鳥のように早く
ユーリがローストジャウロンをガイオンの席に持って行った時。
————あれ? ガイオンがいないぞ。
そこに座っているはずのガイオンがいなくなっていた。
できるだけガイオンに関わりたくなかったユーリは、「よし、今のうちに」と料理をテーブルに置いた。それに気が付いたママがユーリを見上げてニコリと笑う。
「あら、ユーリ君。お手伝いありがとう」
「うん! それより……どこ行ったの?」
ユーリは目線でガイオンのことを示した。
「あぁ、お手洗いに行くって言ってたわ。沢山飲んでいたから」
テーブルの上には、飲み干されたグラスや酒瓶が沢山並んでいた。それらを黒服たちがおぼんに乗せ、入れ代わり立ち代わり片付けていく。
同じテーブルを囲んでいる他の男たちは、宴会が始まって三十分しかたっていないというのに、すでに全員赤ら顔だ。ガイオンがいなくなり、男たちやママ以外のコンパニオンもほっと一息ついているようだ。
「ママも大変だね」
「ふふふ、いつものことよ。ありがとう」
役目が終わったユーリは、ふと入口へ目を移した。
この宴会場は、三か所の入り口がある。
ユーリは、ガイオンの席から近い入口、中央、そしてシエラがいる一番遠い入口を見た。
すると、あろうことかトイレに向かったはずのガイオンが、なぜか一番遠い入口にいるではないか。シエラはよそ見をしていて、背後に立つガイオンに気が付いていない。そしてひょいっと米俵のように脇に抱えられてしまった。
「やばい……!」
シエラの危機を察したユーリは、慌ただしい黒服たちの間を縫って走った。
しかし、入口にたどり着く前に、シエラを抱えたガイオンは廊下を歩いて遠ざかっていく。
「シエラ! くそ……! なんでガイオンがシエラをさらっていくんだよ」
焦ったユーリは黒服たちを無理やり押しのけ、どんどん遠ざかっていくガイオンの背中を追いかけた。そして、なんとか廊下を歩いているガイオンの姿を捉えた。
少し離れているが、ここまでくれば追い付けない距離ではない。
————今度こそ、俺がシエラを守るんだ!
相手が騎士団長だろうがなんだろうが関係ない。
今ここでシエラを助けることだけが重要なのだ。
ユーリの鬼気迫る気迫が、陽炎のようにゆらりと揺れその体を包みこむ。
「綿中蔵針……」
今まで習ったことを思い出し、全身の力を抜いて姿勢を低くしたユーリ。
狙いを定め、キッとガイオンを睨み上げた。そして、前に進むためだけに勢いよく床を蹴りつけ、一直線にガイオンを目指して走る。
まるで、空を滑降する鳥のように。
————あと一歩、シエラがすぐそこにいる!
「待て、ガイオンッ!」




