第36話 蜜楼館
今日からゴールデンウィークですね♪10日間毎日1話ずつ公開しますので、ぜひ暇潰しにお越し下さい。
昨日寝る前、ゴウにカコからの伝言を伝えておいた。
“昼までは寝てたい!”とゴウからの希望もあったので、ランチをしてから店を探すことになった。
ガンさんが心配して、夕飯の時はご馳走を食べさせてくれた。落ち込んでいると思っていたようで、気を遣わせてしまったかな。
水の聖霊は、ネイマと行動することが多いのでとりあえず様子をみることにした。名前がないと不便なので、何か考えておかないとなぁ。
私も久しぶりにゴロゴロと惰眠を貪った。
ちょっとお腹が空いたけど、魔法を使ったせいか長い時間寝ても全然起きようとは思わなかった。
『そろそろ起きて、お昼ご飯食べない?』
「うーん・・・あ、おはよう。」
“おっはよー!”
隣をみるとゴウはまだ寝ている。
下に降りて食事を部屋に運んだ。ネイマと食べるのは久しぶりだ。
『やっぱり美味しいねー!食べなくても大丈夫だけど、食べる方が楽しいな。』
“この特製ジュースも最高だよ♪ガンさんのお手製なんだ。”
“わぁ。人間が作ったのを食べられるのー?”
『うん。契約したら実体化するからね。五感が宿るんだよ。』
“契約かぁ。僕にもできるかなー?”
『できるよー。でもメイはどうだろ?僕とも契約してるからなぁ。2体同時ってできるのかな?』
“え!2体同時ってチートすぎない?”
“チートって何?”
“うーん、強すぎるってことかな。だって本来、聖霊魔法が使えるってだけでも凄いらしいよ?”
“そっかぁ。でも僕も実体化して食べてみたいなぁ。”
『わかるー。でも良いことだけじゃないからね?後で色々説明するね。』
“あ、水の聖霊の名前考えてみたんだ。”
“本当?!嬉しい♪”
『何ていうの?』
“うん。『テテュス』って水の女神からもらった。呼名は『テテ』がいいかなって。どうかな?”
『いいねー!』
“僕は『テテュス』・・・”
“うん。テテ、よろしくね!”
“あ、ありがとう!!うれしいよ”
『良かったねー♪』
テテュスが部屋をビュンビュン飛び回っている。
その時、ゴウが起きた。
「あー・・・よっく寝たぁ。メイか?おはよう。」
「おはよう!」
『おはようー。』“おはようー”
「俺も腹減ったなぁ。食べたらカコさんの店に行くんだっけ。」
「うん。ここで待ってるから、食べに行ってきなよ。」
「おう。行ってくる!」
“・・・僕も・・・。”
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食後、さっそく市場へ向かった。
「さーて、どこにあるんだろうな?」ゴウが辺りを見回す。
「 市場の人に聞いてみようかな。」私は近くの出店に駆け寄った。
「あの、すいません。蜜楼館って何処にありますか?」
「ん?北の方に進んで、木がたくさん見えたらその奥に行くと見つかるよ。」
「「ありがとうございます!」」
歩きながら、周りの店にも寄り道。買い物しつつ、目的地へ進む。
「この辺りはアリア新聖王国の大使館がある地区だな。カコさんは関係者かもな。」
「そうなの?まだ行ったことがないから、色々話が聞けたらいいなぁ。」
市場を抜けて真っ直ぐ行くと、しばらくしてポツポツと店や家が建っていた。
北上しながら更に歩みを進めると、林のような場所が見えた。
「あの先じゃないか?」
「うん。行ってみよう。」
ドキドキと心臓の音が逸る。
「「あ、あれ!」」ゴウと同時に声が出た。
洋館風の大きい建物で、神戸にある鹿鳴館を思わせるレトロな雰囲気がとても素敵だった。
古びた木の看板に『 蜜楼館』と書かれており、ドアの前に立つとふわっといい香りが中から漂ってきた。
「よ、よし。開けるぞ?」
「うん。」
ゴウがゆっくりと扉を開けた。
中に入り「こんにちはー・・・。」と声をかける。
「だ、誰か居ますかー?」
辺りを目線だけで確認すると、奥から年配の女性が出てきた。
「いらっしゃいませ。蜜楼館へようこそ。」
「あの・・・僕達カコさんに呼ばれて来たんですけど。」
「はい。申し遣っております。ゴウ様、メイ様ですね。こちらへどうぞ。」
後ろを付いていくと、庭が見える陽当たりのいい席へ案内された。
「どうぞ、お掛けください。今、お茶をお持ち致します。」
スッとどこかへ行ってしまった。
「な、なんか落ち着かなねぇな。」
「緊張しちゃうね?」
『僕ら中見てくるよー。』“ネイマ待って~”
ネイマとテテュスは先に館内を探索。
「お待たせ致しました。」
高級そうなティーセットに香りのいいお茶、お茶菓子がテーブルに並べられた。
「もうすぐ主人が参りますので、どうぞお召し上がり下さいませ。」
「これって何だろ?」ゴウがじっと眺めている。
ケーキ?カステラっぽい生地に生クリームがのっててシンプルやけど、この世界にもあるんや♪
「ゴウ、食べてみようよ!」
ひと口パクッ。
「う、旨いな!」「ん~美味しい~♪」
紅茶もあるやん。うん、いい香りで口あたりもスッキリでおいしい。
まるでアフタヌーンティーの光景なのに、優雅にまったりではなく、ケーキやお茶菓子が美味しすぎてがっついて食べていた。
コツコツとブーツの音が響いて、カコが姿をみせた。「フフフ、気に入って頂けたようでよかったですわ。」
窓ガラスからの陽の光で、ゆるふわカールの銀髪がキラキラと輝いており、白い肌は透けて見えて儚さと何とも言い難い妖艶さだった。
さすがのゴウも食べる手が止まっており、ぼーっとカコを見つめている。
「こんにちは。今日はお招きありがとうございます。」
「こちらこそ。よく来て下さったわ!ご訪問感謝します。」
カコは同じテーブルの席につき、紅茶をゆっくりと口に含み、飲み込んだ。
「ふぅ。・・・堅苦しいのは無しにしません?」
「はい。僕達も緊張しちゃうので、それでよければお願いします。」
ゴウもようやく元に戻り少し顔を赤らめながら“うん、うん!”と頷いていた。
「よかったですわ。ここの席、私のお気に入りなんですの。」
「あの、この蜜楼館てどういった所なんですか?」
「そうですわね~。・・・限られた方々が集うお茶会をするためのお店、かしら。」
「金持ちの集まる場所って事かぁ。」ゴウが食べながら話す。
「そうとも限りませんけど、でも重要な取引やそのための商談等にも使われますわ~。」
銀座の高級料亭で政治家や有名人が密会的なアレか。
「じゃあカコさんがここの店主なんですか?」
「まぁそういう立場でもありますわね。」
「えー!なのに脱走したんですか?!サボりですか?」ゴウがまたもや攻めの質問を投げかける。
「フフフ。はい、そういう事になりますわね。」
「そりゃ周りの人は驚きますよー!うちの船長だったらナイトさん達が大騒ぎだ。」
「ははは!でも、上の立場の人だってたまにはサボりたくなるのもわかる気はするなぁ。」
「あら。メイさんはお若いのによくおわかりなのね?」
「あ、いえ!その・・・最近、船長とその御付きの人達をみてたら、なんかずっと守られてるのって監視されてる気分になるだろうな、って思って。」
「そうなんですの!!」カコが急に手を握ってきて、声を荒らげた。
「お、落ち着いて下さい!」
「あら、ごめんなさい。気持ちをわかって下さる方がいて、つい興奮してしまいましたわ!」
「上に立つ人も大変なんだな・・・。」ゴウが呟く。
「時々ですけどね。ほんの少しの時間でいいから一人になりたい、って時があるんです・・・。」
「でも、後でたくさんの方々に迷惑をかけてしまって・・・あなた方にも本当にごめんなさいね。」
「いえ、俺らは別に!なぁ?」
「はい。こうやってご馳走までして頂いて・・・なんかすいません。」
「短い間だったけど、自由にできて本当に楽しかったのよ。だから・・・ありがとう。」
それから雑談をして、帰り際ゴウがトイレに行ったので廊下で待っていると「メイ。困った事や聞きたい事があればいつでも訪ねていらっしゃいね。」と小声で耳打ちされた。
「え?」と振り向くと後姿のカコが「いつでも気軽に来ていいわよ。」と声だけを残して居なくなってしまった。
入れ替わるようにゴウが戻ってきたので、そのまま蜜楼館を後にした。