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フワフワ布団とポカポカ朝陽

 三足の義足を前に、目をキラキラ輝かせる私、ユーリ、ガイオン。そして、食い入るようにながめるアイザックとバーデラック。みんなを前に、芽衣紗は「へっへーん! すごいでしょ?」と、腰に手を当てて得意げな顔をした。


 台に並ぶ三足の義足は、先ほど昇ったばかりの朝日を照り返して輝いている。


 沢山の宝石がキラキラ光るゴージャスなハイヒールの義足。ロボットのようにたくさんのパーツで出来た、いかつい義足。細かい装飾が見事に彫り込まれている鎧のような義足。


 正直言って、全部カッコいいい。

 特にロボットみたいなやつ。

 私が使いたいくらいだ。


 それなのに、当の本人は布団をかぶって現実逃避をしている。


「ちょっとーサミュエル! なんで布団かぶってるの?」


 私はピョンとベッドの上に乗っかり、サミュエルの布団を剥がそうと引っ張った。私に続き、ユーリもピョンと隣に来る。


「そうだよサミュエル。めっちゃカッコいいじゃん! ちゃんと見てみろよ」


 二人に乗っかられたサミュエルはさらに布団をかたくにぎりしめ、籠城ならぬ籠布団を決め込んでいる。どうしても出てきたくないなら、私にだって考えが……。


「えーい! これでどうだぁぁ!」


 私とユーリは布団の上からサミュエルをこちょこちょくすぐった。孤児院では、朝寝坊する子はいつもこうやって起こす。これでどんなねぼすけもすぐに起きるのだ。

 二人にくすぐられてもぞもぞ動くサミュエルが、耐えきれなくなって「うがー!」と布団をひっくり返した。


「やめろー!」

「きゃーっ! あははは! サミュエルが怒ったぁ!」

「うわっ! あははは!」


 私とユーリが布団と共にひっくり返されて転がった。

 その様子に微笑むアイザックが、うっすら涙を浮かべて「良かったな」とつぶやく。


「むぅ……いくらなんでもその義足は派手過ぎるだろ。俺はこんなの使えないぞ!」

「派手じゃなくって、おしゃれ! 私の昔の彼女に作ってあげたやつなんだけど、おしゃれなひとだったから色んなデザインの義足を作ったの。はりきってたら作りすぎて余っちゃったんだけど、サミュエルに再利用できてよかったぁ」


 ふふふ、と笑う芽衣紗に、サミュエルが呆れてため息を吐いた。


「はぁ、女物の再利用かよ」

「やだ、サミュエル。女物だからって私の発明を馬鹿にしないでちょうだい。なんてったって、ここには……」


 芽衣紗が義足の側面を押すと2㎝くらいの小さな引き出しが出てきて、中から何かを取り出した。


「じゃーん! 口紅が入ってるんだから!」

「……! そんな機能はいらない!」


 顔色をさらに曇らせたサミュエルがまたしても布団にもぐり「お前らはそうやっていっつも俺をおもちゃにするんだ」と言って拗ねてしまった。


 そうか、サミュエルはこうやって龍人と芽衣紗にいじられてきたのね。

 だからここに来たくなかったのか、と私がうなずいていると、芽衣紗は何かが面白かったようでケタケタ笑いだした。


「ごめんごめん、おもちゃになんかしてないってば。私もお兄ちゃんも、サミュエルが好きなだけ」


 今度は芽衣紗が布団をかぶっているサミュエルの上に乗っかり、「ねえ、出てきてヨ」と言ってじゃれだした。非常に楽しそうだ。

 そう感じた私は、再び芽衣紗の横に「えいっ」っと飛び乗った。


「あー、重い! 降りろー!」

「女子に重いだなんて、何て失礼なやつだ! このやろー」


 芽衣紗が布団の上に頭突きした。


「いてて……」

「きゃははは! 芽衣紗、ちょっと強すぎるって」

「お前ら、俺は病人だぞ……一応」


 孤児院で子どもたちとふざけている時のような感覚に楽しくなった私は、芽衣紗と一緒になってサミュエルの上で遊んだ。


 あぁ、本当にサミュエルが帰ってきてくれてよかった。

 もし本当に義足が嫌なら、やっぱり私が治してあげよう。


 そう思いながら、サミュエルを挟んで芽衣紗と仰向けになって休憩した。 

 布団の上で暴れたせいで部屋中にほこりが舞い、それがきらきらと朝陽に照らされている。


 フワフワの布団と高度を上げた太陽が温かくて、なんだか気持ちが良くなってき……。


 …………

 ……………………




「あれ、なんかシエラ寝てないか?」


 シエラが突然静かになったことにユーリが気が付いた。


「がははは! 昨日は一睡もしないで生命の樹に行って帰ってきたからな。疲れたんだろう。少し寝かせてやればいい」

「そうだな。この状態になったシエラは、無理やり起こすとジャウロンと間違えて噛みついてくるんだ。触らぬシエラに祟りなし。しばらくそっとしておこう」

「そうだね、シエラちゃん頑張ったもんね。偉い偉い」


 芽衣紗がシエラの頭を撫でて、ピョンとベッドから降りた。

 そして、嫌な予感を感じたサミュエルが、そっと布団から目を出して周りを伺う。


「あ、そうだ。そろそろダイバーシティの中央公園で朝の太極拳が始まるよ! みんなで行かない?」

「おい……」

「太極拳? なんだそれ、かっこよさそう!」


 芽衣紗の提案にユーリが目を輝かせると、ガイオンもそれに便乗するように目を輝かせた。


「太極拳だと? 強いヤツがいるのか?」

「いるいる! 武術の達人がゴロゴロいるよ。サミュエルはシエラちゃんくらいのころ、その人たちから戦い方を習ったんだから。呼吸法とか気の流し方とかも、色々ね」

「うぇぇ⁉ マジかよ! それは行かなきゃ!」

「おい……お前ら」


 サミュエルがガバッと体を起こしたが、みんなは太極拳の話で盛り上がっているので気が付かない。その様子を見ていた龍人がクスクス笑った。


「くっくっく。サミュエルは病人だからお留守番だね。まあ、しばらくゆっくりすることもなかったんだし、栄養ドリンクを飲んでから寝ててよ。エマ、カロリーバランス持ってきてあげて。話の続きはまたシエラちゃんが起きてからにしよう。じゃ、また」


 手をヒラヒラ振る龍人に、エマが「はい、龍人様」と言ってドリンクを探しに退室すると、他の人たちもぞろぞろと部屋を出て太極拳に向かった。


「おい、これはどうするんだよ……」


 ポツンと一人残されたサミュエルが、よだれを垂らしながら掛け布団の上で熟睡しているシエラを困惑しながら見下ろす。そこに出て行ったはずのアイザックがひょこっと戻ってきて、扉の外から顔だけのぞかせて言った。


「シエラがかわいいからって、変なことするなよ」

「ば……! 何を言ってるんだお前は、本当に……」


 頭をガシガシかくサミュエルが、枕の上に倒れ込んだ。

 そして、エマが持ってきたカロリーバランスをチューチュー飲んでため息をつく。


「本当にお前らは、俺をなんだと思ってるんだ……」


 見守るような視線をシエラに向けたサミュエルは、ささやいた言葉とは裏腹に自分でも気が付かず小さな微笑みを浮かべていた。

 静かな部屋に聞こえる、シエラの寝息に耳を傾けながら。

 


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