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第10章②行ってらっしゃい

頑張れ、ミリューイ。

『ふぁああ~~。』

ネイマは朝早くに目が覚めた。まだ隣でメイは眠っている。


実体化したままなので、メイを起こさないようにゆっくり動いた。


昨日の夜のことを思い出して、ちょっとまたにやけてしまった。


――――――――――


ガイルが帰宅して、夕食が始まった。

テーブルの上には、ネイマの好物ばかりが並べられていた。


ポテトサラダ、ウーパの香草焼き、くるみパン、ツナと野菜のスープ煮、最後にベリーの実入り甘めのクッキーとロダティーの食後デザート付き。


持ってきていたノートに『“ありがとう。ママ、だいすき!”』と書いてマリーに抱きついていた。


「良かったわ~♪」

「本当に居るんだな・・・ネイマ!」

「ふふ、母さんに抱きついてるよ?」


と穏やかに過ごした。


食後にクッキーとロダティーを楽しんでいると、マリーが何かを持ってきた。


「これ、メイ君に作ってたベスト。まだ季節的に早いけど、持っていてね。」


そう言えば編み物してたなぁ。

「ありがとう!母さん、大切にするね。」

するとノートに『“わたし”』と字を書いて同じベストの絵が描かれていた。


『僕も欲しいよ~。作ってよ、ママ!』とネイマ。

「ネイマも作って欲しいって。」

「もちろんよ~。楽しみに待っててね。」


そうだ!ネイマに貰ったベストを着せてみる。


「お、ベストが浮いてる!」ガイルが手を伸ばすとベストは触れるのに、ネイマの身体はすり抜けてしまう。

「本当に不思議ね~。でもそこに居るのが分かっていいわね。」


「ネイマ、家に居る間はそれ着てていいよ。父さんと母さんにもどこに居るのか分かりやすいよね。」


『借りてていいの?』

「うん。ネイマのベストができるまで着てていいよ!」


――――――――――


そんなやり取りをして、自分もパパやママに認識してもらえるようになった事が嬉しかった。

あと、自分の好物を覚えていてくれたことも。


ふんふふん♪と鼻歌をうたいながら、ベストを着て部屋を出た。


台所に行くと、マリーが起きて下ごしらえをしていた。

『“おはよう”』と書かれたメモをそっとマリーの手に乗せる。

「あら、おはようネイマ。早いのね~。」


気付いてもらえたのが嬉しくて、メモをパタパタさせた。


「ネイマ、パパを起こしに行ってくれる?」


またメモをパタパタさせて、フワフワと宙に浮かんだベストは、夫婦の寝室へ向かった。


『どうやって起こそうかな♪』


辺りをキョロキョロ見渡して、ベッドの処に古いウーパのぬいぐるみを見つけた。


“これ、僕が大事にしてたやつだ・・・”


ぬいぐるみをぎゅっとしてから、ガイルの頬や頭をウーパ人形の手でツンツン、ツンツン、と触った。


「ん~~・・・何だぁ?朝かぁ~~。」と目を擦りながら開けたガイルは、一瞬宙に浮かぶウーパ人形に驚いた。


しかし、ベストがフワフワと宙に浮いてるのをみて、急に穏やかな顔になり

「ネイマだな?おはよう!」とぬいぐるみの頭を撫でた。

ネイマもぬいぐるみの手を動かして、遊んでいた。


「そろそろご飯ができるわよー?」とマリーの声が聞こえたので、今度はメイを起こしに行った。


――――――――――


マリーが朝食を並べていると、玄関のドアからトントン、と音がした。


“こんな早い時間に誰かしら?”と、そっと覗き穴から見てみる。


カノンとミリューイが立っていた。


「おはよう~。どうしたの?朝早くに。」

「おはよう。ごめんなさい、こんな早朝におしかけてしまって。ちょっと挨拶に寄ったのよ。」


ミリューイは少し顔がむくんで、目の周りがうっすら赤い。


マリーは察して、とりあえず入ってもらい温かいお茶とミリューイに顔を冷やすタオルを渡した。


ミリューイは黙っている。

「もう。お礼くらい言いなさいよ。」


「いいのよ。落ち着いたら、メイ君と話してね?」


コクンッと黙ったまま頷いた。


ガイルが眠そうにやってきて

「お?カノンどうした?ミリュも居るのか?」

“ちょっと・・・。”とマリーがガイルを奥に連れていき、状況を小声で話している。


「あ、じゃあネイマのこと。今言うとややこしいな!」と慌ててメイの部屋へ走っていった。


メイは部屋から出ようとしたが、慌ててガイルがはいってきてネイマにベストを脱ぐように伝えた。


『なんでー?』

「ミリュとカノンが来てるんだよ!」


仕方なくネイマはベストを脱いだ。


「とりあえず、ネイマはここにいろ。」と言われたが、大人しくするからと約束をして、皆でリビングに向かった。


「おはよー。」


二人とも色々荷物を持っており、どこかへ出掛けるようだった。


私達が食事を食べ始めたとき、カノンから切り出した。


「朝早くにごめんなさいね。今日はミリュが魔法学院に戻ることになったから、挨拶にきたの。」


「え!良かったねー。」とミリューイを見るが、本人は浮かない表情だった。

私も何となく状況を察して、ミリューイの言葉を待った。


“もう行かなきゃいけないから、ほら、何か言いなさい。”とカノンに促されている。


・・・・・


「わ、私今日学院に戻る、けど。約束忘れないでよね!狩りができるように頑張って、うちに一人で遊びに来ること!」


「うん!今度ミリュが帰って来るまでに頑張るよ。ミリュも頑張ってね。学院の話楽しみにしてるから。」


「いいわよ?私も話聞くの楽しみにしてるからね。」


「ふふ、期待してていいよー!」

『僕のことは次に会うときまでナイショだね!驚くぞー♪』


ようやくミリューイも、魔法学院に戻ると決心ができたようだった。


「さ、長居するのも申し訳ないから、そろそろ行きましょう。」


「うん。」 


「おい!ミリュ、今度戻ってきたらメイと一緒に剣術の稽古みてやるからな。」とガイル。「またお茶会しましょうね~。」とマリーも続けて声をかけた。


「ありがとう。おじさん、おばさん・・・」


「これでさよならじゃないんだから!いってらっしゃい!」

と笑顔で手を振ると、ミリューイもそれに答えようと必死で笑顔を作って

「わかってるわよ!いってきます!!」

とカノンに肩を抱き寄せられ、背中を向けて出ていった。



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