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二匹の野獣

 分厚い大きな木製の引き戸を勢いよく横に押しのけると、むき出しのはりがのぞく高い天井、そして使い込まれて光沢を帯びた無垢材むくざいの床があらわれた。

 普段は切磋琢磨する100名ほどの門下生がしのぎを削る道場だが、今日は久しぶりに会う息子と父の二人で足を踏み入れる。

 

 ……ガイオンのやつめ。道場も継がず、反対を押し切って外国に行ったときは、母さんがどれだけ心配したと思っているんだ。

 騎士団長になったと風の噂で聞いたから、バカ息子なりに頑張っているんだろうとしぶしぶ納得した所だったのに、今度はたったの数年で辞めただと?

 イルカーダの男児が己の信念と責任を放棄するとは、なんたる不名誉。


「断じて許せんんんんん!」

「うわぁ!」


 父は引きずってきたガイオンを道場に放り入れた。


「相変わらずだなぁ、父ちゃんは……」


 よろけたガイオンが困惑気味に頭をかく。


「ふん。腹に一本、信念の槍をくくっているのがイルカーダの男。魔力に頼りきった軟弱な他国の男と一緒にするでない」

「ははは。そのブレなさ、逆に安心するぜ」


 場を和ませようと笑うガイオンだったが、それが逆に父の逆鱗に触れた。


「笑い事ではぬわぁぁぁぁい!」


 父が魔力を込めた足で思い切り床を踏みしめた。

 ドーーン! と爆弾が爆発したかのような大きな音とともに、道場全体がゆらゆら揺れる。


「軽々と仕事をやめる人間など、どこの誰が信用できる。困難があろうとも同じところに長く勤め、組織に恩を返すのが常識だ! 薄情者め!」


 父の言葉を聞いたガイオンの怒りスイッチがカチンと入る。


「なんだと? バカバカしい。たまたま最初に入った場所でしか働けないなんて、そんなんただの博打じゃねぇか。一度きりの人生、自分のために選択して何が悪い。人間の中身も見ずにそんなことで無くす信用なら、こっちからちぎって捨ててやらぁ!」


 怒れるガイオンが親指で鼻をはじくと、さらにたたみかけるように言った。


「我慢が美徳の時代はとうに終わってるんだよ。良い悪いは自分で判断するんだ。父ちゃんもそろそろ変化を受け入れろよ。変化について来れないのは停滞じゃない、時代に置いて行かれた分退化してるんだ!」

「ぬわぁぁんだとぉぉぉぉ⁉︎」


 反論されて頭から湯気を出した父親が、自分の両頬を思い切り叩いて気合いを入れた。そして息子をしつけ直そうと闘志をむき出しにして構える。


「そのたるんだ根性、今ここで叩きなおしてやる!」


 経験上、このあと本気のけんが飛んでくることを知っているガイオンは、どうするべきか野生のカンを働かせた。


 そしてガイオンの本能はこう言っている。


 ————られる前にヤれ。


「……望むところだ」


 真剣な面持ちでにらみ合う親子から、闘志と言う名のオーラが燃え上がる。微動だにせずシーンと静まり返った道場。あまりの隙の無さから、お互い攻撃を仕掛けられずにいた。

 そして二人の額から汗が流れ始め、一粒のしずくが床に落ちた瞬間。

 どちらが合図したわけでもなく、両者同時に足を踏み出した。


「てぇぇぇぃぁぁぁぁ!」

ぁぁぁぁぁ!」


 雄叫びをあげる二匹の野獣。

 烈火の如く、そのこぶしが交差した。

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