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婚約前夜 16

 火の起こし方は、サミュエルに教えてもらって知っている。

 爆炎は、指パッチンの火花の、ものすごくでっかい感じだ……と思う!


 ジュダムーアを止める。

 私はその一心でありったけの魔力を集めつつ、サミュエルがゴォォォォッと炎を噴き出す姿をイメージした。

 すぐに十分なエネルギーが杖へ集まり、ジャウロンが抱えているピンクの宝石から光が漏れ出す。


 ……今だ! いけぇぇっ!


「爆炎っっっ!」


 ブンッと杖を振ると、肩から指先に向かって滝のような魔力が流れた。腕がビリビリしびれる。

 そのまま力を解放すると、勢いよく炎が噴き出し、杖が描いた軌跡の通り横一直線に炎の壁を築き上げた。吹き付ける熱風で髪の毛が逆立ち、炎で礼拝堂が赤く染まる。


「わ! できたっ! ユーリ、できたよ!」

「すごいな、いつの間にできるようになったんだ?」

「今!」

「い、今⁉」


 私を見るユーリの顔に「鉄砲玉」と書いてある。いつも通りの反応だ。

 サミュエルの真似がうまくいって喜んだのも束の間、私の耳に地を這うような低い声が聞こえた。


「枯れ木のシエラァァッ……!」


 私は「ヒィッ」と小さく悲鳴をあげ、ユーリの袖をガシッと掴んだ。怖い!


「せっかく命を助け、さらには伴侶にしてやろうと言っているのに、なぜボクに歯向かうんだ!」


 ジュダムーアが手で払い、いとも簡単に炎のカーテンを消し去った。


「国の……人類の頂点に立てるというのに、自らその機会を捨てるというのか」


 ジュダムーアは怒りつつも、腑に落ちないと言いたげに目を細めた。

 しかし、私の方はその言葉の方が腑に落ちない。人類の頂点がなんだというのだろう。

 私は勇気を奮い起こし、ジュダムーアを指さして言った。


「頂点ってなに? そんなの、私にとってはなんの魅力もない。私は、私のまま生きていきたい。ここにいるみんなと一緒に!」

「こいつらがなんだというのだ。魔力も弱い価値のない、ただの人間じゃないか」

「……価値がない? 魔力が強いのもすごいと思うけど……なんでこの国はこんなに魔力に価値があるの?」


 物心がついて、初めて自覚した周りと自分の違い。

 辛い思いをしたこともあるけど、みんながそのままの私を受け入れてくれたから今の私がある。


「私はライオットの村で一人だけ見た目が違って、村の人から仲間外れにされてきて、あの村では私が一番価値がない人間だった。でも、このお城に来たら、ライオットの人たちはあなた方に目を合わせることも、自由に話しかけることも禁止されていた。本当の価値って、いる場所によって変わるものなの? 私の仲間は、どんな私でも受け入れてくれたよ」


 ジュダムーアの目が不機嫌そうにさらに細くなった。


「私の育てのお母さんは言ってた。本当の価値は目に見えないし、他人が測ることも、誰かと比べることもできない。だから、本当の価値が見える人になりなさいって。私の生みのお母さんは、人種じゃなく、その人の中身を見てライオットのお父さんを選んだ。人種を超えた結婚は罪になるって知っていたのに、お母さんにとって、人種は問題じゃなかったよ。ジュダムーアは、魔力にどんな価値を感じているの? 私が知らないことがあるのかもしれないから、教えてちょうだい」


 私の言葉に、一呼吸置いてからジュダムーアが声を荒げて言った。


「強い人間に人は従う。力こそ全てなんだ。力のないものに人はついては来ない!」

「……? ここにいるみんなは、誰かの力に従って動いているわけじゃないよ?」

「うるさい、うるさいうるさいうるさい! お前もボクの力でねじ伏せてやる!」


 怒りで興奮し切ったジュダムーアが、私に杖を向けている。攻撃してくるつもりだ。


 ……爆炎は効かなかったし、どうしよう!


 その時、私は目の端で影が動いたのに気づいた。

 ユーリがいつの間にかジュダムーアの頭上にいた。回転する双剣で空を割いて風を渦巻き、光の速さで落下していく。あまりの速さに、ジュダムーアがかろうじて手をかざす。


「やあぁぁぁぁぁぁっ!」


 反応しきれなかったジュダムーアが右の肩を切られた。真っ赤な血液が指先を伝い、ポタポタと床にしずくを落とす。傷に手を当てたジュダムーアがギロリとユーリを睨んだ。

 切りつけたあと、反動を利用して後ろに飛んだユーリが、床の上を滑りながら停止する。


「一度ならず二度までも……」


 ジュダムーアが牙を剥いた時、間髪入れずに別の声が聞こえてきた。


「氷瀑!」


 礼拝堂の空気が、一気に冷気で満たされた。

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