第26話 断絶海域と死域
船での生活4日目で、断絶海域周辺に到達した。
この世界【レイグラム・ドランダス】で最西端にあたる【ゾーイ大森林】が近くにある。ゾーイ大森林の奥には【ラ・ファータ】=【エルフの国】が存在し、更にその奥には幻と呼ばれている妖精と精霊が暮らす精霊島があると噂されている。
その精霊島を守るために渦潮が発生しているのではないかとも言われているが、ニケピヒ同様存在自体はっきりとは確認されていない。
船全体に号令がかかり、断絶海域を横切るための厳戒態勢が敷かれた。
ゴウと私はナイトの指示通りに調理場の見張り役として船内に残り、非常時は自己判断で逃げることになっている。
「緊張するね。」
「さすがに俺もビビッてる。でもメイと一緒だしな。」
『大丈夫!僕も居るからねー』
上甲板はバタバタしており、船は慌ただしく、また緊張感が漂っていた。
「なぁメイ、死域って知ってるか?」
「シイキ?知らない。何それ?」
断絶海域とは反対にある『死域』は、一見静かに凪いでいる海面ではあるが、そこに入ると渦潮が突然発生し一気に飲み込まれてしまうという恐ろしい海域なのだそうだ。境界線がわからないため、うっかり近づくことが出来ない。
そこから先は死線、範囲はわからないが広い海域のため人々からは『死域』と呼ばれている。
この海域は、最南端の【マレ・リベロ国】からおよそ1,000キロメートル先にあるらしい。
正確な距離はわからないため、船が近づかないようマレ・リベロ国から500キロメートル付近に日本でいう”浮き玉”のようなものを並べて目印にしているとか。
「その死域に比べたらまだ断絶海域の方がマシなんだそうだ。見えてる分回避できるからって、学校で習った。」
「へー。死域も怖いね。そう考えたらちょっとマシなのか。うん、大丈夫だよね。」
「俺もなんか、お前に話したら冷静になれた気がする。」
『もうすぐ断絶海域だよ!どこかに掴まってて!』
「ゴウ!しっかり柱に掴まってて!」
「おう!」
次の瞬間、ドンッ!と何かにぶつかったような衝撃がきた。
「「うわっ!!」」
それからも度々、舵を急に切るので船が大きく揺れ、船員達の「うおー!」とか「うわー!」等叫び声が聞こえていた。
私とゴウもこの海域を抜け出すまで必死に耐えた。
どれくらい経ったのだろうか・・・。
船の揺れがなくなり、ドッと歓声があがったと思うとバタバタと足音が近付いて来て
「断絶海域をぬけたぞー!!」
とロゼが知らせてくれた。
『「「よかったー!!」」』
と喜んだのも束の間、すぐに調理場に散乱した物を片付け、下ごしらえを始めた。
ナイトがやって来て
「新入り無事だったか?・・・お、もう持ち場に戻って仕事してるのか。お前らやるな!」
と褒められたので、ゴウと顔を見合わせてニヤッとした。
その後は食事を運んだり、食べた後は食器洗いや荷物の整理を手伝ったりと断絶海域の後片付けに大忙しだった。
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夜、甲板に出て風に当たりながらボーッとしていた。
実はこれ、船に乗ってからのお楽しみタイム。
真っ暗な海に[ライトン]というクラゲみたいな生物が光り輝き、青や緑に変わる。
時々変種がいるのか、赤や黄色のものが混じっていて宝石箱のように綺麗だった。
『地球のイルミナーションみたいだね。』
”それよりもっと優しい光だけどねー。周りが暗くて静かだし、波の音が心地いい。すごく落ち着くし、見ていても飽きないよ”
仕事はいつも10時くらいに終わり、12時までは自由時間。
船員達はそれぞれ好きなように過ごすんやけど、私とネイマはここがお気に入りだった。
コツコツ、と足音が近づいてきた。
振り返るとモリー船長だった。
「お疲れさまです!モリー船長。」
「よう、新入り。あ、メイだったな。今日はご苦労だった。ナイトがお前ともう一人の新入りを褒めてたぞ。」
「ありがとうございます。ゴウと2人だったから、怖かったですがなんとか乗り切れました。」
「そうか。俺も実はホッとしてる。毎回こう上手くいくとは限らないからな。今回は損害もなく、お前らも無事でよかった・・・。」
モリー船長も同じように海を眺めている。
「夜の海って、綺麗だよな・・・。」
「はい。ずっと眺めてられますよね。」
不思議なんやけど、この船長からはあんまり威圧を感じへんのよなー。
背丈が大きくないからかもしれんけど、でも人を惹きつける雰囲気はある。美少年ではないけど中性的な感じで、日に焼けた褐色の肌は健康的な美しさや若さもあって、 陽のエネルギーに満ちている。
「何だ?じっと見られると気になるだろ?」
「あ・・・す、すいません!」
看護師の時のクセで、人をジロジロ観察してしまったぁ!!
『メイ、そろそろ戻らない?』
”おっけー”
「モリー船長。僕、そろそろ戻ります。」
「そうか。俺はもう少しここに居る。今日はゆっくりと休め。」
「はい!おやすみなさい。」
ぞくっとしたので、夜風で冷えてしまったと思い小走りで部屋に戻った。
そこから少し離れた柱の陰から、ナイトが2人の様子をみていたのだった。