第9章③告白
また2話続けて投稿致します。
いつものように朝食を済ませ、マリーは台所。
ガイルは出かける支度をしていた。
私は隠れてネイマに手招きをして、隣に立ってもらった。
「父さん、母さん。ちょっといい?」
二人は手を止めて、席に着いてくれた。
「そんな改まってどうしたんだ?」
「何か心配なことでもあるの?」
「僕について話しておきたいことがあるんだ。」
全部は伝えられないけど、かいつまんで話した。
思い出したことがある、と。それは自分が特異体質であり、死んだ人が時々視えたり、話しかけてきたりする。
でも一方的なもので、自分から何かをできる能力ではない事。
「それは、死者と話せるって事なのか?」
「うん。でも、僕からはできない。相手が話しかけてきたらできるんだ。それにいつも視えたり、声が聴こえるわけじゃないよ。」
「そうだったの・・・。」
マリーは少し震えている。
「父さんや母さんが僕を家族にしてくれるって言ってくれたでしょ?それからネイマの話とかもしてくれたよね。」
「・・・そうだな。メイがネイマについて聞いてきたから、楽しかった日のことも思い出せた。」
「実はね・・・信じてもらえないかもしれないけど、ネイマがここに居るんだ。」
!!
二人とも声にならず、かなり動揺している。
ネイマも沈黙し、成り行きを見守っていた。
「正直に言うね。二人が、家族にしてくれるって言ってくれた頃から、ネイマが視えるようになった。」
ネイマから話しかけてきたこと、風の聖霊になり、時々ガイルとマリーの様子を見てたことを話した。
あと、聖霊として契約を交わしたことも。
二人は手を握り合って、考えているようだった。
長い沈黙・・・
最初に言葉を口にしたのは、マリーだった。
「ネイマ・・・そこに居るの?」
『いるよ!ママ!』ネイマは応えたが、声は届かない。
「俺達は・・・話せないのか?」
聖霊との契約について説明した。
そして、筆談ならできることを伝えた。
「ネイマ・・・いるのか?」
私は紙と鉛筆をテーブルに置いた。
ネイマに"名前書いて”とお願いした。
ガイルとマリーはじっと紙と鉛筆を見つめていた。
ネイマが鉛筆を持つと、「きゃっ。」とマリーが小さく声をあげたが、ガイルが肩を抱き締めながら、静かに見守っていた。
『“ネイマローズ・パロット”』
その筆跡をみて、本人だと納得したようだった。
"信じられない・・・"と二人とも声を殺して泣いていた。
少し時間が過ぎて、「ネイマは元気なのか?」とガイルが尋ねた。
「元気だよ。」と私が答え、ネイマを見ると『字がわかんないなー。』と困っている。
「じゃあ絵描いたら?」
『そっか!』
目の前で宙に浮く鉛筆が、懐かしい動きをみせる。
「あの、鉛筆を途中でくるくる回すクセ・・・本当にネイマなのね・・・」
描き終えた絵は、ネイマとガイルとマリー、そして私もいて、ネイマが好きだった花の絵が描かれていた。
「「ネイマ・・・。」」
『よかった。パパもママもこれで安心してくれるよね?』
「大丈夫。伝わった思うよ。」
「ねぇ、メイにはネイマが見えるのよね?今どんな姿なの?」
「それが、その・・・」
契約をしたときに男の子に姿を変えて、今は私と同じ背丈だと伝えた。
「ネイマが男に・・・」ガイルは複雑そうな表情で一言。
一方マリーは「そうなの!安心したわ~。元気でいるだけで嬉しい。」と喜んでいた。
「ネイマね、これからここで暮らすから慣れるまでびっくりする事もあるかもしれないけど、いいよね?」
「もちろんよ!」「もちろんだ!」と二つ返事で了承を得た。
『やったー!これでやっとママのご飯いっぱい食べれる~♪』
「母さんのご飯楽しみだって、ネイマ喜んでるよ!」と同時通訳をする。
「あら♪じゃあ今日の夕食はご馳走にしないとね~。」
「本当に嬉しい事続きだな。お!そろそろ仕事に行ってくる。帰ったらまたゆっくり話そう。」
『「うん!!」』
ガイルを見送り、マリーは台所へと戻っていった。
私も久しぶりにタンダンの丘へ行く事をマリーに伝えた。
“お昼には戻ってくるように”と、ロダティーを渡されネイマと一緒に出掛けた。
ーーーーーーーーーー
タンダンの丘へ到着。
「あー!やっと肩の荷が下りたぁ~。」と大声を出して草むらに寝っ転がる。
『お疲れさま~♪』ネイマも横になっていた。
色々あったけど、異世界でなんとか生きてるよなぁ、私。
ここ数日は怒涛の日々だったが、ようやく日常に戻れることに安堵していた。
『風が気持ちいいね~。』
「うん。天気もいいし、最高だよ。」
空を見ながら、平和なひと時を満喫する。
「ところでさ、ネイマの聖霊魔法ってどんな感じなの?」
『そうだねぇ。下級の風魔法とか、僕が聖霊体に戻って、メイが使う武器や装備の力を増強させたりできるかなぁ。』
くるっと横を向くと、ネイマも私の方に向きを変えた。
『手ぇ出してみて。』ネイマに手を伸ばすと触れた瞬間、温かい空気が身体に流れてきた。
『 浮遊』とネイマが唱えた途端、二人の身体がふわっと地面から離れた。
「うわっ!!」『大丈夫だよー。すぐには落ちないよ。』
ニコニコとネイマは触れていた手を離した。
「落ちるっ?!」と身体を縮めたが、30~40cm程フワフワと浮いたままだった。
「すごーい!!」と大はしゃぎしていると
『でも、いつ効力がきれるかわからないんだよね~。』と一言。
「それは使い勝手がイマイチだね。」
『手を繋いだままだったり、身体のどこか一部が僕と触れていれば、もっと高く飛べるし、時間もそこそこ長くなるけどね。』
「他にも魔法は使えるの?」
今のところ、【浮遊】、【風壁】、【強風】と、この3つは初期設定みたいなもんらしい。聖霊として誕生してからすぐに使えたとか。あと【風】と念じると聖霊体に戻って、武器とかに憑依できるんやって。
『あとねー[同化]ってのがあるんだよ。』
「へー。」と返事をしたら、急に温かい空気が身体から抜けて“あれ?”と思った途端に地面に落ちた。
ドタンッ 「いたーっ!」
『あ、エナ切れだね~。』
まぁ、魔法の効果が終わったって事ですね。
『大丈夫~?』
「うん、まぁそんなに高い所からじゃないから。」
あの温かい空気が身体から抜ける感じが、エナ切れなんかな?
もうちょっと前に分かるようにならなあかんなぁ。
「それで、[同化]って?」
『これはできる契約者とそうでないのがいるんだけど、聖霊体のときに契約者の身体に入るんだ。』
「何か問題はある?つまり、ネイマが僕の身体を乗っ取れるってこと?」
『乗っ取るっていっても、基本的には契約者の意識があったら難しいから。逆に契約者が聖霊の力を思うように使えるのが良いところだと思うよ~♪』
おぉ。風魔法が自分で使えるのは嬉しいかも・・・
『まぁ悪い所もあるけどねー。』
[同化]は聖霊と契約者が一心同体になるため、もし殺されたり死んだ場合は両方ともが終わる。
聖霊はエナとなり、聖霊王の元ではなく自然界へ散っていく。つまり、消滅する。契約者は死体って感じ。
「死ぬ直前とかに【風】で聖霊体に戻れば助かるんじゃないの?」
『[同化]すると【風】= 聖霊還術を使ってもすぐには戻れないらしいよ。僕もやったことないから分からないけど教えてもらった。』
「そういうもんなんだねー。」と言ったすぐ後に、お腹が鳴った。
『ぷっ!!』
恥っっ!!とお腹を押さえながら、「そろそろ戻ろうか!」と立ち上がった。