第44話 再会
ゴールデンウィークもあと二日ですねー。
午前中、船での仕事を終えて金貨を両替できる店を探していた。
『昼も人がたくさんだねー。』
『地球でいう“人種のるつぼ”ねぇ。』
見渡すと色々な種族の人々が笑いながら、時にはケンカをしながら、ここで生活しているのを実感する。
港の近くは下町雰囲気が強く、庶民の暮らしを身近に感じた。ただ、店や家の路地裏に入ると、その隙間に手造りの小屋や瓦礫を積み上げて木の板を上に乗せただけの小さい掘っ立て小屋があったり、スラム街とまではいかないけど、貧富の差が垣間見えた。
人が込み合っているので、ぶつからないようにしてても、流れが止まっている場所ではひったくりに遭う事も想定し、お腹の中に布を巻いて袋にいれた金貨を守っていた。ダミーとしてわざと腰にも小袋を提げて中には木で作成した偽銅貨を仕込んである。
海外旅行に行った事もあるからね!心得ております。
通貨交換出来る所には、看板が掲げてあるのでそれを探す。港から少し離れて屋台を抜けたら、ある程度人混みは減った。
「あ!あれだ。」思わずひとり言。近くまで行くと冒険者ギルドだとわかった。
『冒険者ギルドかぁ。なんか絡まれそうなフラグたってるよね?』
『フラグ?どういう事?』
“確実に厄介事に巻き込まれるってこと。”
3人で入ろか入ろまいかと立ちすくんでいると、後ろから「おや?君は・・・。」と声をかけられた。
初老の男性。隣に女性・・・なんか見覚えがあるようなないような・・・?
隣の女性がヒソヒソと男性の耳元で話をした後、「おお!そうか!」と男性が言うと「こちらからお入りください。」と女性にギルドの建物の裏側へ案内された。
「あ、あの。僕の事知ってるんですか?」
「前に会ったぞ。覚えてないか?」
「すみません。」
「構わんよ。中でゆっくり話そう。」
そういうと裏口から建物の3階まで連れていかれ、応接室みたいなところに入った。
“2人ともちょっと待っててくれる?”
『うん!』『知ってる人?メイこそ大丈夫なの?』
“僕は心配ないよ。”
『『わかった!気を付けて。』』
さっきの女性がお茶を持ってきてくれた。「あ、ありがとうございます。」お礼を伝えるとペコッとお辞儀をして奥の部屋へ入っていった。入れ替りで男性が目の前に座った。
「さぁ、まずはお茶を飲んでくれ。」
「ありがとうございます。頂きます。」
ひと口飲んで、その間もこの人誰だっけ?と必死で考えていた。
「さて、改めて自己紹介させてもらう。儂は『グァレンド・バズゥー』だ。少し前にハラ王国の【ジザ】で会った者だよ。」
あー!!思い出した!
「グ、グレさん、でしたよね?」
「そうだ!お前さんは、『メイ』だったかな?」
「はい。メイ・パロットと言います。でも、よく覚えて下さってましたね?」
「まぁな。お前さんとは共通点があったからなぁ。」
キョトーン、とした顔をしていると「おーい、フラム!」とさっきの女性を呼んだ。
「お前さん、フラムが見えとるだろ?」
「え。はい。お茶を持ってきてくれた方ですよね?」
「フラムと言います。フゥって呼んで下さいね。」
「フゥはな。火の聖霊だよ。」
えー!!全然気配とかわからん!!というか、ネイマもテテュスも何で聖霊ってわからんかったんやろ?
「お前さん、以前連れてた聖霊とまた別にもう一人増えとるな?」
「あ・・・あの。そのぉ・・・。」
「あぁ!!すまんかった!儂はな、別にどうこうするつもりはないよ。ただ、同じ聖霊が見える者同士話をしたかったんだ。」
・・・・・。
「儂はハラ王国の【ジザ】でギルドマスターをしておる。怪しい者ではないぞ?お前さん、冒険者になるって言っておっただろ?だから余計に興味があってなぁ。」
「そうでしたか。でも、その・・・聖霊については他言無用でお願いします。そうでなければ・・・話せません。」
「わかった!『ギルドマスターの誓い』を立てよう。フゥ!アレ持ってきてくれ。」
「はーい♪」
奥の部屋から、名刺くらいの大きさの木の板を持ってきた。そこに漢字で『誓約』と刻まれており、その下にハラ王国語でグレさんの名前が書かれており、“○○について、の秘密を厳守する。漏洩の際は聖霊の名においてその記憶全てを抹消し、契約を解する。”と刻まれてあった。
「ここにメイ、お前さんの名前を入れてくれ。これはな、ギルドマスターの権利の1つで、儂の場合は秘密を漏洩させた場合には誓約に関する記憶の削除、更にフゥとの契約を解除されることになっておる。そうやって冒険者や商人達と重要な情報をやり取りしておるんだよ。」
「これ、グレさんには罰があるのに・・・。情報提供する側は何も危険がないなんて不公平な気がするんですけど。」
「それは心配ない。それこそ、ギルドマスターの権限で冒険者資格の剥奪や商人の出入り禁止など実力行使するまでだよ。」
「この誓約が本物か、という点も安心してほしい。そのための聖霊なんだ。」
聖霊は本来、自然のエネルギー=魔力の塊みたいな存在であるため、清浄な存在。人を害したり、嘘をついたり、騙したりなど悪意のある行動を繰り返せば穢れていき、聖霊王にて消滅させられるらしい。
そのため、聖霊と契約は厳守させるという意味で相性がいいため、立ち会人としてまた、反故した場合は実行してもらう役割の担い手らしい。
「私が保証します。このギルドマスターの誓いは厳格なものです。」
ここまで言われたら、信用しない訳にもいかないよなぁ。
あ、じゃあネイマとテテュスにも立ち会ってもらおう!
「僕も2人に立ち会いをお願いしてみます。」
「わかった。」
念話で事情を説明。2人も驚いてたけど、好奇心の方が強いみたいですぐに来てくれた。
「じゃあここにサインをしてくれ。」書き終えるとフラムが木の板を手に取り、グァレンドの手に置いた。2人が手を重ねて、木の板を間に挟んだ感じでお互いの額を合せた。
《われ今ここに、ギルドマスターの誓いを立てる》
あ、これ聖霊との契約に似てる。
そう思った瞬間に光を放ち、木の板は消えた。
「これで大丈夫。さて、メイの話を聞かせてもらおうか♪」
ネイマとテテュスも一緒に席に座り、2人との出会いを話した。