第41話 疑惑
ようやくお天気のいいゴールデンウィークですね。お出掛け日和♪
次の国に着くまでには3日程かかるってナイトに教えてもらった。
船の上での仕事もひと月程経てばけっこう慣れてくる。
「ゴウー!メイー!こっちも手伝ってくれ!!」「「はい!」」
ゴウはさすがに獣人族だけあって、筋力もかなり上がって力仕事では欠かせない存在になりつつあった。
一方私は異世界料理が高評で、簡単なものしか作れないけど料理補佐みたいなポジションにいた。皿洗いや下ごしらえもするけど、たまに朝食とかのメニューを考えたり、作ったりしている。あと、傷の手当。意外とみんな傷を放置したままで、跡が残ってるから気になってお世話をしてたらなんか医療担当みたいになってしまっていた。
次の目的地【マレ・リベロ国】では2週間も滞在するらしい。
どうやらモリー船長はここの出身みたいで、里帰りも兼ねているようだ。
ひと仕事を終え、部屋で小休憩していると、ゴウによる漁師のための豆知識パート2が始まった。
【マレ・リベロ国】は、最南端に位置する島国。大きな国土を有し、周りには大小の島に囲まれている。小さい島やまだ知られていない島もたくさんあるとか。死域から離れているとはいえ、国としては一番近いところにあり、昔は敵国から攻められたときに死域に逃げ込む人々もいた。その中で助かった者の子孫が死域付近の現在は近付くことのできない島々に住んでいるのではないかという噂もあるが、確かめる術はない。補足やけど、【無人島】もほぼ横並びでこの【マレ・リベロ国】の近くに位置しているので、死域に近い距離にこの2つの島が存在している。
また【海賊の島】という別名があるくらい荒くれ者が多く住む国で、もともと海賊の首領が初代の国の代表者だといわれている。人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族、ハーフの者など人種も様々で”来るもの拒まず、去る者追わず”が国のモットーであるためこうなったらしい。
あと、手つかずの遺跡や洞窟、死域から流れてくる見慣れない魚や物など、不思議な現象が起こる事も多いため、一攫千金を目指す者や冒険者、商人など人が溢れかえっており、どこに行っても相当賑やからしい。反面、犯罪率も高く子供や人が攫われたり、女性が襲われる、ケンカは日常茶飯事、人が殺される事も珍しくないのでかなりの自己防衛力を要する国だと教えてくれた。
「うわ・・・楽しみだけど、今までで一番危険な国ってことだね。」
「んー、まぁな!貧困層もあるけど周りが海で魚とか捕れるし、食べる物には困らねぇから国民は幸せかもなぁ。」
「えー・・・でも子供が攫われたり、女の人が襲われたりかなりヤバいよ?」
「だよな。俺らも気を付けないと、船に戻って来れないかもしれないからな!今まで見たいにふらっと知らないところに行くのは危険かもな。」
けど、マップ更新したいしなぁ。ステータスブックにもっと新情報を載せたい!
『まぁメイには僕らが居るからねー。』『そうそう。逃げるくらいはなんとかなるわよー。』
”あのね、頼りにしてるけど、慢心はダメだよ。僕らってまだまだ実践経験少ないんだからさ。”
『メイは真面目なんだよねー。』『ほんとにね!でも慎重なのは悪いことではないわよ?』
”出来れば面倒事を避けつつ、休日はこの国を探検したい!”
「メイ。今回はどうする?無人島ではうまくいかなかったけど、洞窟とか遺跡とか行きたくないか?!」
またキラキラした目でゴウが誘ってきた。
「そりゃあ行きたい!けど・・・この国危ないよ?僕達だけって絶対許可出ないんじゃない?」
「だーかーらー!モリー船長誘うってのは?!」
「あれ?ゴウ、いつの間に船長の事苦手じゃなくなったの?」
「え?!俺苦手じゃないぜ?まぁ・・・上司だから緊張はするけどさぁ。この前旨いもの食わせてもらったろ?!あれでなんか親近感わいたっていうかさ。いい人じゃん、って。」
「もれなくナイトさんとか付いてくると思うけど?」
「いいじゃん!パーティーみたいで、冒険って感じするし♪」
ノリノリや。ここで”NO!!”とも言われへんな。
「わかった。船長地元みたいだし、面白そうなところに連れて行ってもらおうか。」
「おう!じゃあ今晩さっそくお願いしに行ってみようぜ。」
仕事に戻り、夜を待った。
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コンコンッ
「誰だ?」
「あ、ゴウとメイです。船長今ちょっとよろしいですか?」
”いいぞ。”と言われ、中に入ると1人で酒を飲んでいた。地図をテーブルに広げ、進路についてアレコレ考えているようだった。
「どうした?」
「お、お忙しい所すみません!あの、船長はマレ・リベロ国の出身とお聞きして、それで、あの・・・また休日に良ければ一緒に遺跡や洞窟を見て回るのをお誘いしようかと思い来ました!」ゴウが頑張って伝えた。
「図々しく、すみません。次の国、僕達だけじゃちょっと危険も多いかなって話をしてて。無人島では散々だったから、もう一度思い出作りをしようという事になったんです。」
「そうか。そうだなぁ・・・結論から言うと俺は全然構わない。だが、カイト達にも相談しないとな。まぁ、俺が上手く伝えといてやるよ。」
「あ、ありがとうございます!」「楽しみにしてます!」
ゴウと”よかったぁ。”と小さくガッツポーズをして部屋を出ようとした。
「おい、メイはちょっと残ってくれ。」
「え?あ、はい。」
「じゃあ俺先に戻ってるな!」とゴウが出て行った。
”ここに座れ”、と手招きされたので私は船長の前の席に座った。
あれ、ちょっと酒に酔ってる?少しうつ向いて顔をあげると、目はちゃんと据わっていた。まぁ酒豪やから大丈夫か。
「お前、カコさんと親しくなったようだな。」
「あ、はい。あれから・・・なんか色々と滞在中お世話になりました。」
「そうか・・・。俺はまどろっこしいのは苦手なんだ。だからはっきり言う。お前はハラ王国の諜報員なのか?」
「えー?!ちょ、諜報員?」ってスパイ疑惑かけられてる?なんでそんな事になってるん・・・。
「諜報員って・・・あれですよね。なんか他の国の事色々調べて報告する密偵というか・・・。」
「そうだ。お前がこの船に乗った経緯もちゃんと聞いてはいるが、14、5の年にしては落ち着いてるしやる事にもそつがない。知識も豊富なようだしな。」
「あー・・・。何から話せばいいかわかりませんけど、誓って諜報員とかではないですよ。僕だって言いたくない事はあります。でもこちらにお世話になることになった説明はします。」
冒険者になるために、学校には通わず幼いころから周りのたくさんの大人達に勉強や剣術、商売の事などを教えて貰ったことやガイルに拾われた事についても話した。目を絶対逸らさなかった。省略してはいるけど嘘ではないから。
モリー船長も私の目をじっと見つめて、見極めようとしていた。全てを聞き終えて、グイッとグラスに残った酒を煽る。
「ぷはぁー!・・・あはははっ!」
大きな声で笑い出したので、びっくりして固まってしまった。
「そうだよなぁ、メイが諜報員なワケないって。だったらもっと気付かれないようにするだろう?俺に取り入るとか、もっとナイト達に媚び売るよな?」
「え・・・まぁ、それはわからないですけど。諜報員の性格とかもあるでしょうし。」
「ぷっ!性格?!あはははっ・・・すまなかったな。こんな事聞いて悪かった。」
「・・・・・。」
「まぁ仮にお前が嘘をついているとしても、同じ船に乗ってる仲間だからな!俺は船員を信じる。・・・よし、決めた!!」
「・・・船長・・・ありがとうございます。他の人が僕を疑っていたとしても、モリー船長に誓って諜報員ではないと誓います。」
「海の男らしい!そうだな・・・これから俺の弟分にしてやる。誓いの儀式をやるぞ。」
「ええ?なんですかソレ・・・。」また面倒くさいことになったんちゃうん?
モリー船長は棚からおちょこみたいな、ガラス製のぐい呑みを2つ持ってきた。
お互いに酒を注いで、腕を組みかわし酒を飲み干す。・・・私、未成年ですけど?
そのあとお互いに口をつけたぐい呑みを交換し、生涯保管するらしい。
「これで海の男の掟に従い、義兄弟の契りを交わした。何があっても裏切るな!俺もお前を裏切らないからな!」
「は、はい・・・。」
圧倒されて押しきられたけど、これ後からややこしい事になりそうな予感・・・。