第35話 無人島
謎のお嬢様?『カコ』は名乗ったあと、また木箱の後ろに戻り“着いたら起こして下さい”と眠ってしまった。
「何だか妙なことになったね。」
「怪しくないか?本当にお嬢様なのか?」
ゴウと小声で話していると、
「まぁ俺達を害する者でなければ気にする必要はないさ。旅は道連れ~っていうだろ?」
「船長がそう決めたなら従いますよ。」カイトの一言でその場が落ち着いた。
「俺がアイツを見てますから!船長は安心して下さい!」ナイトが鼻息荒く燃えている。
私も一応ね、“感知”。殺気はない。
・・・とりあえずは安心かな。
しばらくすると島が目の前に迫っていた。
「おぉー!!」「風が冷たーい!」
“ネイマー?もうすぐ着くよ!”
『オッケー!こっちも今のところ危険なしだよ。』
“ありがとう。あ、こっちにね、変な女の子が一緒にいるんだ。一応気を付けて!”
『え?恐い人なの?』
“殺気はないよ。でも得たいの知れない感じがする。”
『わかったー。しばらく近づかないようにするね。』
「もうすぐ着くから、お前らあのお嬢様に声かけてこい。」カイトから指示され仕方なく後ろに移動する。
「あのー。カコさん!もうすぐ着きます。」
「起きて下さい!」
反応がない。
木箱をドンドン叩いてみた。
「うえ?!な、何です?!」
「もうすぐ着きますよ!」「準備して下さい!」
「んー・・・。はい、わかりましたわ。」
声が返ってきたので、私達も元の場所に戻った。
着岸し、補助船をロープで固定して上陸した。
「「寒い!!」」
昨日仕入れたベアローブという防寒着を出す。
そういえばカコは上着がないんじゃ?
「あー涼しくていいですわね♪」
「「え!!寒くないんですか?」」
「ええ。ちょうど良いです。心地いいわぁ。」
やっぱり変な人だ、とゴウと目で会話する。
「これが雪かぁ。」「寒いなぁ。」
「おぉ!雪ってふわふわなんだな!」
「うわ!冷たくて手が痛くなってきた。」
体温で溶けた雪が足元を濡らして、どんどん冷えていく。
「思ってたより寒いし、ここで一晩とか無理だな。」カイトが真顔で私達に言った。
「「ですよね!」」私とゴウもすでに寒さで顔色が悪い。
「靴にエルエルの鞣し革袋を装備しろ。」モリー船長に言われて思い出した。
しかし、すでに足が濡れてジンジンと痛みがする。
「よし!1時間後ここを出発し、島へ帰るぞ。」
「「「「はい!」」」」
「私も自由に行動致しますわー。時間には戻りますのでお気になさらないで。」カコは船長に言うと、雪などないようにスタスタと歩いて行った。
「何か魔法でも使ってるのかな?」
「気にしないでおこう。それより少し探検してみよ?」
ゴウと雪道をゆっくりと進んでいった。
木は周りにあるが、花や草はなく、遠くで動く音がするので動物もいるのだろうが、姿は見えない。
「真っ白な世界だな。」
「うん。綺麗だけど、ちょっと恐いな。」
奥へ行くほどに積雪量が凄くて、普通に歩いて行くには困難だった。言葉数も少なくなり、寒さと思うように前に進めなくて疲労が表情に滲み出てくる。
「・・・今度はあったかい所旅したいな・・・。」
「そうだね。・・・今日はここまでにしようか。」
足も感覚が無くなってきて、お互い無言で船の方へ戻り始めた。
“ネイマ、ごめん。僕ら限界だから帰るね。”
『どうしたの?』
“船長達がいるから魔法は使いたくないし、これ以上歩いて雪道を進むのは無理みたい。”
『そっかー。気を付けてね!僕らも時間をおいて後を追うねー。』
「なんかさー、眠いなぁ・・・。」
「ゴウ!話をしよう!そうだ、手出して。」
ゴウが右手をゆっくり出したので、手をギュッと繋いだ。身体を寄せて繋いだ手も温める。
「何だよ?手なんか繋いで・・・。」
「今、身体の体温が下がってるから眠くなるんだ。だから、こうやってお互いに体温を補い合うのがいいんだよ!」
ゴウがうとうとして、ボーッとしている。足取りも重い。“感知”、周りに人はいないな。今なら魔法使ってもいいかも!
“ 微風”、でまずは身体を乾かす。“ 浮遊”、“ 風壁”。
あー・・・。
やっと寒いのがなくなってきた。『ヴァンウォール』のおかげで回復してくれてるし♪浮いてるからゴウも簡単に運べる。・・・あと少しや・・・。
小舟に着くとまだ誰も戻っていなかった。船にゴウを運んで、横に寝かした。魔法が消えると、足の痛みもなくなり、ゴウも自然と目を覚ました。
「ん・・あれ?!いつの間に戻ってたんだ?!」
「よかった、気がついた?半分引きずりながら帰ってきたんだよー。」
「やべー!俺帰りの事覚えてない。寒い所、恐いな!!」
「うん、なめてたね。相当準備して来ないと死ぬね。」
しばらくしてモリー船長とカイト、ナイトがウーパを捕って戻ってきた。
それからすぐにカコも片手いっぱいに花を摘んで帰ってきた。
「あんなのどこから摘んできたのかな?」
「わからない・・・やっぱりあの人は謎すぎる!」
またひそひそと話をしていると、モリー船長の判断ですぐに無人島から出発した。
「あー腹減ったなぁ。」船長がウーパを見て言った。
「生はちょっと・・・ここで火を使うわけにも・・・。」ナイトが申し訳無さそうにしている。
「そうだ!忘れてました。宿屋の親父さんが弁当作ってくれたんです。」
弁当を皆に配ったがカコの分はないので、私とゴウの分を分けて渡した。
「あら、ありがとうございます♪」
ついでに非常食用の干し肉も3人で分けて食べた。
「「おいしかったー。」」
「「「ごちそうさまでした。」」」
「美味しかったですわ。ごちそうさまでした。」
完食して、三国共有島を目指した。
帰りはナイトが船を操縦し、船長はカイトの膝の上で眠っている。
“兄弟というより、カイトはお父さんみたいやなぁ。”と思いながら、私達も疲れてうとうとしていた。
カコは定位置=木箱の後ろで爆睡中。
「ライト兄ぃーーー!!」
ナイトの大声で目が覚めると、もう着岸の準備が始まっていた。
「ロープを投げろ!」ライトの合図で、ロープが引っ張られて一気に船が港に着いた。
「船長おかえりなさい!」
「おー。ウーパの肉捕って来たぞ!」
日が暮れる前に帰ってこれたので、日帰り旅行みたいやな、と恥ずかしかったりホッとしたり。
ゴウは“父さんと話をしてくる”、と行ってしまった。
カコがスッと寄ってきて「明日ゴウと2人で蜜楼館という店へいらっしゃい。」と耳打ちしてきた。
「え?!」と振り返るとすでに姿は離れたところにあり、追いかけるのも面倒なのでやめた。
宿屋の部屋に戻ると、すぐに横になった。
色々大変やったけど、これで転移魔法が使えるし、いつでも無人島に行けるな。
「あぁ~~・・・。疲れたぁ。」天井に向かって伸びをしていると、ひょっこりネイマが現れた。
「うわっっ!」『驚いたー?』
“こんにちはー!”
ネイマの後ろからルイやリマローズくらいの男の子の聖霊がパタパタ飛んでいた。
『この子が水の聖霊だよー。』
“メイだね?よろしくね♪”
“うん、よろしくー。”
“ねぇ、メイはネイマと契約してるんだよね?”
“うん。ネイマがいつも一緒に居てくれるんだ。”
『まぁ、メイと僕は兄弟だからね!』
“人間だった頃の記憶があるなんてめずらしいよね?”
『僕の場合、未練がすごく残ってたからかもしれない。』
“ふぅん。2人はこれからどうするの?”
『だからー、メイが冒険者になるから一緒にこの世界を旅するんだよ。』
“そのために、今こうやって仕事してお金を貯めてるんだ。”
“僕もまだこの辺りしか行ったことないから一緒いくー!”
“いいよ。”
“わーい♪ありがとう~”
『よかったね!』
“あと、大体の人間には聖霊が見えないから、話をするときは周りに人がいないときにお願いね!”
『僕がついてるから任せてといて!』
こうして無人島への旅は、あっけなく終わってしまった。