エピローグ
「恋叶がね!私のことをお姉ちゃんじゃなくて伊玖って呼んでくれたの!」
「それは喜ばしいことですね」
「私、少しは成長できたのかな……?」
「お嬢様は日々成長してらっしゃいますよ」
長閑な昼下がり、私と螢は自宅の庭でお茶を飲んでいる。
螢は高校を卒業し、大学へ進学。私は三年生に進級した。螢は自分の夢へと確実に進んでいっている。
私はとりあえず一人で抱え込まず、悩んだら誰かに相談することを決めた。それだけでも多くのことが変わるように思えたからだ。でも──。
「私、将来どうしよう……。早く結婚でもしちゃおうかなぁ……」
フッと自分の将来に不安になりそんな言葉をこぼしてしまう。すると隣でお茶を飲んでいた螢が見事にそのお茶を吹き出した。
「螢っ!?」
「誰と」
「え?」
「舞雪は誰と結婚する気?」
「えっと……」
最近気づいたのは、私が学校などで伊玖として過ごしている時には執事口調、自宅などで舞雪として過ごしている時には素の口調と、螢の口調が変わること。
「け、螢が口調変える理由教えてくれるなら話す……」
「本当?」
「うん」
気になっていたことを聞けるなら好きな人くらい話してみせよう。
「境界線なんだ」
「境界線?」
「そう。伊玖はやけに俺を気に入っていたから、少しでも距離をとるために執事口調にしたんだ。そうすれば主と下僕以上の関係ではないとすぐに分かるだろう?でも舞雪は違う。それ以上の関係になってもいいから素の口調なんだ」
確かに伊玖は螢を気に入っていたなー、とふんふん聞いていたが、最後の言葉に固まる。それ以上、とは……?お友達、ではないですよね?
「さ、俺は言ったんだ。次は舞雪」
「い……」
「い?」
「今はいません!!」
空間が一瞬で静かになった。顔が上げられない。絶対に怒ってる。
「なら、予約で」
「はい?」
「俺は舞雪を絶対に迎えに来る。だから予約」
「え?え?」
「もちろんお嬢様、待っていてくださいますよね?」
「は、はい……」
私はこの時確信した。螢は舞雪としての私はもちろん、伊玖としての私も迎えに来る気なんだ。
本当に将来螢が私を迎えに来てくれるのかは分からない。
でもきっと、それはまた別のお話──。




