閑話①ミトラス・ムーについての観察
この2人けっこう好きなんです。
「リカ、今頃メイと会ってるよなぁ・・・。」
ミトラスの呟きを横で聴いてしまった。
『クラーク・ロイブ』は、剣士官学校の上級生:ハイクラスの上位グループの一人だ。
下級生:ロウクラスからずっと一緒に過ごしてきたミトラスとリカとあと数人で、ずっと上位を競い合い、切磋琢磨してきた。
入学当初から、ミトラスがリカに気があるのは知っていた。
あと、話題によく出てくる“メイ”という共通の友人への複雑な想いも。
一度紹介してもらい、昼飯を一緒に食べたこともあったが、特別何かに秀でているとは思えない普通の年下の男の子だった。なのに、ミトラスはやたらと“メイ”をライバル視しているようなのだ。
「お前、帰省しなくてよかったのか?」とミトラスに聞いてみる。
「ん?んー、まぁ帰っても家の仕事しなきゃいけないし、こっちのがゆっくりできるからなぁ。」
「そういうお前こそ、家族がご馳走作って待ってるんじゃないのかよ。クラークって年に1回くらいしか家に帰ってないよな?」
「僕も同じさ。帰っても見合い話や成績のことしか聞かれないからね。ゆっくり過ごすなら寮の方が落ち着くよ。」
「えー!もう見合い話あんのかよ?金持ちは大変だな。政略結婚とかさせられるとかないわー。」
「だから僕は家督を継かずに、宮仕えの道を選んだのさ。」
「俺も似たようなもんだけどな。家に金送って、あとは自分のために使える分稼ければ十分だけど。いずれ実家に戻るとしても、今はなんか自分の力で色々やってみてぇんだよな。」
ミトラスは、男女ともに人気があり、人望も厚い。あと見た目もいいと思う。
剣術の腕はリカに引けを取らないが、いざって時にリカを相手にすると無意識に力を抜いているようにみえる。
リカはそれが気に入らないらしく、いつも喧嘩腰になってしまう。
だから2人で出かけたことはなく、ミトラスは何度も機会を伺っているが、一度も上手くいった試しがない。
僕はその2人の間に入る調整係だ。
この役ができそうなのは僕か、あと思い当たるのは・・・2人くらいかな。
何と言ってもクラスの男女1番人気のカップルだから、男でも女でもリカかミトラスの邪魔をしようと必死だ。
もしくは取り入ろうとする。
リカはその辺りをわかっているが、ミトラスは典型的な鈍感男で、天然のヒトタラシ。
自覚なく、周りを魅了していく。勇者タイプだな。
一途で大雑把だが、人情に厚く、人を引き付ける何かがある。
あまりクラスメイトとも関わらなかった僕の数少ない友人ともいえる。
「くっそー。親父さんが迎えに来てなかったら俺も付いていくつもりだったのに。」
「ククッ。あれは面白かったな。凄い威圧感で周りを圧倒してたからな!」
「笑いごとじゃねーよ。声すらかけられなかったし。」
「休みの間どうするんだ?」
「まだ何も考えてないけど?」
「そうか。俺も暇だし、何かあったら呼んでくれよ?」
「は?何もねぇーよ。はぁ。リカの帰省に付いて行ってメイを驚かせてやりたかったな。」
「恋敵の偵察か?」
「違ぇよ!!あいつは友達だ。別に恋敵とかじゃねぇし。」慌てて否定する。
「ふぅーん・・・。リカは“会えるの楽しみー”ってはしゃいでたけどな。」メイの事かは知らんけどな。
「本当か?!そんなに喜んでたのか?」
「そういう話はしてたな。帰るとき親父さんと。」
はぁー・・・。
深いため息をついて、窓の外を見て黄昏れている。
からかいすぎたか?
「あれこれ考えても仕方ないだろ?飯食いに行くか?今日は僕が奢ってやる!」
「お!行く行く!!本当に奢りだな?」
「男に二言はないさ。」
「すぐ行くぞー!」
バタバタと支度をし、小鳥のさえずり亭へと向かった。