第13章 男旅その2~転ばぬ先の杖~
思わぬハプニングで知り合った獣人ハーフの兄妹は、『ゴウ・カナタ(兄)』、『チイ・カナタ(妹)』と名乗った。ハーフではなく、クォーターらしい。
二人とも目深に帽子を被っており、マントを羽織っていたからわからなかったが、耳と尻尾があってカワイイ!
耳の形から、犬っぽい??と、ジロジロ見ては失礼だとは思いつつも、初めての人型獣人との出会いにワクワクしっぱなしの私。
ノクターンは、完全に大型ペルシャ猫が二足歩行してる姿だったから、それはそれでモフモフ、ふわふわで最高やったんやけどね。
この子達もよーく見るとマントからふさふさの尻尾が見えていて、耳もピンッと立っていて・・・いい!!
コスプレではないから、余計に触りたくなる・・・。
禁断症状を必死に抑えていると、ゴウが「お前何て言うんだ?」と聞いてきた。
「メイ・パロットだよ。ゴウとチイは何歳なの?」
「俺は10歳。チイは8歳。お前は?」
「たぶんゴウと同じ年くらいだと思う。よろしくね!」手を差し出すと、ちょっと驚いていた。
「お前・・・俺たちが嫌じゃないのか?」
「何で?友達になりたいよ!僕、同い年くらいの獣人の友達初めてだ。チイもよろしくね。」
ギュッと握手して、チイも手を握ってくれた。
「着いたぞー。」
「ちょっと待ってろよ?」
アーロンとガイルが馬車から離れて診療所の中へ。話をつけてくれたみたいで、ガイルがチイを背負って診療所に入って行った。
アーロンは仕事があるため一旦別れて、ゴウと一緒に診療所の待合室で荷物を持って座って待った。
少し沈黙したが、ゴウが話し始めた。
ゴウ達は、【ハラ王国】の隣国【ジュールド共和国】の出身。父親が【カタ】のアドア漁港の漁師をしていて、年に数回しか帰って来れないらしい。
もうすぐ漁から帰ってくる時期なので迎えに来たのだが、自国を出る時に【トルスの森林】で[バグ]に遭遇。走って何とか逃げ切れたが、チイが逃げる時に足を痛めてしまったらしい。
お金もあまり持っていないので診療所には行けず、【オキ】までは歩けていたが、だんだん足が腫れてきてしまい、【トゥ】に着くまでにとうとう痛みで座り込んでしまったらしい。
「大変だったんだね。ゴウもチイもよく頑張ったね。」『”二人ともエライね!”』
「本当に助かったよ。ありがとう・・・。門兵が俺が獣人ってわかった途端、話を聞いてくれなくなったから。」
『”嫌なやつだね!!”』「そういうこと・・・よくあるの?」
「一部の人間だけな!お前達みたいにいいやつもいるし。どこの国だってそんなもんだろ?」
そうやな・・・。地球だって人種差別はある。 異世界だって人間関係は同じやねんな。
「あの・・・さ。助けてもらった上に言いにくいんだけど・・・。」下を向いて言葉を選んでいるようだ。
「どうしたの?何でも言ってみてよ。出来る事は協力するよ!」
「お金。ここの診療代・・・。貸してもらえないかな・・・。今持ってる分だけじゃ足りないと思うし・・・。」
「わかった!父さんに相談してみるよ!」
マントから尻尾がブンブン動いている・・・!!か、カワイイ・・・。
「本当か?!あ、ありがとう!本当にありがとうな!!」とギュッと手を握って立ち上がった。
「大丈夫。父さんもアーロンおじさんもきっと助けてくれるよ。」
ホッとしたのかゴウのお腹がギュウルル~と鳴った。めっちゃ顔が真っ赤になって、大笑いしたら”笑うなよっ”ってお腹を押さえて恥ずかしそうにしていた。
それから回復キャンディを食べていると、ガイルがチイを背負って出てきた。
「もう大丈夫。一応添え木を当てて処置してもらったからな!」
「ありがとうございます!」ゴウはまた頭を下げて、チイに駆け寄った。チイは安心したのか、スウスウと寝息を立てて眠っている。
ガイルが“とりあえず宿屋に向かう”と言い、歩いて向かった。
―――――――――――――――
宿屋兼酒場『ぶるぶる』は、”【トゥ】の土地柄には合わせない”のがコンセプトで、わりと強面の冒険者や商人などが御用達の店だ。静かな住宅街から少し離れた所に建っている。確かに周りから浮いていて、中からガヤガヤと賑やかな音が聴こえてくる。
マリーやカノンが居たら絶対入れないであろう場所だったから、かなり楽しみだった。
酒場のカウンターで話をしたガイルは、2階への階段を上がっていき、部屋にチイを寝かせた。
動かしても全く起きない。よっぽど疲れてたんやなぁ。
ゴウはベッドの横の椅子に座り、チイの手を握っていた。
私とガイルは部屋を出て、隣の部屋に入った。
「ゴウは何か言ってたか?」
聞いたことは全部伝えた。あと、今かなりお腹が空いていることも。
「チイはどうだったの?」
たぶん足首の骨にヒビが入っているだろうと。治癒魔法である程度回復させることはできるが、金貨10枚と言われ、とりあえず痛み止めの処置と薬草茶をもらったと教えてくれた。
「お金のこと気にしていたから、父さんの判断は正しいよ。」
「とりあえず、飯食うか!」
ゴウを呼びに行き、下の酒場で昼ご飯を食べた。”チイにも”、と少し容器に取り分けておいた。
食べ終わるとゴウも眠そうにしており、部屋に戻らせて休ませた。
ガイルが”アーロン探してくるから、メイは二人を看ててくれ。”と出かけて行った。
「ネイマ・・・今まだ同化してるでしょ?」『”うん?”』
「前に魔力制御できなかった時、力が暴走して ”ヴァンウォール”を放ったでしょ?あの時カノンさんが”回復力がある”って言ってなかった?」
『”そっか!でも・・・コントロールできるかなぁ?”』
「そう・・・でももし暴走しても周りに害はないと思うんだけど?」
『”・・・そうだね。二人でやってみようか?”』
こっそり外に出て、カノンに教えて貰った魔法陣を木の枝で地面に書いた。人が二人くらいは入れる小さめの円陣。
一呼吸して、集中。
『「“魔法内陣”」』と唱えると、魔法陣に魔力が帯びた。
「さぁネイマ。ここからだよ!」『”うん♪集中だよ~”』
『「“ 風壁”」』
もの凄い風が巻き起こったような感覚になったが、ずっと練習してきた魔力をイメージしてコントロールすること。
魔法陣も今のところ突破されていないが、バリバリと音がして、時折光が視えている。
”ここに 止めて、濃度を高める”、あの時の繭を想像して、繭の周りは風を纏わせ、中は回復できる空間を作る。創造できたとき、風は穏やかになった感じで、外は風壁、中は暖かい空間が出来上がった。
『「できたよね?!」』ネイマの声が頭に響き、私も同時に叫んだ。
私も旅の疲れが癒されていき、その繭のなかでプカプカ浮いてるような、身体もポカポカしてきた。
『”なんか気持ちいいね~”』ネイマもまったり。
よし、なんとかなりそう!
「ネイマとりあえず同化一回解こう。」『”風”』
繭は魔法陣に残したまま、周りを確認しながら消えるのを待った。
―――――――――――――――
宿屋の部屋に戻ると、ゴウは椅子に座ったままベッドにもたれかかり眠っていた。
チイも眠ったままだった。
食べ物と水を机に置いて考えていた。
「実行するなら、チイを父さんに背負ってもらって、みんな一緒に旅の疲れを回復したらいいよね。」
『”そうだね!まだ旅は続くからいいと思う”』
―――――――――――――――――――――
ガイルとアーロンが戻ってきたので、さっそくこの作戦について話してみた。