第17話 ミトラスの憂鬱
二人のやり取りが好きなんです。
国立剣士官学校、男子寮内――――――――
「おい、ミトラス居るか?」
返事がない。もう一度、トントン、と部屋の扉を叩いた。
「感知。」
ミトラスの気配は・・・あ、校舎裏だ。もう一人いるな。
「相変わらず不用心な奴。」と勝手に鍵のかかっていないミトラスの部屋に入り、ベッドで帰りを待つことにした。
・・・・・数分後、
”はぁ~~~。”とため息をついて部屋にミトラスが戻ってきた。
「うわっ!!なんだよ~クラーク、勝手に入んなよ。」
「遅いぞ。」
「何でだよ!約束してないだろ、別に。」
妙に機嫌が悪い。
「腹減ってるのか?ご機嫌ナナメじゃないか。」
「違う。ただ、なんかちょっと憂鬱なだけだ。」
珍しく元気のないミトラスをみたので、クラークも今日は茶化してはいけないと感じた。
「悩み、か?何だよ言ってみろ。」
・・・・・
「この6年間ほとんど学校と寮で生活してただろ?あの"ばーべきゅー"やって思った。もっと色んな事やっとけばよかったなって。・・・もうすぐ成人だし、何より卒業して働きだしたら皆とも会えなくなるだろ?」
「そうだな。リカとケンカせずに長い時間一緒に居れたのって初めてだったんじゃないか?」
「ま、まぁな!それもあるけど、メイ達と過ごしてすっげー楽しかったんだ。あんな風に、なんか自由にやったことってなかったし・・・。」
「ふん。まぁ、それは同意する。初体験ってやつだな。」
「なんか違う気もするけど。それでさ、俺達って上位グループだろ?あと少ししたら実践訓練、職場見学して配属先の希望を出さなきゃならない。」
「そうだな。僕らはまだ配属先を選べるだけマシさ。」
「あぁ、迷ってるっていうか・・・贅沢な悩みだよな。わかってるんだ。このまま就職した方が利口だって。」
「そういえば、校舎裏で誰かと会ってたのか?」
”ぶっ”思わず吹いた。
「おまっ!!お前~~!見てたのかよ?!」
「いや、引っかけだ。わかったぞ、また告白されてたのか。」
「・・・自慢じゃねぇぞ?そうだよ。どうせ、お前に嘘ついても何故かバレるしな。」
「また”リカ”の名前出したんじゃないだろうな?」
「出してないよ。それはもう下級生の時に懲りてるからな・・・。」
「"いけめん"は大変だな。」
「なんだよ?そのい、いけなんとかって!」
「メイが教えてくれたんだよ。面の良い男の事を”いけめん”って言うらしいぞ?」
「嫌味かよ・・・。」
下級生の時から、度々告白をされていたミトラス。
真っ直ぐでバカ正直なので、”自分が好きなのはリカだ”、と断る時に相手の子に伝えていた。
その内、嫉妬した女子の一部がリカに嫌がらせを始めた。
リカは嫌がらせを受けても気にしていなかったが、ある時原因に気付いてしまって激怒。
それ以来、リカにとってミトラスは有無を言わせず”天敵”となってしまったのである。
「今更悩んでも仕方ないけど。兵士って中途採用あるだろ?だから、一年・・・いや納得いくまで別の事してもいいんじゃないかって考えてしまうんだよな。」
「例えば冒険者とか?」
「そうだよな。そこもはっきりしないんだよな・・・。」
「メイとさ、一緒に世界を旅するって面白そうだよなぁ。」
ポツリとクラークが呟いた。
「それだー!!!そうだよ!一緒に、仲間と一緒に世界を旅するっていい案だよな?!」
「メイが嫌がるかもな。」
”そうだよな・・・。”またミトラスの表情が一気に暗くなった。
”コイツは本当に顔に出るよなぁ”と思いながらも、そんな自分と正反対だから面白く、興味深い事をクラークは分かっていた。
「メイがどう判断するかわからないが、一度交渉してみたらどうだ?」
「どうやって?俺も冒険者になるから、一緒に行こうぜって言うのかよ?」
「それより、自分がどれだけ役立つか伝えるのがいいかもな。伊達に6年間も剣術や勉強をしてきたわけじゃないだろ?」
「そ、それいいな!あ、んー・・・。俺の良い所ってなんだろう・・・。」
「じゃあお互いにまず、紙に書きだしてみるか。」
「え?お前もなるの?冒険者に?!」
「当たり前だろ?俺の案だぞ。嫌なら俺一人で交渉してみるが。」
「いやいや!一緒に考えようぜ!!」
メイの知らない所で、事態は静かに動き出していた。