第10章③しばしの別れ
子供の成長は早いんです。親心、子知らず。
パロット家の玄関を出て少し歩くと、“準備はいい?”とカノンが肩をぎゅっと掴んで
「 転移。」と唱えた。
今回は二人で転移魔法を使うため、手荷物もあるので、一度【カタ】で休憩し【ノグ】に向かう予定だ。
カタの街では、【アドア漁港】があり、アーロンが商談をしているのでお昼ご飯を一緒に食べる事になっていた。
「待ち合わせまで時間があるわ。ちょっと市場を見て回りましょうか?」
「うん!」
久しぶりのカタの街。年1回はアーロンの仕事についていき、旅を楽しみにしていた。
「活気があるわね~。」
「いろんな魚のニオイがするわねっ。」
時々雑貨屋もあり、貝殻や真珠などでアクセサリーや小物入れを作って置いている。
「これ、カワイイ♪」
珊瑚で作ったブローチがあり、自分のお小遣で買える値段だった。
2つ購入し、カノンの後を追いかけた。
カノンはアーロンを探していた。
一応待ち合わせの場所は決めていたが、商談に夢中になると時間を忘れるタイプだったからだ。
市場を一周したが見当たらず、“仕方ないか”とミリューイと一緒に待ち合わせ場所へと向かった。
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アーロンは商談を早めに終わらせて、漁師達が集まる船場にまで来ていた。
娘のために、[トユトユ]までとはいかなくても美味い魚を食べさせて学院へと送り出したいと思っていた。
「おーいたいた!ザック。なんか美味い魚ないかー?」
「アーロンか!そうだな・・・あ、活きのいい[タツオ]がさっき捕れてたな!」
「おお!頼む!譲ってくないか?娘が学院に戻るから美味いものを食べさせてやりたいんだよ。」
「ミリュか?なら譲ってやるよ。刺身にしてやろうか?」
「いいのか?!ありがとう!頼むよ。」
ザックは“ちょっとまってろ”と、その場を離れた。
アーロンは海を眺めてミリューイが喜んでくれる姿を思い、笑みがこぼれた。
「出来たぞー!」とデカい声で、さばいた[タツオ]を容器に入れて持ってきてれた。
「けっこうあるな。」
「半分くらいは炙って食べても美味いぞ!」
「本当にありがとう。またよろしく頼むよ。」銀貨3枚を払い、待ち合わせ場所へと急いだ。
――――――――――
【カタ】で店といえば、宿屋兼食堂の『セイレーン』が有名だ。比較的子供や女性にも居心地がいい。もうひとつ名物である『海のあらくれ』という店は、宿屋兼酒場も兼ねているので、ミリューイが一緒だと連れていくのには躊躇われた。
『セイレーン』は、女将さんが 主人で、カノンも顔なじみ。魔法隊に所属していた時も色々お世話になった人物だった。
「ご注文は?」若い女性の店員が笑顔で話しかけてきた。
「連れが来るけれど、とりあえずカモミ茶二つお願いね。」
「はい♪」
ここの嬉しいところは、お酒と水以外にお茶を愉しめるので、カノンも気に入っている。
男性客もいるが、ここでは暴れる者は少ない。
「ママ!ここ、クッキーやフルーツの砂糖煮もあるみたい♪」
「ハイハイ、あとでね。」
ミリューイもすっかりいつも通りになっている。
“機嫌が直ってよかったわ” カノンも安心した。
カモミ茶を飲みながら、さっき買っていた珊瑚のブローチの事を聞いた。
「あれね、マリアンヌにお土産。喜んでくれるといいけど・・・。」
「ちゃんと謝りなさいよ?あと仲良くね。メイ君のことやこっちであったことを話してみたら?」
「そうね!あと、マリアンヌのことも色々知りたい。聞いてみるわ。」
「何か楽しい出来事があったらパパやママにも教えてね。メイ君にも手紙書いてみたらいいわ。」
「いいわね♪友達なんだから、メイからも手紙欲しいわ。剣術がうまくなっているか気になるもの。」
女子トークで盛り上がっていると、アーロンがやってきた。
「ミリュ!美味い魚持ってきたぞー。」
「あら、お刺身♪いいわねー。」
「パパありがとう!」
アーロンは半分を炙ってもらえないかと店員に交渉にいった。
その間に他の注文を頼み、しばし親子水入らずでの会話を楽しんだ。
料理を食べながら、アーロンとカノンの方が離れがたくなっているのが分かった。
お互いに顔を見合わせながら「ミリュ。本当に辛くなったら、こっちに戻ってきていいからな?」
「そうよ。ミリュが決めた事なら応援するから・・・忘れないでね。」
ミリューイは両親をじっと見て「大丈夫よ!すぐにまた会えるじゃない。それに・・・。」と間をあけて照れながら「お友達がいるから大丈夫よ!」と言い放ち、パクパクと料理を食べていた。
娘の成長に嬉しいやら、寂しいやら。
アーロンは商談も終わったから、とお酒を注文し、カノンも頼んだ。
「もう~今からお酒飲むの?」とミリューイが言うと、二人とも
“娘の成長に乾杯するからいいの!”と声を合わせて答えた。