第32話 三国共有島➀
”昨日は遅かったね?”ネイマの気配がしたので声を掛けた。
『う、うん。あのさ、メイ。今日もちょっと出かけていいかな?』
”全然いいよー。何かあったの?あ、水の精霊?困ったことがあったら相談してね。”
『うん!ありがとうー。また連絡するね。』
”あとで僕も話あるからまた念話して。”
『わかった。じゃあ後でね!』
朝早く、ネイマはどこかへ出かけて行った。昨日は私やゴウが就寝後に帰ってきたみたいで、ソワソワしてたから気になってたんやけど眠くてそのままにしていた。
ゴウも無人島行の件については、ロゼから”船長に確認しといてやる”、って言われて少し興奮気味だった。ダメって言われなかったもんだから結構2人で遅くまで話をしていた。それでまだ、グーグー寝息を立てて眠っているワケ。
「ゴウ起きて。仕事だよ!」
「んー・・・。おはよう。ふぁぁ~、起きるかぁ。」
朝食の下準備をして、船員達と一緒に食べた。
ロゼが居たけど、港に船を着岸させる準備で忙しそうだから、例の件は聞けず私達も仕事に戻った。
「荷物を上に運んでくれ。」ナイトから指示されて甲板へ荷を運ぶ。
遠目で三国共有島が見えた。右方向に無人島も確認。さぁ、新しい土地に上陸だ!
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しばらくして船が港に着くと、荷降ろしに駆り出された。ネイマの事がふと気になったけど作業に追われていつの間にか忘れていた。
船員達の宿はすぐ近くにあり、昼食はそこで食べた。
ここでもゴウと2人部屋だった。こじんまりとした酒場のある宿屋なので、トゥルバル国より落ち着く雰囲気で気に入った。
宿屋『まぜこぜ』は、獣人の親父が店主だ。厳つい外見ではあるけど、気の良い性格のようだった。
ゴウを見かけて「お!坊主!こっち来い。そこの人族の坊主もだ!」と呼びつけられて何をされるか最初はドキドキしたけど、酒は出せないから、と特製ジュースをおごってくれた。ウエルカムドリンク?
「美味しい!!」「ありがとうございます!」
喜んでいる姿を見て「そうだろ!晩もまた作ってやるよ。しっかり働いて腹すかして来い!」といちいち声がデカイ。でもまぁ、それ以外はいい感じの親父さんだった。
昼食後は少し休憩時間。ゴウはロゼの所に行ってしまった。私はベッドで横になって食休み。
”ネイマ?聞こえるー?”念話で話しかけてみた。
『うん。聞こえてるよー。』
”今話せる?”
『大丈夫だよー。僕も水の精霊のこと話したかったんだ。』
ネイマによると、生まれて間もない水の精霊と遭遇。普通は同属性の精霊に色々教えてもらったり、ある程度は生まれながらに知識があるから単独で行動するらしい。でもこの水の精霊に興味を持たれてしまってずっと付いてくるんやって。
”そうだったのかぁ。だからなかなか帰って来れなかったんだね。”
『うん。メイとの話したら余計に興味持っちゃって・・・。でね・・・。』
”うん?”
『僕たちに付いて行きたいって言うんだ。ダメかな?』
”いいよ!”
『いいの?!』
”別にいいんじゃない?水の精霊とか見てみたい♪”
『ありがとう!昨日も説得するのに時間がかかってさー。メイが困るんじゃないかと色々考えてたんだぁ。』
”そっかー。あ、でも人間にイタズラとかしないように言っててね。”
『オッケー。』
水の精霊かぁ。あ・・・。弁財天さまが言ってたんはコレかな?
バンッと扉を開ける大きな音がして「メーーーイ!!!」と叫ぶようにゴウが入ってきた。
「うぁっ!!なんだよ~。どうしたの?」
「いいってよ!!無人島行っていいって!!」
「うっそ・・・。本当に?よく許可してもらえたね。」
「ふふ・・・ははは!しかも、船の補助船使っていいってさ!」
「すごい!!ゴウやるねー!ありがとう!!」
2人で大盛り上がり。具体的に計画を練ろうと話をしていると、休憩時間の終わりが告げられ仕事に戻った。
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三国共有島は、島1周を歩いて半日で回れるくらいの大きさなので、中心部に市場があってそこを取り囲むよう外周に大使館やそれぞれ御用達の店、使用人や住民たちの住居などが点々と造られている。
それぞれの国の人間が許可を得てここで暮らしているので、人口の増加はほとんどなく、常に一定に調整されているらしい。
情報交換の場でもあるので、商人や漁師、冒険者などは一時的な出入りは自由にできるが、観光客はあらかじめ旅行ツアーで決められた者だけしか上陸ができないようになっている。
午後は木箱に詰めた魚を購入してくれた店に搬送したり、船の掃除で終わった。
夕方宿屋『まぜこぜ』に戻り、約束通り店主の獣人親父『ガンドールド・ハテ』が特製ジュースをおごってくれた。話をすると意外と面白くて、子供好きやのに厳つい顔のせいで敬遠されるのがツライとか、実は一滴も酒が飲めないとか・・・。
意気投合してお互い『ガンさん』、私達を名前呼びしてくれる仲になっていた。
「はぁ~!満足したー!!」
「あーもうお腹いっぱい~~。」
部屋に戻り、私もゴウもベッドでゴロゴロ。ネイマはまだ帰って来てないし、無人島の事も決めないとあかんなぁ。
「ナイトさんに休み合わせてもらえるように今から言いに行かない?」
「お!そうだな。明日くらいには休みの日程も決まるだろうし、今から相談しに行こうか。」
ナイトの部屋は船員達の部屋の一番奥にあった。
コンコンッ
「ナイトさん!ゴウとメイです。居ますか?」
返事がないのでもう1回ノックしたけど、反応はなし。
あの船長ストーカーは、きっと船長の所におるな。
「ゴウ。たぶん船長室かも。行ってみよ?」
「え!船長室かぁ・・・緊張するなー。」
上の階に上がって船長室の前。ここは、幹部クラスの部屋もあってカイトやライトの部屋もある。
今度は私がノックした。「船長すいません。ナイトさんいらっしゃいますか?」
「お?いるぞ!入れ。」
ゴウが先に入ってくれ!と目線で促してきた。
「メイとゴウ入ります。失礼します!」
船長とキララ3兄弟がテーブルを囲んで座っており、視線が一気にこちらを向く。うわぁ・・・。威圧がスゴイ。特にナイト。私の事睨んでるやん!
「何だよ?俺に用があるんだろ?」ナイトが面倒そうに聞いてきた。
「はい。あの休日についてなんですが・・・恐縮ですがゴウと3日間同じ日にしてもらえないかと相談に来ました。」
「はぁ?下っ端2人いなくなったら雑用頼めねぇじゃねーか!」
「すいません!実は船長には話が通ってると思うんですが、ロゼさん経由でお願いして補助船をお借りすることになっていまして・・・休暇中、無人島に行きたいんです!」
「無人島~?!お前らだけでか?!」カイトが口を開いた。
「バカ!!死ぬ気か?お前らみたいなヒョロイのが無人島なんか行ったら帰って来れねぇぞ~。」ライトが笑っている。
「なんだ。ロゼと親子で行くんじゃなかったのか。てっきりゴウと2人で行くかと思ってたんだがな。ん~・・・。休みの件は、まぁ別に構わないがな。」とモリー船長も考え込んでいる。
「な?!船長、甘いですよ!コイツら下っ端のクセに生意気言いやがって。休日があるだけでも感謝しな。」ナイトが嫌味上司の典型のようにチクチク合いの手をいれてくる。
「何言ってんだ。お前だって小さい頃は船長と同じ休みにしてくれって駄々をこねてただろうが。」カイトが言うとナイトが”兄貴!!”と怒りだした。顔を真っ赤にして、ナイトと兄弟ゲンカというよりはじゃれている感じ。
「そうだったなぁ!!今も昔も船長の後を追っかけてるよな!!」カイトもゲラゲラと酒を煽りながらヤジ参戦。
私は顔を横にして笑いをこらえるのに必死。ゴウは顔が真っ青になっていた。
「そうだ!じゃあ俺も行くわ。よし。それで解決だな!」モリー船長の一言にキララ3兄弟が同時に
「「「はぁ?!何言ってんですかー!!」」」と声を揃えて叫んだ。