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遭遇

 激しい電撃が身体を駆ける。その紅い稲妻は止むことを知らず、次々と身体を襲い続ける。漆黒が世界を支配しており、床や壁は愚か、世界諸共存在しているかさえ朧げな何かが目の前で放映されている。

 ただただ流れゆく無音の光景をただただ眺めゆく蛻の殻。そこに感情もなければ意識もないのかも知れない。


「……きて……なた……どうすれ……」


 心地良いほど静かな空間に入り込む途切れ途切れの侵入者。無という世界に音という名の不協和音を生み出したそれは、どこからともなく現れた無形の存在。しかしそれは、世界と同化するように、あまりに脆弱で軽薄なものであった。


「……おくれ……解し……」


 やがてそれは消滅していくように、またはその光景に溶け込むように、または忘却されていくようにして姿を眩ませていった。


「……ぶんま……ぞ、……ション」




 冷気が身体を迸る。力が身体を押し付ける。

 身体に入り込んできた恐るべき巨大勢力によって紅の雷光と漆黒の世界は一瞬にしてひび割れ、跡形もないように消え去った。


「ったくなんなんだ、これは」


 代わりに出迎えたのは、今までの世界とは対照的な眩いと言わざるを得ない透き通った陽光であった。

 その光に覚醒を促されるかの如く、体の節々に感覚が戻り遂には動かすことが叶った。

 そしてその眩い光を遮ろうと腕を伸ばしたことにより、自身が仰向けになっていることに気がついた。


「ここはどこだ」


 低く重たい声が目の前の大自然に転がった。

 体を起こすべく地面に手をつき、声を漏らしながら重たい体を持ち上げ体勢を整えた。ざらついた地面のひんやりとした感触を得る。

 取り囲むようにして広がる緑色の草木。その蠢くような広大な大自然を前に、小さな巨体の姿がぽつりと直立していた。

 足まで隠す黒の外套で全身を覆い、白髪と顔に浮き出ている皺が目立つ、頭からは角を生やした老けた魔王がそこにはいた。

 しかしその姿に威厳はなく、その小っぽけな孤立した姿はまさに自然の異端児であり、それ以外には形容し難い存在であった。


「そういや、直前まで城にいたはずだが……」


 現状の把握のため、想起を始めようと頭に手を当て試行を開始しようとするが、


「そこで何して……」


 突如、頭を紅い雷光が再び出現し、その想起は阻まれた。

 しかし、先程まで存在していなかった明らかな違う感覚的刺激が、身体を巡り激痛が襲った。

 その痛みに呻き声を発しながら頭を押さえその痛みが過ぎ去るのを待った。


「あーあー分かったよ畜生。攻撃したいんだったら正々堂々と出てきたらどうだ。ほら俺は何もしねぇって」


 そう言うと両手を広げて周囲を見渡す。敵意がないことを知らしめると言う目的も込めて、ゆっくりと体を動かし、警戒をする。のろりのろりと手鈍い動作で辺りを見渡す。

 少量の風が周りで音を作る。緊張感が辺りを張り詰める。

 一瞬一瞬気の抜けない目に見えない何かとの攻防を続ける。木々の変化のない一定量のざわめきが続く。



 ふと、背後から迫る人工的な物音に気がついた。

 その草木を切り裂く音は、徐々近づいてきており、接触するのは時間の問題であった。


「おい、それ以上近づくな。こっちはいつでも展開できる状態だぞ」


 振り向きながら警告を行う。

 その言葉に呼応するようにして動きが止まった。


「こちらに戦う意思はありません」


 透き通った男性の声が返ってきた。


「ですから、そちらに向かわせてください」


「ふざけんな。先に攻撃仕掛けておいて、気づかれたらやめてくださいってのは都合が良すぎやしねぇか」


「なんのことです?私は何もしていま……」


「しらばっくれるな。幻影などという大層ふざけた術式使いやがって」


 敵意をがないことを伝える男性に対して、間髪入れずに怒号を飛ばす。

 見えぬ者と言葉を交わすそこに異様な空気が流れゆく。会話が成り立っていない要因もそこへの狂気さのアクセントとなっていた。


「全くもって何もかも違います。私はケルト=リヴァリエスと申します。無害の存在ですリヴァリエス家の人間と言えば聞こえが良いでしょうか?」


「ああ、リヴァリエスの人間……か」


「ご存知でありましたか。それはよかった」


 流暢な姓の言い方に、ケルトという人物は安堵したかのようなトーンで返答した。

 魔王は両手を下ろし、大きなため息を漏らす。そして手を胸ポケットのようなところへと持っていき、宝玉のついた指輪を取り出し、萎れた指にはめ始めた。

 色の輝きは、本来と比較すれば一目瞭然なほど薄れていた。しかしながら、装飾品としての価値はまだまだ廃れていないような代物であった。

 会話が途切れたことが確認できるほど無音な時が流れたため、ケルトは再び木々を裂き始め、こちらへの接触を試み始めた。


「それならそう、先に言えば良いものを!!」


 そう勢いよく叫ぶと、爆音とともに、地面から突如として現れた先端の鋭い土の塊が、対面していたケルトの方向へと一目散に向かった。

 ケルトはその音に気付き反射的に脇の草木に飛び込んで回避した。

 手段を選べなくなったケルトは生い茂った草木に突っ込み、魔王のいる平地へと駆け抜けた。

 そして、葉などがローブの至る所に纏わり付けた、ケルトと名乗る人物がその眼前に現れた。

 しかしフードで頭を覆っているため、全体の人物像を視認することは叶わなかった。


「やっぱり信用していただけなかったのですか。私は害をもたらす者ではありません」


 両手を上げ、荒げた声でそう告げた。

 しかし、無情なことに攻撃が止むことはなく、左右に出現した岩肌が、勢い良くケルトを挟み込む。

 息を吐く暇なく次の行動を迫られる。その岩が迫り来る手前に体を引き、うまく回避を行う。

 その岩石は、衝突と同時に砕け散り、瞬時に跡形もなく消え去った。


「貴様のような卑劣な肉片風情に幻影の術式を許すとは、私も舐められたものだなあ!!」


 激昂する魔王は、片手足を引く。すると、手の内に発せられた小さな燃え盛る玉が発生し、猛烈な踏み込みを入れると同時に、その火球はケルトへと発射された。

 ケルトはその火球に反応し、刹那的に膝を曲げ、その反動を利用して大きく跳躍し、魔王の方へと前進してきた。


「その角と服装から察するに、貴方はマルジェネスの魔物ですね。それもかなり上位の。戦いたいわけではないのですが」


 着用している紺のローブが激しく舞い上がり、顔を覆っていたフードの部分が顕となった。

 そこには、蒼の双眸と漆黒の短髪が白い肌によく似合う青年が、魔王の方を見つめていた。

 そして、着地と同時に腰に携えてある鞘から刀剣を抜き出し、クルクルと体の前でその刀剣を回しながら美しく戦闘態勢に入った。


「なら、これ以上無駄な抵抗は止めるこったな!!」


 そう言うと、再び右足を踏み込み、ケルトの目の前に鋭利な岩壁を出現させる。


「同じ手は効きませ……!?」


 軽く地面を蹴り、後退して回避を試みると、背後から急速接近してくる何かに気がついた。

 すかさず後ろを向くと、先程回避したはずの火の玉が、ケルトに向かって飛んできていた。

 その体勢から回避することは不可能。


「くそったれ。さっさとくたばりやがれってんだ」


 程なくして火球はケルト、及び岩石との間で衝突を起こし轟音が鳴り響いた。

 人為的に発せられたその風圧は、辺りを揺らし、砂埃を引き起こすほどのものであった。

 展開された岩石の断片は、時間と共に微小に分解されていき、最小サイズになったものらが空気と共に、どこかに飛んでいくようにして消滅を開始した。


「リヴァリエスね。ったく嫌になるほど聞いたもんだ。」


 崩れ落ちる岩石郡を眺めながら、上の空にそう語る。

 右腕を前に出すと強く硬い握り拳を作り、その拳に微量の光を纏わせ始めた。


「それはどうも。どうやら話し合いでの解決は望まれてないようで」


 言葉とともに剣で一振り。散らばりかけた岩片や砂埃は跡形もなく吹き飛んだ。

 ケルトは蒼の凛々しい目で魔王を睨みつける。


「まさか無詠唱程度で死なれてもらったら拍子抜けにも甚だしい」


 見下すようにして大振りに話す魔王。

 その言葉にケルトは反応を示した


「無詠唱で術式。詠唱術式が使えるのは魔王の血縁者である。つまり貴方は……」


「おっと、まだ名乗ってなかったな。俺はマルジェネス帝国三代目魔王、ダラス=マルジェネスだ」


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