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恋と略奪  作者: お茶漬け
7/17

虎は喉を鳴らす


 最終的に学校に着くまで本当に名前を呼ばされ続けた。呼ばなくなると笑顔で威圧される。

 伊玖になってまだ二日目朝で、既に疲労困憊だ。

 

 「いーっくせんぱーい!」

 

 私がよろよろしながら校舎までの道を螢を連れて歩いていると、入り口の所で誰かが全力で手を振っている。間違いでなければ私の名前を呼んでいるはず。

 

 「あれは……」

 

 「(みなみ)琥太郎(こたろう)様ですね。お嬢様、目が悪くなられましたか?朝も、寝ていたのが頼久様だと直ぐにお気づきになられなかったようですし」

 

 「多分視力は大丈夫」

 

 「それなら結構です」

 

 私は名前を聞いた時点で足を止めた。

 今日はなんなんだ。なんでこんなに攻略キャラクターに会わないといけない。

 (みなみ)琥太郎(こたろう)恋奪(こいだつ)唯一の年下キャラで、十五歳。晴れた空の色をしたぴんぴんはねた髪を、前髪だけ上げてピンで止めている。つるりとしたおでこと、クリっとしたグレーの瞳が特徴的な可愛い要員だ。伊玖とは中学からの付き合いで、図書委員の先輩後輩だった。高校に入って私は委員に入っていないが、何故か懐いてきた琥太郎はこうやってよく私に会いにくる。

 ……しかし琥太郎って呼びにくいな。

 

 「琥太ちゃん……」

 

 「こたちゃん?」

 

 急に聞こえた声にビクッとする。俯いて考え事をしていたせいで、琥太郎がすぐ目の前に来ていることに気づかなかった。しかもつい漏らしてしまった言葉まで聞かれてる。

 

 「それって、僕の呼び方だよね?」

 

 「これは──」

 

 「いいよいいよ!可愛い!これからは琥太ちゃん、って呼んでね、伊玖先輩!」

 

 満面の笑顔を向けられる。私は無意識に口角が引き攣るのが分かった。画面越しに呼びかけていた名前をまさか聞かれるなんて。なんか一歩後ろにいる螢にも冷たい視線を向けられている気がする。

 しっかしなんなんだ本当に。なんでこんなに名前イベントが起こる。名前イベントは攻略キャラクターの好感度を確かめる上で大切なイベントだ。好感度が上がるにつれて名前の呼び方が変わり、下がると戻ってしまう。今日朝から起こったことは、間違いなく名前イベントとしか思えない。伊玖目線のストーリーなんか無かったから分からないけど。

 

 「じゃあ先輩、また会いに来ますね〜!」

 

 「うん、またね……」

 

 「お嬢様、(わたくし)も失礼させていただきます」

 

 「学校では敬語やめようよ……って聞いてないし」

 

 私の教室の前まで三人で向かい、着いたところで別れる。琥太ちゃんには疲れた声で別れの挨拶を、螢には提案をしたけどどちらも華麗に無視された。

 教室に静かに入る。お金持ち学校だけあって、以前の私の通っていた学校のようにうるさくない。話していても小声に近い。

 見慣れた風景のはずなのにどこか慣れず緊張してしまい軽く見渡すと、私の視界に焦げ茶色の見慣れすぎた髪型の子が入った。

 

 ──ヒロインだ。

 

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