第38話 諜報活動
ゴールデンウィーク3日目。お仕事の方、頑張りましょうね!
三国共有島の滞在もあと数日。
いつものように朝ごはんをガンさんの所で済ませて、船に向かう。
『今日からは私も手伝うからね♪』
『はりきってるねー、テテ!』
実体化したテテュスはテンションが高い。昨日の夜、初めての夕食に感動し、今日は初めてのお仕事なのでヤル気満々なのだ。
「やる気はありがたいけど、まずはネイマに色々と教えてもらってからね。ゴウや他の人にも気付かれないように気を付けてね!」
『わかってるって!』
『僕が見てるから大丈夫だよ。』
油断大敵。聖霊2人と契約中って絶対知られないようにしなきゃね!
船に着くと、何やらモリー船長がカイトを連れてどこかへ出かけるようだった。
「おはようございます!」
「おはよう!・・・そうだ、メイ。ちょっと来い。」
船長に駆け寄るとグイッと肩を組まれて、耳元に顔を近付けてきた。咄嗟にナイトに見られていないか確認したけど、カイトだけで、周りには誰もいなかった。
「お前、 蜜楼館に行ったらしいな?しかもあの店の主人は、あの時補助船に同乗していたお嬢ちゃんらしいじゃないか。」
「ゴウに聞いたんですか?」
「ま、まぁな。それより何の話したんだよ?」
「別に他愛もない世間話です。カコさんは補助船に乗せてくれたお礼って感じでしたけど。」
「そうか。引き止めて悪かったな。」
ようやく解放され、カイトと少し話し込んでいた。乗船しようとしたら再び声を掛けられた。
「メイ。お前も付いて来い。」カイトが呼んでいる。
面倒な事に巻き込まれる予感がする・・・。
『メイ!船でお仕事しないの?!』テテュスが船の上から呼んでいる。
”なんか、船長と一緒にどこかへ行くことになったみたい。”
『じゃあ今日は船での仕事はなしだね。』『えー!!楽しみにしてたのにぃ~~!』と駄々をこねるテテュスをネイマがなだめてくれていた。
「あの~・・・どこに行くんですか?」
「蜜楼館だ。」とカイトが答える。
「・・・どうして僕を?」
「まぁ、あのお嬢ちゃんとの間を上手くつないでくれたらいいんだがな!」船長がニカッっと笑った。
「そんなに親しくないですよ~。昨日ちょっと話しただけですし。荷が重ずぎますよ・・・。」
「悪い、悪い!ただ居るだけでいいんだよ。俺達は商談で行くんだが、正直その場を和ませる存在っつーか、お前が居れば話のタネにもなるだろ?ゴウでもいいんだが、アイツは俺達の前だとかなり緊張するみたいだからさ。」
私が神経図太いみたいやん。
「お前は意外と肝が据わってるからな。ナイトが一目置いてるしな。」カイトがめずらしく穏やかな表情で私を見ている。
いやいや!”ナイトに目を付けられている”の方が正しい表現やと思いますけど?!
まぁいいや。
”ネイマとテテにお願いがあるんだけど。とりあえず、聖霊体になって蜜楼館をもっと調べてきてくれない?”
『わかった!』『任せて~♪』
”ありがとう!頼んだ~。”
ーーーーーーーーーーーーーー
蜜楼館に到着。
中に入ると女性の給仕が案内してくれて、一室に通された。
「ここ、いい香りがするな。」
「そうですね。でも俺はちょっと苦手な雰囲気です。」
モリー船長とカイトが静かに話をしている。
私は少し離れた所に立って、窓の外をみるフリをしてステータスブックを見ていた。
建物自体に防音効果の魔法が施されているようで、監視は私がわかる範囲ではないみたい。
ただ、ネイマとテテュスが聖霊体になって人や建物などに触れて調べてくれたおかげでわかった事があった。
それは、ここの給仕や料理人などは皆どこかの国の諜報員であるということ。
カコはそれをわかってて雇ってるのかもしれないけど。
情報のやりとりを生業としているこの島だから、市場で働く人達もほとんどが諜報員なのかも?
どこに行っても”壁に耳あり障子に目あり”、と考えていた方がいいもかもしれない。
でもそれってどこに行っても気が抜けない。
考え事をしながらパラパラとステータスブックのページをめくっていると『特攻丸の船員』の項目が目に止まった。
見るべきか迷ったけど、今更別にいいやって目を通した。
”え?!”
『何?』『どうしたの?!』
”あ、ごめん。思わず念話しちゃってた?いや、なんでもない。驚いて心の声が出ただけだから。”
『何に驚いたのー?』『そうよ!教えて!!』
”うん・・・。今ステータスブック見てたんだけどね。モリー船長・・・”
『船長が?』『何よ?!』
”女性だったみたい・・・”
『なーんだ。知ってるよ!』『私も!だって触れた時にわかるもの。』
”そうなの?!じゃあカコさんの種族とかも?!”
『んーと、ステータスブックに反映される内容だけだよ。』『そうそう!』
”そうだったのか。・・・いや、でもこれで納得がいった!ナイトがやけに敵視してくる理由がね。”
『青春だね~。』『せ、いしゅ?って何よ!』
『テテもそのうち”同化”してみたらわかるよ!』
『何よそれ~!まぁいいわ。それよりこれからどうするの?』
”この商談が終わるまでは帰れないから、2人は遊びに行ってきてもいいよ。”
『わかった。じゃあ何かあったら呼んで。』
『私もネイマに付いて行ってくるね!』
”はーい。いってらっしゃい。”
「失礼致します。」女性の給仕がお茶などをテーブルに運んで去ると、程なくカコが現れた。
「お待たせして申し訳ありませんでしたわね。モリーさん。」
「いや、大丈夫だ。昨日は失礼した。改めて今日はよろしく頼む。」
船長とカコが席に着き、カイトが後ろに下がった。私も近くに立って一礼した。
「では、さっそくですけど始めましょうか。」
「あぁ、まずはこちらを見てもらおうか。」
カコとモリー船長が話を始めたが、私には関係のない内容だからしばらくは上の空だった。
宝石のようなものを見せて、買い手をカコに探してもらう相談のようだった。
そういえば漁のときに混ざっていたり、食事の下ごしらえで魚をさばいたら腹の中にもたまに見かけた色付きの石コロがあったけど・・・アレに似てるなぁ。もしかしてこっちでは宝石みたいなものなんかな?
ゴミと思って捨てようとしたら、ナイトにめっちゃ怒られたっけ。よく考えたらナイトが最後回収してたわ。
思わずあくびをしそうになって必死にかみしめたら、カコと一瞬目が合ってしまい、ちょっと笑われた。
「さて、商談はここまでですわ。よければお付きの方々も一緒にお茶でもしませんこと?」
「そうだな!俺も堅苦しいのは苦手だから仕事はこれで終わりだ。カイト、メイもここに座れよ。」
「さぁ、どうぞ。」カコにも促され、カイトはモリー船長の隣に、私はカコの隣に座った。
沈黙を最初に破ったのはモリー船長だった。
「カコさん、は無人島に一体何の用事だったんだい?」
「あら、あの船に乗ったのは偶然ですけど?」
「勘、かな。目的があって小舟に乗ったように感じたからさ。」
「フフフ、とてもいい気分転換になったので本当に感謝していますのよ。新しい友人もできましたし。ねぇ、メイ?」
「へ?えっ!友人?!」
「あら、私達お友達でしょう?いつでも訪ねていらっしゃいと言ったじゃない。」
「そうですけど、本当だったんですか?」
「メイの友達か!なら、俺も友達だな!これからもよろしくな、カコさん。」
「こちらこそ、嬉しいわ。改めてよろしくお願い致しますね、モリーさん。」
ビジネスライクなお友達やなー。上手く駒として使われてる気がするけど、これでお役御免かな?
「モリーさん。このあと少し、メイをお借りしてもいいかしら?」
「大丈夫だ。メイ、こっちはいいからカコさんとゆっくり過ごしてこい。今日は仕事は終了だ。」
「あ、はい。分かりました。」
「ありがとうございます。では、お二人をお送り致しますわ。こちらへどうぞ。メイ、少しここで待っていて下さいね。」
そう言い残し、カコとモリー船長、カイトは部屋を出ていった。