第27話 海上のバトル
早朝、ゴウといつものように食事の下ごしらえをしていると、ナイトがやってきて手伝い始めた。
「「おはようございます!」」「おはよう。」
”何でナイトが?”って私とゴウが目で会話する。
無言で野菜の皮をむき続けて一仕事終えると、今度は食器を出したり、掃除をしたり・・・と雑用が待っている。
船員たちが交代で食事をしに来るので、私達も合間をみて交代でご飯を食べる。
ゴウが先に行かせてくれたので朝食を食べていると、隣にまたナイトがやって来た。
ネイマも『なんか付いてくるね?』とジロジロ見ていた。
夕食以外はさっと済ませる事になっているので、皆食べてすぐに持ち場へ戻る。
私も気にせずに食べ終えると、ゴウの元へ向かった。
いつもはネイマにも手伝ってもらいながら仕事をするんやけど、今日はナイトが妙に近づいてくるからしばらく様子をみることにした。ゴウも食事から戻り、手分けして作業をした。
「よーし!ここは終わり。」「はぁ~。休憩だな!」
朝が早いため、11時から12時くらいに小休憩がもらえる。部屋に戻り、昼食まで昼寝して体力を回復する。
” 感知”
『やっぱりナイトが部屋の外から覗いてるよー。』
”そうだね。どうして僕たちの事見てるんだろ?”
寝所は4人で共有しており、二段ベッドがふたつある。下の段は他の人で私とゴウは上の段。
「なぁ、メイ。起きてるか?」
「うん?起きてるよ。」
「もう少ししたら【トゥルバル国】だな。」
「そうだね。どんな国かな?」
トゥルバル国は、エルフ族とハーフエルフで構成されている。自然が豊かなためか魔力に満ちており、魔法使いが一番多い国。ゾーイ大森林の守護を司っているとも言われている。交易はしているが入国は難しく、港や一部の検問所のみ出入りが可能なため謎の多い国らしい。
「ゴウって色々知ってるんだねー。頼りになるよ!」
「へへっ、なんか照れるな!でも昔助けて貰ったときのお前も頼りになったぜ。」
「じゃあお互い様ってことで。」
「そうだな!これからも頑張ろうぜ。」
ナイトの気配が消えた。
少しホッとしてウトウト寝ていると・・・。
「「出たーーー!!」」「「うわー!!」」
外から叫び声が聞こえて飛び起きた。
「「何?!」」
と甲板に向かって走っていくと急に船が方向を変えたため、私達も勢いづいてひっくり返った。
「うわー!!」「痛い!!」
ネイマが先に見に行ってくれて『なんかでっかいイカが暴れてるよ!』と教えてくれた。
波が荒れており、立っているのもやっとの状態。
「ダメだ・・・進めない・・・。」
「ゴウはここにいるか、船内で待ってて!」
「おい!どうするんだよ?!」
「大丈夫!待ってて!」
” 浮遊”
ほんの数センチだけ浮いて進んだ。
戦闘員でもあるエルフとハーフエルフ、獣人の船員達が中心となり、海の中にいるクラーケン?に攻撃をしかけていた。
漁の途中で網にかかった魚目当てに現れたようだ。
「メイ!!危ないから中にいろ!!」
ロゼが私に気付いて叫んだ。
「わかりましたー!!」一応柱の陰に隠れて様子を見ることにした。
魔法攻撃はなんとか当たっているけど、槍や弓はほとんど届いてないし、当たってもダメージになっていないようにみえる。
”ネイマ!聖霊体になってあのイカに触れてきてくれる?”
『オッケー』
”ステータスブック”
[サンカクラーク] 生命力 2500/3000
”あんまり攻撃効いてないねー?”
『魔力は限りがあるから・・・みんなが疲れきってしまう前に逃げてくれたらいいんだけどね。』
船の上は不安定で、波に攫われないよう腰にロープをくくりつけているが、サンカクラークが暴れるたび体勢を崩され、転倒している。攻撃も受けてるし、体力がどんどん奪われているようだった。
そうや!歌で皆の体力回復できるかも。
”ネイマ!同化するよ!”『”わかった!”』
ネイマとの同化により歌声が広範囲の海上に響き渡っていく。船員達もサンカクラークも徐々に動きがゆっくりになり、そして止まった。船の揺れも波も静かになっていった。
”お願い、サンカクラーク帰って!!元の所に戻って!!”
念じながら最後まで歌いきった。
「・・・ふぅ。・・・どうなった?」
『”わかんないけど静かだね”』
船員達はボーッと座ったり立ったりしている。サンカクラークの姿は消えていた。
海が見える所まで近づいて”感知”。
サンカクラークは半径5キロメートルにはいないようだ。
「・・・よかったー!!」『”やったね!!”』
思わず叫んでしまったが、それから間もなく船員達も意識がはっきりとしてきたのか、ザワザワ、ガヤガヤと騒がしくなってきた。
「「やったー!」」「「サンカクラークが去ったぞー!」」「「よかったぁ!!」」と歓喜の声が上がりだした。
「メーイ!!大丈夫かぁー?!」
ゴウが走ってきてお互いの無事を喜んだ。
モリー船長から「脅威は去った!皆、持ち場に戻れ!!」と号令があり、何事もなかったかのように船員達は持ち場へと戻って行った。
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その日の夕食の話題は、サンカクラークの事で持ちきりだった。
「なんで皆記憶が途切れてんだろうな?」「いつの間にか、サンカクラークがいなくなってたよな?!」
「俺・・・歌声が聞こえた・・・。セイレーンが助けてくれたんじゃないか?」
「セイレーンは俺達を惑わすんじゃないのかよ?きっと精霊様かやおよろずの神様だよ!俺たちには海の加護があるんだ!」
「そうだよな・・・。なんか傷や魔力も回復してたし・・・。奇跡が起こったんだ!」
”そうだ、そうだ!!”と、今日はモリー船長から酒が振る舞われたこともあり、久しぶりにどんちゃん騒ぎが始まった。
私はまだお酒が飲めない年齢なので、早めに抜け出して夜の静かな海を見に行った。
ゴウは15歳なので、獣人的にはオッケーらしい。ロゼが”海の男の洗礼だ!”と息子にガンガン飲ませていた。
『今日はけっこう大変だったねー。』
”うん。でもなんとかなってよかった。そうだ!ルーやリマに手紙でこの事教えてあげないとね!”
『そうだねぇ。忙しくて忘れてたけど、手紙書かないとだね。きっと待ってるよ?』
”父さんや母さんにも美味しい魚を届けてあげよう。ちゃんと送れたらいいけど。”
”フフッ”と笑っていたら急に肩をトントンッ
「何1人で笑ってるんだ?」
「え?」振り返るとモリー船長が居た。
「あ!いえ、ちょっと考え事してて・・・。すみません、思い出し笑いです。」
「いや、ゆっくりしている所すまない。皆羽を伸ばしてるから、邪魔にならないように出てきたんだが・・・1人じゃ暇でさ。お前が見えたから話相手になってもらおうと思ってな。」
「船長はお酒飲まないんですか?」
「俺達幹部は、今日は 船員に代わって夜勤だからなぁ。酒は飲まないんだ。たまには息抜きもさせてやらんとな。まどまだ航海は続くから。」
「そうなんですね。お疲れ様です。」
「明日か遅くても明後日にはトゥルバル国に着く予定だ。」
「やっと陸に上がれるんですね!あー嬉しいなぁ。」
「やっぱり海の上は辛いか?」
「辛くはないですけど、やっぱり不便ですよ。まぁ慣れてないから余計にですが・・・。」
「不便か・・・。俺はずっと生まれてから海の上が長いから陸の方が変な感じするけどなぁ。」
それから色々と話をしていたが、ナイトが船長を呼びに来たので私も部屋へ戻った。
すれ違いに何となくナイトが睨んでるような、警戒しているような鋭い視線を感じたけど、気付かないフリをしてやり過ごした。