13章 男旅その3~為せば成る、為さねば成らぬ
来年1月3日くらいまで連続1話ずつupできたらいいなぁ。
ガイルとアーロンは悩んでいた。
メイからの提案を実行してもいいものかどうかと。
カノン不在の中で魔法を扱うとなると、もし何かあった時どう対処していいかわからないからだ。
『”だいじょうぶ。れんしゅうしたよ”』とネイマがノートに書いた。
「このままじゃ、二人はおとうさんに会いに行けないよ!」
「そうだな。俺たちが治療費を肩代わりできるような金額じゃないからな。」
「でも、どれだけ回復できるかわからないんだろ?」
「うん。保障はできないけど、痛みがひいたらいいかなって。何か協力したいんだ。」
『”やってみて、ダメならかんがえる”』
・・・・・
「よし!俺が責任とるから。アーロンも賛成してやってくれ。」
「おい~・・・いいのか?俺たち何もできないぞ?」
「大丈夫!成功させるよ!!」『”がんばる”』ネイマもやる気だ。
「じゃあ今日の夜に宿屋の裏で。人に見られたらややこしいからな。あと、俺は見張り役をする。何かあった時に全員動けないと困るからな。」とアーロンは渋々了解してくれた。
「そうだな!メイ、ゴウとチイには回復魔法が使えるってことにしといて、絶対秘密にしてもらえよ?ネイマの事は内緒だぞ?」ガイルも条件付きで納得してくれた。
「わかった!」『はーい♪』
私達もゆっくり休むことにした。
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ガイルは二人の様子を見に行き、チイに食事を食べさせて、作っておいた痛み止めの薬草茶を飲ませた。
ゴウも起きる気配がないので、ベッドへ移動させた。
”時間まで酒でも飲むか。”
下の酒場に行くとアーロンが先に飲み始めていた。
「ガイル!こっちだ。」
二人だけで、こうやって飲むのはかなり久しぶりだった。
家族で集まる事はあるが、子供ができてからはなかなかできなかった。
それに、ガイルやマリーとは少し疎遠だった時期もある。
アーロンはガイルとはたまにノグで偶然会う機会もあった。飲みに誘おうかとも思ったが、ガイルが何となくアーロンを避けていたのだ。
「なんか、酒が旨い。」
「なんだぁ?最近酔いが早いぞ?ガイル!」
二人は同郷の幼馴染。アーロンが5歳年上で、兄のような存在だった。
最初に故郷を出て行ったアーロンのおかげで、【ノグ】への剣士官学校行きを決め、追いかけることができた。
辛いことがあっても、度々気に掛けてくれるアーロンの存在があったから頑張れた。
こうやって二人で飲んでいると、懐かしい日々が蘇る。
アーロンは、ガイルとこうやって飲めることが本当に嬉しかった。弟みたいな存在で、たまに無茶をするから目が離せない・・・。自分を慕ってくれて、でもちょっと生意気なやつ。
【ノグ】で商人の修行中、見習いとして辛い事があっても、ガイルが居たから頑張れた。情けない姿を見せたくなくて、必死で知識を身に付けた。たまに一緒にご飯に行ったり、成人してからは飲みに行ってバカ騒ぎしたり。
「何で黙ってるんだ?」
「アーロンこそ、さっきからちょっとしか飲んでないぞ?」
ハハハッとお互い目が合うとなぜか笑ってしまう。
「メイのやつ、どんどん凄くなるなぁ。」
「だろ?自慢の息子だよ。ネイマも居るし、見えないが存在を感じる時がある・・・。」
「生まれてくる子供も楽しみだな!うちももう一人頑張るかな!」
「いいな。そんでまた、皆集まってバカ騒ぎしようぜ。あとたまには二人で飲みに行こう!」
乾杯!と飲み干してもう1杯頼んだ。
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「起きろー。そろそろ準備するぞ。」
身体を揺さぶられて目が覚めた。
「ん・・・。父さん、もう夜?」
「あぁ。晩飯先に食べて、それから二人の所へ行こうか。」
変な時に寝てしまったので、まだ頭が働かない。『ご飯食べて頑張るぞ~!』とネイマははりきっている。
部屋に運んでくれたので、ネイマと二人で食べた。
アーロンは、ゴウとチイに食事を運んでくれているらしい。
お腹いっぱいになると、やる気も出てきた。「ネイマ!同化お願い。」
『風』『”同化”』
”来た来た!” 目を閉じて集中する。
風を身体に収める。
・・・・・
「よし、隣の部屋に行こう。」
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コンコンッ
「来たな。」
ゴウとチイはちょうど食事を終えたところだった。
治癒魔法をチイの足に使う事と、ただどれくらいの回復力かは不明なこと。あと、メイがこの魔法を使ったことは親にも言わない事、ここだけの秘密にするということの確認を二人にした。
「メイ・・・。すごいな!でも、治療費もだけど回復魔法もお金、払えるか・・・。」
「私、我慢できる。こうやってお世話してくれて、本当に感謝してます。」
「お金は要らないよ!治療費は父さんたちに相談しなきゃだけど、回復魔法に関してはどれくらい治してあげられるかわからないし。旅の疲れがとれる程度だったらごめんね。」
「と、いうわけだ!どうする?お前達で決めてくれ。」とガイル。
「お金の事は気にしなくていい。治癒魔法を受けるか、受けないかだけで決めてごらん。」とアーロンも優しく問いかける。
ゴウとチイは顔を見合わせて、にこっと笑った。
「「ありがとうございます!よろしくお願いします!」」
チイをガイルが背負い、皆で宿屋の裏の少し離れた人気のない場所へ移動した。
「ちょっと待っててね。」
魔法陣を書いて、準備する。昼間よりは大きめの円陣を書いた。
アーロンは人が来ないか周りを見張っていた。
「よし!じゃあこっちに来て。」
ガイルとチイ、ゴウが円陣の中心に立った。
「じゃあ始めるね。 」『「魔法内陣」』
魔法陣に魔力が放たれて、一瞬光る。
「「うわー!」」
『「・・・ 風壁」!』
自分の中で風が巻き起こり、昼間の”繭”を思いだす。想像、創造・・・。
集中していくとさっきまでの風は収まり、外は風壁、みんなが居る中には暖かい空気が充満していった。
興奮していた二人も静かになり、表情が緩んでなんかふにゃ~っと力が抜けている。
ガイルも緊張していた気配が無くなり、いつの間にかチイを背負っている腕の力が抜けていくのを感じていた。
”やばいっ”と思ったが、だらんと両手が下がってしまった。
チイはフワフワと自分の身体が浮いているように感じていた。そして、ゆっくり地面に足が着地。
右の足首がとても痛かったのだが、地に足が付いた瞬間も、全く痛みは感じていなかった。
ゴウもチイもガイルも、そのまま目を閉じて眠ってしまいたい気持ちになって、身体の疲れが抜けていき足元から暖かい風がポカポカと全身を温めていくような感覚になっていた。
外から見ていたアーロンは、魔法陣が丸い繭のようなものを閉じこめており、竜巻のような風が纏わりついていたので中がどうなっているかわからなかった。
駆け寄って「おい!大丈夫なのか?おーい!」と声をかけ続けていた。
ネイマと私も同じようにフワフワ、ポカポカの中、気持ちいいなぁと瞼が重くなっていたが、途切れ途切れに聞こえるアーロンの声に気が付いた。
「ネイマ!」
『” 風”』
私はゴウとチイの手を引いて、魔法陣の外へ。もう一回引き返してガイルの手を引いて魔法陣の外へ出た。
三人はぼーっとしているが、「起きて!」と言うとはっとしたように目が覚めた。
「だ、大丈夫なのか?」アーロンが言うと
「「すっごいよ!!」」「メイ凄いぞ!」と三人が叫んだ。
アーロンがチイに”足はどうだ?”と確認すると「腫れてるのもなくなっちゃたし、全然痛くない♪」と笑顔で答えた。
『「良かった・・・。」』ネイマと私も心底ホッとした。
『”なんとかできたね!”』「ほんと、為せば成る、か・・・。」
ヴァンウォールが消えるまではその場に留まった。
アーロンは“自分も疲れてるから回復したい”と言うので、もう一度一緒に中に入った。
しばらくすると繭が消えてしまい、私達は宿に戻った。