終わりではなく始まり
「──お嬢様は何も学ばれていないご様子。再教育が必要ですね」
「はぁ!?お前何様のつもり!?誰に向かって再教育な……んて……?」
「……お嬢様?」
突如思い出した妹の声。深い恨みの篭もった声とともに突き刺された刃の痛み。全て覚えてる。でもなんで……。
「お嬢様?」
聞きなれたはずの男の声がまったく馴染みのない声に聞こえる。お嬢様って誰?分からない。その男の顔を見ても、今は自分を殺した妹の顔にしか見えなかった、妹の顔をした知らない誰かが近づいてくる。怖い怖い怖い怖い怖い……!!
「い、いや……」
「おじょ……」
「いやあああああああああっっっっっっ!!!!!」
伸ばされた手に恐怖の感情は振り切り、私は叫び声を上げると気絶した。
目を覚ます。
少しの間見ていた夢の中で全てを思い出した。私は一度死んだ。実の妹によって殺されたんだ。
とある理由から引きこもりをしていた私。私がそれまでにかせられていた親からのプレッシャーに、今度は妹が応えることとなった。きっと妹は堪えられなかったのだろう。自由で遊ぶことが大好きだった妹。何もかもに抑圧され、ただ我慢し続けるだけの生活なんてできるはずがなかった。そして狂ってしまったのだ。
ここまで思い出してみても、確かに私は殺されたはずだった。なのに私は生きている。そして殺される前と一つだけ違うことがあった。
まったく知らない記憶がある。
いや、知っているといえば知っている。自分の今の体で経験したことだし、記憶にある人の名前だって覚えがある。でもおかしい。その人達は実在しない人達で、画面越しでしか会えないはずなのに……。
「──お嬢様!」
部屋に入ってきた男の人が、目を開けている私を見て驚きの声を上げた。
この人だってそう。この人も画面の中にいたはずなのに……。
「お目覚めになったのですね。良かった……」
「えっと……、螢?」
「はい、貴方様の下僕、早麻螢です」
「……」
無言になる。
安心した様子を見せる男の人に、相反する二つの記憶の確認のため名前を呼んだだけでご丁寧にポジションまで言われてしまった。下僕って何。
そこは置いといても、この男の人は螢であっている。だとしたら確認するのはあと一つだけ。
「私は……?」
「私の大切な主、喬都目伊玖様です」
あぁ、やっぱりそうなんだ。
私は一度確かに死んだ。そして何らかの理由で喬都目伊玖に生まれ変わったか入り込んだんだ。生まれ変わったのだとしたら、なんであのタイミングで思い出したのか分からない。入り込んでしまったのだとしても、何故伊玖だったのか、伊玖がどこへ行ってしまったのかは分からない。
とにかく私はもう一度自分の意思で動く体を手に入れた。
そしてこの体の元の主、喬都目伊玖は乙女ゲームのヒロインのライバルである。