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愛と終着の奏  作者: いなほ
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空木家の人々

「それじゃ、弁護士さんから、お祖母さんの遺言状の内容を説明してもらおう」


お祖母ちゃん、空木ツヤさんは御年88歳での大往生。

亡くなる1週間前まで映画館巡りをしていたらしい。


本家を継いだ冬哉さんのお父さんは早く亡くなってしまった。

お母さまは家風に馴染めず、ずいぶん前に家を出てそのままらしい。

噂では再婚して新しい家庭を築いているそうだ。

だからずっと冬哉さんはお祖母ちゃんとの二人暮らしだった。

今も目のふちが真っ赤になっている。


「では、ご紹介頂きました私、原弁護士事務所の原敬一郎が空木ツヤさんから預かりました遺言状を説明させていただきます。」


いくら先祖代々続く旧家の本家とはいえ、大きな事業を営んでいたわけでもないので大した財産はないだろうと思っていたし、ウチの父も生前贈与を受けていたらしいので皆、弁護士先生の話をのほほんと聞いていた。


でも蓋を開けてみてびっくり、お祖母ちゃんたら株をやっていたのである。


まぁ、大方の想像通り、お祖母ちゃんの遺産は一人きりになってしまう冬哉さんがその殆どを相続し、成人するまで叔父の空木友成が後見人になる事が指定されていた。


「俺が後見人かー。どうしよう、使いこんじゃったりして」


などと笑えない冗談をかましてくれたのが、私の口にウィスキーボンボンを放り込んだ叔父である。


「冬哉君。泥船に乗ったつもりで構えていなさい」


「泥船じゃ沈んじゃうじゃん!」


「はははは。遙は突っ込みが早いなー。まぁ叔父さんにまかせておきなさい。冬哉君が立派な社会人になるまでしっかりと支えるから!」


「そうだぞー。冬哉。遠慮はいらんぞ。何でも友成に言うんだぞ。俺も困った時には力になるからなー」


そこそこ大きな不動産会社を経営している友成叔父は親せき一同の中で一番の出世株であり、みんなあの人ならば安心だと思っていた。

もちろん私も、ゲームでの友成叔父を思い出すまでは。


ところで、私の父も冬哉さんから見れば叔父の1人だが、後見人的な役回りは回ってこなかった。


「お父さんも力になってあげたかったけど、お父さん、色男すぎてだめだからなー」


「は?なんで?」


と、私が聞くといい笑顔で父は答えた。


「『色男、金と力はなかりけり』って言ってな?」


と脱力させてくれるのだった。


最も、ただでさえ出張が多いのだから、後見人には不適当とされたんだと思うけどね。


ゲームでは空木家の人々なんて、叔父の友成の他は登場していなかった。

もちろん、私、空木遙も。


こうして空木家の人々のひとりとして、こちら側から見ればよくわかる。

冬哉はもっと他の親せきに助けを求めてよかったって。

皆、血縁のある者として、それなりに冬哉の境遇を気の毒に思い、助けになるつもりでいたのだ。

その手を取らなかったのがそもそも冬哉の不幸のはじまりのような気がする。


「これから、どうする?」


ツヤさんはモダンで「庭仕事が負担」と言って冬哉さんと高層マンションに住んでいた。

そのマンションは高級ゆえに人の絆が希薄だ。


「うちにおいでよー」


だから私は、子供を装って無邪気に言ってみる。


「冬哉にぃちゃんの学校にも近いよ?友成叔父さんのところは赤ちゃんが生まれるから大変だし」


だからゲームでは冬哉君はマンションでの一人暮らしを選んでいた。


「勉強教えてほしいなー」


ゲームでは出てこなかったけど、そんな選択肢があったっていいじゃないか。

さあ『空木冬哉を孤独にしないイベント』の開始だ。










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