第34話 相乗り
「お前達、ちゃんと準備はしたのか?」
ロゼが部屋を訪ねてきた。宿屋の主人『ガンドールド・ハテ』こと、ガンさんも一緒だ。
「ゴウ、メイ。本当に無人島へ行くつもりか?酔狂な事だ。でもまぁ、男を上げるにはいいかもな!ほら。コレ持って行け。」
ガンさんが弁当を5人分作ってくれて、特製ジュースも持たせてくれた。ロゼからは非常食に、と干し肉と小魚の塩漬け。「それと・・・ゴウ、これを渡しておく。」
ロゼが使っている剣に似た短剣。ゴウ・カナタの名前も彫ってある。
「父さんコレ!!いいのかよ・・・。」
「おう!お前の為に買ったんだからな。これで自分の身は自分で守れよ?メイはゴウの事は気にせず、自分の身を守れ。協力するのは大事だが、相手の為に犠牲になるんじゃなく、お互いが生き残ることを考えろ。」
「はい。ちゃんと無事に帰ってきます。」
「大丈夫!俺とメイはけっこうやるぜ!」
「坊主ども。コレも持っていけ!」とガンさんから2つ小さい小瓶に入った液体をもらった。
「「何ですか?これ。」」
「これは俺の獣人族に伝わる秘伝の薬だ。飲めば一時的に身体能力があがる。ただ、一時間くらいすると効果が切れるらしいし、その後疲労で眠ってしまうのが欠点だ。まぁ、使いどころを間違えるなよ?2人同時に使わず、必ずどちらかは動けるようにしといた方がいいぞ。」
「「ありがとうございます!」」
1泊2日の旅やねんけど、皆大げさやなぁ。それに転移魔法使えるから、実は飛んで帰ってこれるんやけど・・・。これは秘密やしな。
そういえば!ネイマが水の精霊連れてくるって言うてたけど、全然連絡とってなかった。
”ネイマー!ネイマ!聞こえる?”
『うん。ずっと近くに居るよー。』
”そうなの?ごめんねー。なんか忙しくって!”
『大丈夫~。見てたから大体わかった!あと、無人島も先に様子見に行ってたんだ。』
”えー!ありがとう!どうだった?”
『全部じゃないけど、上陸してすぐ辺りには危ない感じはなかったよー。雪が降って積もってる!メイの漫画で見た北海道の雪みたいな感じ♪』
”よかった!水の精霊はどうなったの?”
『一緒に居るよー。僕に付いて来てる。今は人も多いし、僕たち先に無人島に行って待ってるね♪』
”了解~!”
「・・・メイ!メーイ!おい、聴こえてる?大丈夫か?」
「へ?あ!あぁ。ごめん。なんか急にボーッとしちゃって。」
「おいおい、大丈夫か?!」ロゼが笑っている。
「メイ、水を飲め。深呼吸もしろ。」ガンさんが心配そうに見てくる。
ゴウもちょっと不安そうな表情だ。念話中は意識集中してるからなぁ・・・。
「ごめんごめん!大丈夫!僕よくあるんだ。急にボーッとしてハッと考えが浮かぶ感じ?!」
「驚かすなよ~。メイはちょっと変わってるからな!」
ゴウの表情も元に戻り、私も安心した。さて、冒険に行きますか!
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港に行くと、補助船が船の横につながれていた。
モリー船長とカイト、ナイトは荷物を載せて待っていた。
「おはようございます!」「よろしくお願いします!」
「おう!気合い入れて行こうぜ!」とモリー船長。
「ちゃんと寝たか?ここから先は自己責任で行動だからな。」カイトがピシッと締まる一言。
「船長、先にどうぞ。お前らは一番最後な!」ナイトがモリー船長を誘導する。
「「はい!」」
補助舟には木箱2つと大きめの麻袋が3つあった。5人は乗れそうだけど、船の燃料とかなんかな?
私達は弁当とそれぞれ手持ちの荷物で乗船した。
「「いってきまーす!」」
船が離れると、見送りのロゼとガンさん、ライト以外に、後ろの方で数人の声がした。
「・・・を探せー!!」「○○さまー!!」「どこですかぁ~?」
「何か人探してるみたいだね?」「何だろ?あれ。」
「あー。どっかの大使の坊ちゃんか嬢ちゃんがいなくなったんじゃないか?」
「船長何か知ってるんですか?」
「いや?でも大体さー、金持ちがこの島とかに来て開放的になって行方くらますパターンってありそうだろ?」
「さすが船長!昔自分も行方くらましたことあるからなー。」
ナイトが失言し、モリー船長に頭を小突かれていた。カイトは静かに笑っている。
「船長もヤンチャな子供だったんですね~。」とゴウが言うと、
「ナイトも後を追っかけててな。そのおかげで船長の居場所がわかったんだ。」カイトが教えてくれた。
昔から変わっていないんですね、ナイトさん。
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3時間程で無人島に上陸する予定なので、しばらく時間があった。補助船の操縦はカイトがしてくれており、モリー船長は寝転んでいて、その横でナイトは本を読んでいる。
ゴウは写生をしており、私は海をボーッと眺めているフリをしてステータスブックを確認していた。
【無人島(無尽冬)】の地図や生息している生物とか、ネイマが集めてくれた情報を見ていると、【水の精霊】という項目があった。
幼体で、水魔法はいくつか標準装備されてるみたいやな。ある程度ステータスブックの確認を終え、ゴウの絵を見せてもらっていると「んー・・・。」と女性っぽい声が聞こえた。
一瞬皆が声の方向にいたモリー船長を見たが、船長は起きていて、「何か今変な声聞こえなかったか?」とキョロキョロしている。
全員が耳を澄ましていると、「ふぁああ。う~~ん・・・。」とはっきりと声が聞こえた。木箱の後方、船尾からだった。
ナイトが剣をとり、木箱に向かって大声で「誰かいるのか?!」と叫んだ。船上の空気が張りつめる。
今度は木箱をガンガン蹴って、「出てこい!!」とナイトが揺さぶりをかけた。
「・・・ったーい!・・・何よ・・・。もう誰?」
「お前こそ誰だ!出てこい!」
「ハイハイ。ちょっとお待ちなさい。もう、ドレスが汚れたじゃない・・・。」
皆が”え?”と、目を丸くして声の主が出てくるのを待った。
「あら、こんにちは。ここはどこかしら?」
ふわふわした銀髪?光に透けて白髪にも見える長い髪の少女が眠そうな顔で出てきた。
「お前、誰だ。なぜ勝手にこの船に乗っている?」とナイトが訪ねた。
「まぁ、ごめんなさい。私、家の者から逃げてる途中でここに隠れたんだわ。いつの間にか眠ってしまったのねぇ。」
「あんた、御付のヤツらが探してたぜ。あと、この小船は港から出たんだ。明日にならなきゃ帰れない。」モリー船長が伝えた。
「そうですの?それは好都合ですわ!申し訳ありませんけど、私もご一緒させて下さいませ。」
「はぁ・・・。まぁ仕方ないな。俺達は船乗りの一団だ。そちらがモリー船長。俺はカイトで、あいつはナイト。そこの坊主達はゴウとメイだ。お前さんは?」
「そうですわね・・・。私の事は『カコ』とお呼び下さい。」
「「カコ?」」
「はい。よろしくお願い致しますね。」
見た目は少女のようやけど、なんか羊の皮を被った狼みたいなオーラを感じる得体の知れない人物と思いがけず同行することになった。