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それは、確かに恋だった

いきなり3人組から離れた視点でのお話。

合格発表後に由井が連絡を取ろうと考えていた相手は?

新しい赴任先は海辺の町だった。



一学年一クラス。全員がが知り合いのような小さな学校。

けれど田舎にありがちな閉塞感は感じられず、生徒も教師たちも、そして町の人々さえも、やってきた僕を笑顔で出迎えてくれた。

『任期が決まっているのなら、その時間を実りのあるものにしましょう。』

初日に挨拶を交わした校長は、そう言って微笑んだ。

ついでにと足を運んでくれていた町長も、握手をするべく優しく手を差し伸べてくれた。

『理不尽な思いもされたでしょう。どうかこの町にいる間に少しでも気持ちを癒して下さい。』

紹介してくれた先輩がここへ来た理由をよく話してくれていたのだろう。

涙が滲みそうになるのを唇を噛んで堪え、僕は改めて2人に深く頭を下げたのだった。


学校から少し歩いた高台には公園があり、桜が咲き誇っている。

ベンチに腰掛け町を見下ろせば白い砂浜が見える。心地よい潮騒がここまで微かに聞こえてきた。


身体を伸ばして深呼吸をしたところで、メッセージの着信を知らせる音が小さく鳴った。

画面には、ここへ来る前の3年間で最も深く関わった生徒の名前。



『連絡が遅くなりましたが、希望していた高校へ進学が決まりました。今日から一人暮らしです。』



そのあとに記された高校名に安堵の笑みが浮かぶ。学区外で偏差値の高い進学校。少ない枠で合格を決めるのはさすがと言ったところか。

芸術方面にも力を入れていて個性的な生徒が多いと聞く。窮屈だった中学校よりは彼女にとって過ごしやすいはずだ。



『先生にはとてもご迷惑を掛けてしまいましたが、頂いた言葉は今でも大事に残っています。先生が居たから、つまらない中学生活にはなりませんでした。有村先生にもたくさん助けてもらって、気持ちの整理が付きました。』



自分が学校を去ったあと、先輩の教師はこまめに彼女の様子を窺っていてくれた。周囲に心を閉ざした彼女を支えるのは、親子ほど年齢の離れた彼の方が向いていたかもしれない。


まだ心配は残るけれど、気持ちの整理が付いたと彼女が言うのならばそれを信じよう。

『ありがとうございます、小野先生。お元気で。』

そんな一言で締められていたメールをもう一度読み返す。文字の上であっても、久々に名前を呼ばれるのを嬉しく感じた。

『連絡ありがとう。そして合格おめでとう。高校生活がどうかいいものになるように遠くから応援しています。』

返事を一文字打つたびに彼女のことが思い出される。



音楽が好きで絵の上手い少女。

驚くほど綺麗で、見た目も中身も大人びて、けれど手先も人間関係も不器用のままだった。


君の中に僕は何かを残せただろうか。


『20歳になったときに、また会えたらいいと思う。』


いくつか言葉を並べた最後にそう打って。

少しだけ悩んですぐに消した。


送信ボタンを押し、画面を閉じて空を見上げる。



―もし20歳になるまで覚えていたら、恋人になりますか?



生徒たちが尾ひれを付けて流した噂を嘲笑いながら、冗談めかして言っていたいつかの彼女。



「生徒だけはないと思ってたんだけどな。」



周囲から距離を置かれている彼女を支えたい一心で側に居たときは、何とも思っていなかったし気付いていなかった。

そしてこれから先この想いを持ち続けるのかも、こう名付けていいのかかもわからない。


けれど、今は思う。

彼女を気に掛けていたあの日々と、幸せでいてほしいと今も願い続けるこの気持ち。



それは確かに恋だったと。

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