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恋と略奪  作者: お茶漬け
16/17

犬は駆け回る 1


 僕、染野(そめの)廉士(れんじ)には双子の姉がいる。

 名前は恋叶(れんか)。両親は大恋愛で結婚をしたので、娘にも同じような恋をしてほしいと付けた名前らしい。

 そんな姉は幼い頃から意味の分からない発言をする子だった。

 僕にとっての姉は恋叶しかいなのに、自分には一つ上の姉がいる、会いたいと繰り返し騒ぐのだ。学校に行けば上の学年のクラスにその「お姉ちゃん」を探しに行き、いないと泣き叫ぶ。

 最初は僕もそんな姉が怖かった。名前を呼ぶだけで泣き叫ばれ、「あたしは陽子なのっ!」と言われる。陽子が誰なのかはよく分からなかったが、恋叶がそう言うならと思い呼んでも今度は「その名前は嫌い!」と言われる。どうしたらいいのか分からなかった僕はいつしか「姉さん」と呼ぶようになった。

 僕はそんな姉さんが苦手でも、嫌いになることはできなかった。絶対にいると言い張る姉さんのお姉ちゃんを探すために、女装して学校に通うぐらいには姉さんが好きだった。

 

 「廉士」

 

 前から名前を呼ばれたので顔を上げると、校門に姉さんが立っていた。中学から外に出なくなった姉さんが外に出ているのは珍しい。

 僕は駆け寄り、同じ目線のそっくりな顔を見返す。

 

 「どうしたの?こんな所にいるなんて珍しいね。もしかして学校に通いたくなった?」

 

 僕の質問に姉さんは笑顔で首を振るだけ。最近は泣いていることが多くなり、笑った顔を見たのは久し振りだ。

 

 「見つけたの」

 

 「……え?」

 

 「お姉ちゃんを見つけたの」


 言われた言葉が信じられなかった。

 僕がどれだけ探しても見つけられなかった姉さんのお姉ちゃんが、いた……?

 

 「見つけられるわけがなかったんだよ。だって、あたしと同じでまったくの別人になってるんだもん。でもね、お姉ちゃんはお姉ちゃんのままだった。あたしには分かる。あれはあたしのお姉ちゃん」

 

 延々と喋り続ける姉さんの声は流れていくだけだった。

 僕はこの時、どうしようもない喪失感に見舞われていた。僕が何をやっても関心を示さなかった姉さんが、お姉ちゃん探しだけは喜んでくれた。僕はそれが嬉しくて嬉しくてしかたがなかったんだ。

 

 「廉士?」

 

 「あ……」

 

 反応を示さない僕に不思議そうに名前を呼ぶ姉さん。

 

 「聞いてた?あたしが明日から学校に行く」

 

 「え?」

 

 「お姉ちゃんはこの学校にいたんだよ。だからあたしも明日から通うことにしたの」

 

 それからのことはあまり覚えていない。次の日早速学校に行った姉さんは、喜びを語ったと思ったら急に落ち込んだりと激しかったけれど、どこか遠いことのようだった。ずっと姉さんには僕だけだと思ってたのに、お姉ちゃんが見つかった瞬間遠い人のように思えてしまった。

 僕は本当は通う予定だった学校の休学を取り消し、本来の生活に戻る。それがなんだか許せなかった。

 

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