わざとじゃないのはわかってるし」
夏樹さんのおじいさんかおばあさんが外国の人で、夏樹さんの髪の色は明るい色だった。子供のころから先生達に『黒に染めてこい』だの近所のガキ達に『ガイジン』とか囃し立てられて嫌な目にあってきた。
物心ついた時にはその外国人だった人はいなくて、自分の周囲はハーフである親も含めて日本人顔だったから自分だけ容姿が違うのが悩みだったりコンプレックスだったりした。
「祖父母のどっちかが向こうの人で…」とかいうと「へぇーどこの国の人?」とかいろいろ聞かれて。
家庭ではデリケートな問題だったりしたので、夏樹さん自身はその事を説明するのがとても苦手だった。
だから髪の色について自分で言うの夏樹さんにとってすごく珍しい事なんだ。
「…オソメチャン?何このTシャツ…」
「叔父さんの、お土産…」
冬哉さんが持ってきたのはみどり色にピンクのカタカナで「オソメチャン」と書かれた変なTシャツだった。
「観光にきた人みたい…」
日本語がわからない外国の人が意味不明の日本語がプリントされたTシャツ着てるの、あるあるだよね。
「ぶっ!」
自分は日本人だっていう自負のある夏樹さんは今までならむきになって否定していただろう。
「オソメチャンて何だよ。謎すぎる」
「おそらく、人形浄瑠璃の登場人物だと思われる」
「ぶっ!あっはははは」
「…。僕も色違いでもってる」
「お揃いかよー。真也ー。今度一緒に着て歩こうぜー」
夏樹さん大笑いで大うけ。
ヒロインも訳もわからず半笑いである。
「よし、今みんなで着てみようよー」
真也の発案で家中からオソメチャンTシャツを集めてくる。
「何枚買って配ってんだよー。おかしすぎる!!」
かくしてみんなでオソメチャンTシャツ着て記念撮影をした。
夏樹さんめっちゃ笑い上戸。よほどツボったらしい。




