第15話 日常と変化
ブックマークが増えていたり、訪問して下さる方がいるのがとても励みになってます!ありがとうございます!
「ん・・・何か・・重い。」
よくわからない圧と息苦しさで目が覚めると、ツインズが身体に半身ずつ乗っていた。
起こさないように、ゆっくりとどける。
「あれ?ネイマがいない。」
リビングに行くと、ネイマが朝食を準備していた。
「ネイマおはよー。」
『おはよー。メイ♪』
ネイマは実体化してから味覚や触覚等を得たけど、別に眠らなくてもいいし、排泄とかもしない。
食べたものはどうなってんの?て思うけど、ネイマ曰く魔力として消費されているらしい。
聖霊は謎だらけや。
「母さんは?」
『寝てるよー。昨日は大人組は朝方まで飲んでたからね。たまにはゆっくりさせてあげたくってさ。』
「そうだね。僕も手伝うよ!」
『ありがとうー。』
自室にそーっと戻り、着替えて朝食作りを手伝った。
「いい匂いー♪ネイマ、料理うまくなったよね!」
『そりゃあ異世界知識とママ仕込みのレシピがあるし♪旅に出るなら料理もできないとねー。』
頼もしい風の聖霊です。
「うわー。美味しそう~♪」
リカが朝食のスープの香りにつられて起きてきた。
『「おはよー、リカ。」』
「おはよう。私も手伝うわ。」
ほぼ出来上がってるので、ネイマはツインズ達を起こしに行った。
私はテーブルにお皿を並べて、とりあえず子供達の分だけ準備した。
「これ全部メイが作ったの?」
リカに聞かれたが、ネイマのことは話してないので心苦しいけど、“うん”と頷いておいた。
「料理出来るなんてすごいわね。」
「冒険者になるからね、色々母さんやカノンさんとかにも教えてもらったんだ。」
「冒険者、かぁ。」リカが席に着く。
頬杖をついて黙り込んだ。
「リカって、卒業したら国仕えでしょ?新人は配属先とか決まってるの?」
「まだよ。上級生ハイクラスで上位5位までになるとね、好きな配属先を選べるの。あとの人は勝手に決められるけど。」
「希望の配属先とかあるの?」
「それがないのよね~。勝手に決められるのが嫌でずっと上位グループで頑張ってきたけど・・・。」
「なんか、目標とか目的がないからこのまま卒業するのが怖いというか、虚しいというか。」
あ、これ心理社会的モラトリアムってやつかな?エリクソンとかいう人が言ってたような・・・。大人になる猶予期間、大体13歳から19歳の、要するにティーンエイジャーが『自分は何者だろう』というアイデンティティーの危機を経験し、何タラカンタラ・・・って言ってたな!
ハラ王国では18歳から成人と認められる。
これはマシュウから教えてもらったんやけど、数年フリーターして、公務員になる人もいるらしい。
魔法使いは特に人手不足やから、生徒の我が儘?まぁ言い分をかなり融通してあげるんやって。
それに魔法学院は、ミリューイみたいに幼くして入学する子もいるから、成人までの猶予期間みたいな感じで、条件付きで認められるケースもあるとか。
反対に剣士官学校は、割と生徒数も多いからそういう人がいても自由度が高い。国としても中途採用もあるから人手としては要るけど、再度試験をして合否を決められる。
卒業後、ストレートで就職すれば待遇もいいけど、間が空けば中途採用扱いのため条件が結構厳しいのだ。
ただし、上位5名は別格。特に下級生の頃から上位グループだったリカ達は、エリートやからそう簡単には国も手放さへんやろうなぁ。
「まだ時間あるんだから、ゆっくり考えたら?」
「・・・そうよね。まだ時間はあるわよね。」
ツインズ達が起きてきた。
「「おはよぉ。」」『洗面もしてきたよ!』
「「おはよう。」」
「先に朝ご飯食べちゃおう!」
「「「「いただきます。」」」」
『僕、台所で食べるねー。』
ネイマはリカに気付かれないように台所へ向かい、私は“オッケー”とジェスチャーした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「もう~。パパもママも・・・リヴィさんもまだ寝てるのね!」
ジンクス家では、ミリューイが朝食を作っていた。
「お姉ちゃんおはよう。」寝ぼけ顔でライールがやってきた。
「ライ♪おはよー。」ミリューイはご機嫌な様子。
ライールは両親が起きていないことに気がついた。
「か、母さんは?」
「昨日は朝方帰ってきたみたいだから、まだ寝てるわよ?」
じゃあこの香り・・・。
お姉ちゃんが朝食を・・・?
「もうすぐできるから、朝ごはん!先に顔洗ってきなさい~。」
ライールは急にしっかりと意識が戻り、一体何を作ってくれたのだろうかとドキドキしていた。
最近は、変わった料理でなければ見た目も味も悪くない。
“どうか普通にパンとスープでありますように”と祈った。
リビングに行くと、食事が並べられていた。
見た目も美味しそうで、スープとサラダもいつもと同じ。
「お姉ちゃん、ありがとう!いただきますっ。」
「いただきますー。」
「美味しいよ?!お姉ちゃん!」
「ライったら大げさねー。でも良かったわ♪」
ニコニコしながらミリューイも朝食を食べた。
本当はほとんどカノンが作って置いてたものを焼いたり、温めただけなのだが。
予想以上にライールが喜んでくれたので、言うタイミングを失ってしまった。
「昨日はばーべきゅー楽しかったわね!」
「うん。いろんな人がいて楽しかった。」
「ライもちゃんと皆とお話出来て良かったわ。」
「学校って楽しそうだね。ぼくも大きくなったら学校に行きたい。」
「そうね!剣士官学校は、何も兵士だけの学校じゃないからいいかもしれないわね!ライなら優秀な事務官になれるわよ。」
「わからないけど、もっと勉強したい。同じ年の友達だけじゃなくて、年上の人とかとも話してみたい。」
「まさか!リカの事?!ライ、リカを気に入っちゃったの?!」
ミリューイが椅子から立ち上がり、顔を近づけてきた。
「ち、ちがうよー!ミトラスさんとかクラークさんとか。すごく格好よかったから。」
ミリューイはホッとして席に着いた。
「メイ兄さんもだけど、ぼくより年上の人とも交流するには学校に行くしかないなぁって。」
「そ、そうねー。私もマリアという“親友”が出来たしね!!」
「12歳まで長いなぁ。」
「魔法学院は特例があるけどね。10歳になったら町の学校行きたいって、パパに頼んでみたら?」
「そうかぁ。でも【ドン】からは遠いよね?」
「んー。ライが寂しくなければ、住み込みで行けるとこもあるわよ?」
「・・・もうちょっと考えてみる。」
“ふふっ”、とさすがにまだ3歳のライールにはパパとママが恋しいわよね、とミリューイは笑ってしまった。