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龍人からの伝言

 ジュダムーアは、少年のような顔には似合わず、凍るように冷たい目で龍人を見下ろした。


「龍人とやら。ここは死を言い渡された者がいると聞いてる。そのわりには随分と建物が多いように見えるけど、ここには一体何人の患者がいるんだ?」

「はい。こちらにはおおよそ一千人の患者が住んでおります」

「一千人? 冗談だとしたら面白くないぞ。すぐに死にそうな手の施しようがない病人が送られてきているのに、それだと病人は生きているということになるじゃないか」

「お言葉ですが、ほとんどの患者は今も存命です。ジュダムーア様。神の手を持つ私が治療しておりますゆえ」


 ジュダムーアが不機嫌そうに目を細めた。


「……じゃあ、病気が治った人たちを呼んでくれ」

「恐れ入りますが、一体どのようなご用件で?」


 その言葉を口答えと受け取ったジュダムーアが、全身から静かに怒りを滲ませ龍人に向かって指をはじいた。

 すると、目に見えない弾丸のような打撃がみぞおちを直撃し、そのまま龍人は胸を押さえて膝をついた。口から一筋の血液が流れる。


「がはっ……」

「なぜ言う必要がある。無駄口を叩いていないで言われた通り連れてこい」


 口から血を流しヒューヒューとか細い音を漏らしている龍人は、かろうじて呼吸を続けるのが精いっぱいで、ジュダムーアの命令にも動くことができないでいた。

 その様子を見たジュダムーアはさらにイライラを募らせる。

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。ライオットならこの程度の攻撃などなんともないだろう」

「わ……私はライオットでは、ありません。レムナントでもありません。だから、彼らのような頑丈な肉体ではないのです。なぜなら……」


 ジュダムーアが、疑わし気に邪悪な赤い目を細めた。

 その様子を確認した龍人は、青白い顔でニヤリと微笑んだ。


「私は古代種なので」





 ————そのころ、トライアングルラボでは。




「どうしよう、ねえ、どうしよう! 絶対危ないよね」

「どうしようって言ったって、……どうしよう! 相手はジュダムーアだぞ」

「良く考えたら、龍人だって一万年も生きてるってバレたら、絶対危険だよね」

「ああ、バーデラックにどんなことをされるか……」


 龍人がモルモットにされている姿を想像して、私とユーリが右往左往していると、マスカットのいい香りと共にトワが近寄ってきた。


「はーい、みんな。紅茶を入れてきたわよ! お茶会しましょう♪」

「本当にお茶会するの⁉」


 ……確かに龍人は「お茶会でもしてて」って言ってたけど、そんな場合じゃないよ!


 私は両手で自分の顔を挟み、いつも通りのニコニコ顔でお茶を配っているトワを眺めた。


「まあまあ、シエラちゃん一回座って。お兄ちゃんなら一人で勝手になんとかするからほっとこう。むしろ、ロールプレイングゲームの実写版だと思って楽しんでいると思うよ。できれば私が行きたかったくらいだもん」

「ゲ……ゲーム?」


 一口お茶を飲んだ芽衣紗に、トワが「私も行きたかったです」と言って二人で笑っている。芽衣紗はトワの製作者だけあって、どちらもよく似ている。


 いつまでもおろおろしていると、トワが「良いから良いから」と背中を押して、お茶会の席に座らせた。

 正直、今はお茶と言う気分ではないのだが、目の前にあるので仕方なく私も一口飲む。

 すると、口の中が芳醇なマスカットの香りで満たされ、紅茶の渋みと合わさりホッとする感覚が胸に広がった。


「うわっ、なにこれ。めちゃくちゃ美味しい!」

「でしょでしょー? 美味しく入れたもの。ラボではシエラちゃんの好きなマルベリーマッシュルームも栽培してるわよ。あとで焼いてあげましょうか?」

「えっ! マルベリーマッシュルーム⁉」


 トワの素晴らしい提案に、私の目がキラキラ輝いた。


「こら、シエラ。お前はすぐ食べ物につられるんだから。それより龍人の心配が先だろ」


 ユーリが私の頭をポンと叩いて注意した。

 私が下唇を出して反省すると、口を尖らせながら何かを考えていたイーヴォが話し出した。


「それにしても、ジュダムーアはなんで来たんだろう。自分からこんなところに赴くなんて珍しいよね」

「んー、昨日の宴会で救護隊長さんに聞いた話では、イーヴォが煎じた命の妙薬の残りが少なくなってきたせいで、機嫌が悪くなってるんだって言ってたけど……もしかして関係あるかしら」


 トワが天井を見ながら顎に指をあててつぶやき、「サミュエルは隊長さんから良い情報聞けた?」と問いかけた。


 ガイオンが「なんでサミュエルが隊長の話を聞いたんだ」と不思議そうに顎を撫でていたので、昨日の和服のコンパニオンはサミュエルだと教えてあげた。ガイオンがびっくりすると、サミュエルが嫌そうな顔で私を睨んだ。


「俺は、ボルカンの温泉は長寿に効くらしく、ジュダムーアが定期的に湯治に行っていると聞いたぞ。ボルカンではエルディグタールよりもシルバーの寿命が長いらしい」


 温泉って、アイザックのところで私とトワが入ったやつだよね。

 ジュダムーアも温泉に入るんだ。


 私がサミュエルから目をそらし、温泉に入るジュダムーアを想像していると、今度はガイオンが大きな声で言った。


「あー、それなら明日だな。明日、俺はジュダムーアの護衛でボルカンに行くことになってる。ってことは、長旅の前に病人の魔石でも搾取しに来たってことか?」

「あり得るわね。救護隊長さんも、魔力を使いすぎると寿命が短くなる可能性があるから、できるだけ魔力を消費しないように気をつけてるって言ってたもの。よっぽど執着がありそうよ。だから、旅の前に他人の魔石で魔力を補充しようと考えてるのかもしれないわ」

「ということは、裏ダイバーシティにいる住人の命が危険にさらされているということだな。人々から見放された人たちだとしたら、世間的には死んでいるも同じ。簡単に命を奪われてしまうだろう。これはまずいな……」


 そう言ったアイザックが、小さく首を横に振って頭を抱えた時だ。


 パタパタパタッと、小さな羽音がトライアングルラボに内に聞こえてきた。

 のんびり毛繕いをしていた白猫のクイーンがピクッと上を見る。

 私もつられて上を見ると、白い小鳥が小さな羽を羽ばたかせ、それからちょこんとサミュエルの肩に止まった。シジミちゃんだ。


 眉をひそめてシジミちゃんを見ているサミュエルに、全員がかたずを飲んで様子を見守った。そして、サミュエルはしかめっ面のまま目線だけを動かし、私たちを見て言った。

 

「龍人からの伝言だ」


 苦渋に満ちた顔で一度目を閉じたサミュエルが、再びゆっくり言葉を紡いでいく。


「たった今、あいつはジュダムーアと一緒にエルディグタール城に向かった」

 

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