第24話 家族旅行④
「子供達が心配してるんじゃないかしら。」
ベッドから見える窓の景色が、すでに日が暮れかけているためマリーは落ち着かなかった。
「大丈夫さ、あと少しで帰れるんだからな。それにメイ達がチビの面倒みてるだろうし、お前はゆっくりしとけばいい。」
ガイルは、椅子に腰掛けマリーの手を握った。
「先生もなかなか診療所には来れないからって、治癒術をかけて下ったり感謝はしてるけど・・・。こんなに長い時間安静にしてなきゃいけないんだったら遠慮すればよかったわ~。」
「何言ってるんだ。マリーに何かあったら、俺も子供達も生きていけないぞ?こういう時は黙ってしっかり養生するもんだ!」
真剣に見つめるガイルを見て、フフッと笑ってしまった。
「笑うとこかぁ?ほんと、お前といると力が抜けるよ。」
「あら、私はあなたに惚れ直したところだったのに?まるでさっきのは結婚を申し込まれたときみたいだったわよー。」
「こっ、こんな時にからかうなよ!」
ガイルは顔を真っ赤にして握っていた手を離し、“先生にそろそろ帰れるか聞いて来る”と部屋から出て行ってしまった。
マリーはクスクス笑いながら天井を見つめ、この旅の事を考えていた。
“あの人には格好いい事言ってしまったけど、私も2人が居なくなるとどうなるかずっと不安だったのよね。”
家族皆で思い出を作り、メイとネイマを送り出す機会が作れたのは気持ちの区切りをつけるには良かったし、まだ幼いルイやリマローズの育児に追われて疲れていた身体の休息にもなった。
“こうやって気遣かってくれる夫や子供達が居る私は、幸せ者ね。やおよろずの神さま、感謝致します。”
手を合わせて、そっと目を閉じた。
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「あ、父さーん!」
診療所の中をウロウロしていると、ガイルの姿を見つけた。向こうも手を振っており、こちらに気付いたようだ。
「遅いから迎えに来ちゃった。母さん、大丈夫なの?」
「あぁ。もう帰れるぞ。チビ達はどうした?」
『ノンが見てくれてるよー。』とネイマがノートに書いた。
「ルーもリマもすっかりノンに懐いちゃってるよ。」
一緒に病室に向かい、マリーと合流。顔色も良くて、安心した。
アーロン別宅へ戻る途中、『トランス』と『ボックス』の魔法が使えることを伝えた。
「じゃあ、2人の近況を手紙で知らせてくれるってこと?」
「うん。あと、美味しい魚とか送れるかもしれない。台所の桶に毎日水を張ってくれたら、そこに届くように試してみるよ。楽しみにしてて!」
「メイ、転移魔法使えるだろ?それで帰って来れるんじゃないか?」
「うーん。距離がどうかなぁ。あんまり遠いとミリュみたいに、予想外のところに転移しちゃうかもだから。」
少し残念そうにガイルが“そうだな。”と言ったので、
「船が停泊中なら出来るかもしれないけど、戻れなくなると船長さん達にも迷惑かけちゃうから。でも帰って来たら練習する。だって、冒険者になって遠くからでもすぐ戻れるようになったらいつでも会えるもんね。」
「無理はするなよ!」
「分かってるよ。あ、当日ツインズ達納得してくれるかな?付いていきたいって泣いちゃうかもなぁ。」
「大丈夫よー。お手紙くれるんでしょ?そこは私が上手く言っておくわ。」
「ありがとう!母さん。」
アーロン別宅に着くと、ノクターンとツインズが豪華な夕食で出迎えてくれた。
ガイルもマリーもツインズが頑張って作った事や留守番ができた事に感激して目を潤ませていた。
褒められてルイもリマローズも嬉しそうだ。“これなら、大丈夫かな。”とツインズの成長を確信した。
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翌日、ツインズを連れて剣士官学校を訪れた。
門番のワンダに木彫りIDを借りて、リカとミトラス達を探した。
“感知”
「ミトラスは近いなー。」
ちょうど休み時間を狙ってきてたので接触はしやすいねんけど。
「あ、クラーク。」「「ミーくん!いた!」」
ツインズが走り出したので、私も追いかけた。
「うわっっ!」「ククッ。」
後ろから突進したツインズの衝撃で、膝カックン状態になったミトラスとそれを見て面白がるクラーク。
絶対クラークは私とツインズが来るのに気付いてたやろ!
「久しぶり。」
「お!メイとチビ達かぁ!」
「急にごめんね。2人とも今日お昼ご飯一緒にどうかなって誘いに来たんだ。」
「ミーくんいこ!」「クーもおいで!」
クラークは呼び捨てなん?笑
「もちろん!」
「話したい事もあるしな。」
「じゃあ先に『小鳥のさえずり亭』で待ってるね。あと、リカ知らない?」
「あー。あいつ今、実践訓練行ってて学校には居ないんじゃないか?」
「そっかぁ。手紙で知らせておいたんだけど、仕方ないね。そういえば手紙はもう届いてる?」
「あぁ。旅の資金貯めるために仕事するんだろ?また色々聞かせてくれよな!」
「うん。じゃあ行くね。」
「あとでねー。」「まってるねー。」
学校が珍しいので、興奮気味のツインズを早めに連れ出して街中を散歩した。
まだ昼までには時間があるので、お店を見て回った。
ちなみにガイルとマリーは二人っきりで、デートを満喫しております。
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小鳥のさえずり亭に、ミトラスとクラークがやって来た。
そしてなぜか、ミリューイと友達のマリアンヌも。
「全く。こっちに来るときは私にも連絡しなさいよ!小鳥のさえずり亭で待ってて正解だったわ!」
「すみません~。ミリュったら、私達が勝手にお邪魔してるのにそんな事言ったらダメよ?」
「おい。何で増えてる?」クラークが静かにイラついている。
「ミリュ姉ちゃ、だよ。」「クーはおこっちゃダメ。」ツインズがたしなめる。
「マリアンヌさん、初めまして。ミリュの手紙で知ってるから初めてな気がしませんが。」
「私もです。メイくん。マリアって呼んで下さいね。」
「なんか大所帯だな。とりあえず注文しよーぜ!」
ミトラスが言うと、皆がメニュー表を見始めたのでその場が収まった。
「ミトラスって、リーダー気質だよね。」
「ミーくん、かっこいい!」「りぃだって?」
「沢山の人をまとめる、そうだなぁ。父さんみたいに頼りがいがあるって事かな?」
「「すごーい!!」」
ツインズは尊敬の眼差しを向け、素で照れているミトラス。
「メイ、コイツはこういう所が良いんだよ。周りを自然に巻き込むのが得意なんだ。自覚ないしな。」
「分かるなー。天然で男前だよねぇ。」
あれ?クラークが人前でミトラスを褒めるって珍しいよな?
「決まったかー?注文するぞ?チビ達は何がいいんだ?」
「んとね、からあげ!」「ウーパのスープ!」
それぞれ注文し、簡単に自己紹介も済ませた。
ミトラスとクラークは何か話があったみたいやけど、また今度でいいと言うのでミリューイがマリアンヌとの事を色々話してくれた。
「そういえばメイ、明日でしょ?パパが紹介した仕事に行くのって。」
「兄ちゃ、しごと?」「どこいくのー?」
「あー。明日言うつもりだったんだけどね。ルーとリマにお手紙書くから、父さんと母さんとお家で待っててくれる?」
「どこいくの?!」「パパといっしょ、ちがうの?」
「うん、船に乗っていくんだよ。また帰ってくるよ?そうだ、約束のしるし。」
おでことおでこを合わせた。
「あとこれ、持ってて。使うときは父さんと一緒にね!ノンとお留守番できたいい子の2人にお土産買ってたんだ。」
折り畳みナイフを渡した。
「「剣ー?!」」
「剣ではないけど、狩りのときや持ち運びができるから便利なんだよ。でも自分や他の人を傷つけることもできる。危ないから、必ず父さんか母さんと一緒に使うんだよ?約束ね。」
今度は、頭突きのように2人から私のおでこにぶつかってきた。めっちゃ痛い!
「「わかった!ありがとう!」」と満面の笑みをツインズが見せてくれた。
とりあえず、ランチはここで解散。
別れ間際にこっそりクラークが“今日の晩10時に学校の校舎裏で待ってる”と言ってきた。
ミトラスも目で合図してきたので、“分かった。”と返事をした。
 




