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第10章①ジンクス家の事情

早くまったり展開に移りたーーい。

いつものように、ミリューイは部屋で勉強をしていた。


あの出来事から一ヶ月、自宅謹慎中はカノンがミリューイの勉強をみていた。

午前中は、座学。午後は魔法の実践練習。


まだ8歳の子供であれば一日中遊んでいるか、少しの時間勉強や家の手伝いをするのが典型的な一般家庭である。


このハラ王国に学校というものは、首都【ノグ】にある国立剣士官学校か国立魔法学院の二つだけだ。

国に将来仕える人材育成のための学校。なので、基本的にここを卒業したら公務員として働くシステムになっている。12歳から入学可能だが、地方の優秀な人材確保のために8歳以上で推薦入学できる。


下級生クラス[12~14歳]、上級生クラス[15~18歳]で分かれており、各3年過程を修業したのち、晴れて国家公務員となる。計6年間修めれば、若くても卒業できる。

ちなみに18歳で成人とみなされる。


じゃあ他のふうーの子供達の教育はというと、10歳頃から各街に私設で立ち上げた教育機関(主に専門職を育てる所が多い)に通うか、実家の家業を継ぐための修業に出るか(昔でいう丁稚奉公みたいなね)、孤児や身寄りのない子供は教会みたいなところで最低限の文字を習えるようにはなっている。


ジンクス家は一般家庭の商家だが、ミリューイは小さい頃に【ノグ】に住んでいたこともあり、魔力持ちとして国から目を付けられていた。


魔法を使える者は、その魔力を肌で感じることができる。ただし、訓練して他人に気取られないようにする事もできる。

ミリューイはまだ幼かったため魔力を隠せず、周りの魔力持ちが“稀代の魔法使いになるかもしれない”と噂していた程だった。


“私ったら、魔法を褒められてつい調子にのってしまって入学を決めたのよね・・・”

ふと手をとめて、ここ一ヶ月を振り返っていた。


勉強はカノンに教えて貰えるので問題はない。いずれ私設学校へ行くにしても、まだ少し先の話。


本当は周りに同じ年頃の子供がいなかったので、退屈だったのだ。

ただ入学してからも結局周りは年上が多いし、これまで年の近い子供と接することが少なかったから、同室の『マリアンヌ』が優しくしてくれてもどうしていいかわからず、素直になれなかった。


「そういえばマリアンヌ・・・どうしてるかしら。」


コンコンッと音がして、カノンがお茶を持って来てくれた。


「少し休憩しましょうか。」


「うん!」


“ふぅ。”温かいお茶を一口飲み込むと、カノンが話を切り出した。


「学院から通達がきたわ。」

「そう。何て?」


「復学を認める。ただし、3ヶ月間は授業以外での魔法使用の禁止と外出や外泊の禁止、だそうよ。」


「えー!外出も禁止なんて、横暴よぉ!」

「何言ってるの!同室のマリアンヌちゃんも同じ処罰を受けたのよ。あなたはこうやって謹慎してても家に帰ってこれたけど、マリアンヌちゃんは・・・。」


学院では年間4回、帰宅を許されている。例外を除けばこの4回だけ。遠く離れた者もいるため一週間くらい帰れるが、往復の道のりを考えれば転移魔法が使えるもの以外は滞在期間はわりと少ない。

上級生ともなればそれくらいの里帰りで十分かもしれないが、マリアンヌも今年入学したばかり。

そういえば“親や兄弟に会いたい気持ちがわかる”って、転移魔法教えてくれたんだったわ・・・。


ミリューイは何も言えなくなった。本当は学院を辞めてもいいかな、と思っていた。

でもマリアンヌの事を考えると、とても言出せなかった。


「明日、学院に戻るからね。私も付いていくから。」

「明日?!」


「本当は何日か前に連絡もらってたのよ。けどメイ君の事もあったし、ミリュ仲良くなって嬉しそうだったしね。」


・・・・・


「じゃあ、今日メイの所に行っていい?」


「ダメよ。今はマリー達をそっとしておいてあげなきゃ。」


「だって!挨拶くらいしたいわ!せっかく・・・仲良くなったのに。」


悲しそうなミリューイを見て、さすがに挨拶なしは可哀相かなと思い、明日の朝早めに行く事で渋々納得させた。


それからはふて腐れてしまい、ベッドに潜り込んで泣いていた。


部屋から出たカノンは、ミリューイに学院へ持って行かせる物の準備を始めた。

“まだまだ子供だから仕方ないんだけど・・・”そう考えながら、アーロンとの会話を思い出していた。


学院からの連絡がきたことをアーロンに伝えたとき、てっきりもう退学させて家に戻るようにする手続きをとる!、とか言い出すと思っていたからだ。


「そうか。またしばらく会えないんだなぁ。」と答えたので、「えっ。」と逆にカノンが驚いてしまった。


「どうしたんだ?・・・あぁ。もしかして、俺が連れ戻すと思っていたのか?」

「ええ。だって、あなたも学院なんか早すぎるって言ってたし。私もどちらかというと、ミリュには学院の生活はまだ早いと思っていたから・・・。」


実はカノンは学院の卒業生だ。だから、学院生活の事はよく知っている。楽しい事も辛い事もあったから、ミリューイが決めたことならどっちでも応援したいと考えていた。

家に戻ってきてからのミリューイをみて、まだ幼いし友達もできたからいっそこのまま暮らすのもいいのではないかと思っていた。


「ガイルを見ててさ。ネイマの事で、あんなにも辛い事があったけど・・・坊主との出会いがあいつの重荷を解放してくれた・・・。」

「・・・そうね。マリーも・・・。あの時はまるで昔に戻った気分になったわ。こんな日がまた来るなんてね。」



「それで思った。此処にいて、家族だけでのんびり暮らすのも悪くないが、ミリュが決めて出て行ったんだ。今はまだ辛いこともあるかもしれないが、新しい人との出会いがミリュにとって大事なんじゃないかって。それに遅かれ早かれ子供は巣立っていくだろう?」


「マリアンヌちゃんとかね。先生に聞いたら、唯一ミリュがまともに話せる友達だって。あの子、周りに年の近い子が居なかったからなかなか打ち解けれないみたいよ?」


「そうか。なら、やっぱり学院に戻るべきだな!ミリュがどうしても辞めたい、って言ったら考えるけどなぁ。」


二人で笑いながら、ミリューイの様子をみることに決めていたのだった。

アーロンは仕事のため、転移魔法で送っていき、今に至る。


“さぁ。ミリューイが困らないように色々準備しないとね!”

カノンは倉庫や台所を忙しく動き回っていた。


ーーーーーーーーーー


布団の中で泣きつかれて眠ってしまっていたミリューイだったが、お腹がすいて目が覚めた。

“どれくらい眠ってたのかしら・・・”


ミリューイの部屋は外がみえる窓はなく、店内と繋がる換気と明かり取りのためだけの窓が一つだけ。

ムクリと起きて、ぐしゃぐしゃの顔を小さな鏡で確認したが、空腹に耐え切れずリビングへ向かった。


“何となく気まずいな”、と思っていたが、思いの外カノンが明るく「ご飯食べる?」と聞いてきてたので安心した。


「ママ・・・。しばらく会えないわね。」情に訴えかける。

「そうね。、寂しいわ。パパも言ってたわよ。」


カノンの顔をじっと見つめている。


「ねぇ、ミリュ。手紙書いてね。」食事の支度をしながら話を続ける。


「書くけど!届くのに時間かかるじゃない・・・。」


「そうね~。だったら毎日書いて送ったら?ミリュがそうして欲しいなら、ママも書くわよ?」


「毎日はちょっと・・・。」


「だったら、日記を書いてみたら?何でもいいから、思ったこと。楽しかったこと、悲しかったこと、腹がたったこと、嬉しかったこと、なーんでもいいの。書きたくなかったら特になし!とかね。」


「何よ~それ?」ミリューイはちょっと笑ってしまった。


「近くにいる友達にも遠くにいる家族や友達にも話したいときに話せるわけじゃないでしょ?だから書き溜めて、会ったときや話したいときにその中から伝えてもいいし、その時の気持ちを話してもいい。ミリュはね、まだお友達とたくさん話したことがないから上手くいかないだけ。これからたくさんの人と出会っていったら変わるわよ。」


・・・・・


“やっぱりここに居たい”とは言えないかぁ。


カノンはミリューイの所へ食事を運び、隣に座った。

一口、二口、ゆっくり噛み締めながら食べている。


“よしよし”、と頭を撫でてくれたので、涙が溢れた。

鼻水をすすりながら、黙々とご飯を食べた。



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