第8章③家族になろうよ
やっとシリアスから脱けだせた・・・のかなぁ?
翌日。ジンクス家への道のりはけっこう遠いので、マリーだけカノンが迎えに来ることになっていた。
ガイルは今日仕事を休んだ。
基本的に長期休暇以外は、いつ休みにしても構わないらしい。辺境の地では人が少ないので、サボろうと思えばいくらでもできる。でも、ガイルはほとんど休みなく働いていたから特に問題はなかった。
「バグドの出没もあれ以来ないしな。まとめて休暇でも申請するか・・・」
「そうね。もし休暇が取れたらみんなでネイマのお墓参りに行きたいわ。」
そんな会話が聴こえてきたから、何となく部屋に戻ってしまった。
“あれーどうしたの?パパとママ待ってるよ?”
「・・・ネイマのお墓ってどこにあるの?」
“ノグだよ。わたしね、お花を摘みに少し街から離れた所に一人で行ったんだ。その時運悪く、魔獣と出会ってしまって・・・5歳の足じゃ逃げ切れなかった。一瞬だったから苦しまなかったんだけどね”
淡々とその時の様子を語ってくれた。
[ククド]という鳥の魔獣で、巣を作っていたところに遭遇してしまったと。静かにその場を立ち去ろうとしたけど、気配に敏感になっていたのか、人間の臭いで気付かれてしまったのか、逃げようと走り出した瞬間・・・頭部を持っていかれた。痛みはなく、一瞬の恐怖だけだったとネイマは話す。
その後、身体は他の動物にボロボロにされてしまい、ガイル達が発見したときにはあまりにも無惨な姿だったと悲しそうに語ってくれた。
ガイルはマリーには見せまいとしたけど、見届けてやりたい、最後に抱きしめてあげたいとの願いを受け入れてしまい、その日からマリーは悪夢にうなされるようになったと教えてくれた。
そしてガイルもまた、以前にもまして仕事にのめり込むようになったのだ。
看護師だったから、人の死に向き合うことは多かったけど、そういう残酷な場面に立ち合った経験は正直ない。ガイルとマリーは地獄のような悲しみ、苦しみを抱えていたんやな・・・
“ごめんね、こんな話。わたし、メイには本当に感謝してるの。パパとママの傍にいてくれてありがとう”
「そんな・・・私・・・僕の方こそ二人にどれだけ感謝してるか。」
“この話をしたのはね、メイに家族になってもらいたいと思ったからなの”
ネイマを見つめる。
“わたしとパパとママの家族になってよ、メイ”
「・・・僕、この世界で生きていくって決めたんだ。本当はもうとっくに師匠や先生のことお父さん、お母さんと思ってるよ。」
“よかったぁ!じゃあわたしがお姉さんかな?”
「そうなるのかな?歳は僕の方が上だけど。ネイマはお姉ちゃんって言われたいの?」
“んーネイマでいいよ♪もう家族だし、今さらお姉さんってくすぐったいよぉ”
「分かった。これからもよろしくね、ネイマ!」
“うん!”
笑顔のネイマにつられて、私も笑顔になっていた。
腹をくくって、今日ガイルとマリーに家族になって下さいって伝えよう。
――――――――――
ガイルとマリーはなかなか部屋から出てこないメイが気になっていた。
「昨日は沢山歩いたし、疲れてるんじゃないかしら。カノンには転移魔法で、メイ君を連れて行ってもらえるように言ってみるわ。」
「いや、マリーは先に行って支度の手伝いをしないとだろ?心配ない。荷車に乗せて俺が昼までには連れて行くさ。」
“そうね、ゆっくり来たらいいわね~”と和やかな雰囲気でカノンを待っていた。
コンコンッ
「おっ来たんじゃないか?」
「は~い。」マリーが玄関を開けるとカノンが立っていた。
「ごめんなさいねーお待たせしました!」
と来たと思ったらすぐに
「ささっ行きましょう♪マリー。」とすぐさま居なくなってしまった。
「全く。せっかちな奴だなー。」
ガイルはメイを呼びに行き、徒歩組もいよいよ出発!
―――――――――――
「さっきからどうした?疲れてるのか?」
もうすぐ“家族になりたいです!”宣言をすると決めたので、緊張で無口になっていた。
「全然!師匠こそ、たくさん荷物積んでるけど、大丈夫?」
「そりゃお前。トユトユが食えるんだから、腹空かしていかないと損だぞ~。」と嬉しそうに話す。
「そんなにおいしいの?」
「俺も一回食べただけなんだが、魚が好きじゃない奴でも食べられるから、幻虜って別名があってだな、、、」珍しくガイルがスラスラと話してくれる。楽しみすぎて興奮しているようだ。
「そんで、酒にも合うしとにかく旨いんだ!」
「師匠の話を聞いてたら、お腹すいてきちゃったなー。」とか言ってみたけど、緊張であんまりお腹はすいてない。
“メイったらーなに緊張してるの~”
ネイマが息を吸って~と両手を広げたしぐさをみせる。
とにかく深呼吸!すーはーすーはー・・・
空回りしそうで怖いな。
休み休み歩き、そのうちジンクス家に近づいてくると、なんとも言えない焼き魚やハーブなど、香草の匂いが漂ってきた。
「うぁ~、良い香り~~。」
「うん!期待できそうだな!!」
二人とも匂いに釣られて小走りになった。さすがに歩いた後なので、小腹も空いている。
ミリューイが玄関の辺りに立っていて、私達の姿に気づき手を振っていた。
「いい香りだねー!おいしそう♪」
「期待していいわよー!」
ミリューイと合流し、店の奥の部屋へ入る。ガイルは持ってきた荷物を運びこんでいた。
マリーとカノンも顔を出して、”もうちょっと待っててね”と忙しそうだ。
「久しぶりだなー坊主!」とアーロンが居た。
「おじさん戻ってきてたの?」
「いやまだ取引が残っていたんだが、カノンが迎えに来てくれてな!すごいな!!坊主が釣ったのは高級魚だぞ?滅多に食べれるもんじゃないからなぁ。」と私の頭をグシャグシャ撫でた。
「アーロン!こっちを手伝えー!」とガイルからお呼びがかかり、”先に座って待っていないさい”と子供組はリビングでご馳走を待つことにした。
すでにテーブルの上には、肉、野菜、煮込んだスープ、酒にジュース、ハーブティーが並べられており、本日のメインデッシュを残すのみとなっていた。
「こんなに豪華な食事は初めてよ!」ミリューイも嬉しそうだ。
ネイマは台所を覗きに行っている。私もどきどきしながら、トユトユが出て来るのを待っていた。
「「はーい!お待たせしました~トユトユのパッツィ焼きです♪」」
「「うぁーー!」」
香りや調理法からみて、日本風でいうと『鯛のレモンハーブ焼き』みたいな感じやった。
本当に美味しそう♪
匂いにつられて「「お!できたなぁ♪」」おっさん組もやって来た。
「さぁ食べましょ!」カノンが言いうと一斉に
「「「「「「いただきます!」」」」」」と勢いよく全員がトユトユに手を伸ばしていた(笑)
味はまさに鯛で、レモンのさっぱり感と塩っ気が最高!魚の生臭さもパッツィという香草で消えており、米が欲しいと心底切望した。
”みんな幸せそうだねー”ネイマがにこにこしながら、部屋の中を飛んでいる。
マリーやガイルの傍に行き、じっと見てはハグしたり、料理を食べているみんなの顔を嬉しそうに眺めていた。
アーロンはあと数日【カタ】という街に留まり、商売をしてから【ドン】に戻る予定だという。
【カタ】は、海に面している街なので、【アドア漁港】が有名らしい。[トユトユ]を食べに行くことを漁師や商人仲間に自慢してきたと話していた。
「いつか行ってみたいなー他の国にも。」なんとなく言ってみただけやのに、アーロンやガイルがやたら喰いついてきて
「俺がいつか案内してやるからな!そうだ、冒険者になるってのもいいな。一攫千金もよし!依頼をこなして英雄になるもよし!!もちろん俺が鍛えてやるからな!」
「坊主もそのうち連れて行ってやるよ。将来は商人になるのはどうだ?世界中旅が出来て楽しいぞ~。今からみっちり仕込んでやろう!」と酒で酔っているせいもあってか、豪気に話していた。
「「まったく、呑みすぎねぇ。」」と、マリーとカノンは言っていたが、表情はとても楽しそうだった。
「じゃあここで!メイに一言もらいましょうか♪今回、トユトユを釣った主役から一言どうぞ~。」
ってミリューイまだ8歳なのに、どこでそんな小技を覚えてきたんや・・・
「「いいぞー!」」出来上がったおっさん達がガヤのように盛り上げてくる。
「何でもいいのよ~」「緊張しないで!」マリーやカノンも煽る始末。
仕方ないか・・・
「えっと・・・今日は美味しい料理をありがとうございました。
僕はここに来て、まだ記憶も戻ってないけど毎日が本当に楽しいです。」
”うんうん”と皆、真剣に聞いてくれている。
「知り合いや友達もできたし、何より家族になってくれる人達に出会うことができました。」
”うんうん・・・え?”視線がぐっと突き刺さる。顔が火照って、少し目が潤んできた。
「師匠、先生・・・ネイマのこと話してくれてありがとう。これからは、ネイマと一緒に僕も二人の子供にして下さい。お願いします。」
と言って頭を下げた。ドクン、ドクン、と心臓の音が近い・・・
ガタガタッと音が聞こえてたと思ったら、めっちゃ力強く抱きしめられた。
ちょっ、嬉しいけど苦しい・・・でも嬉しい。顔を上げるとふわっと抱きしめ直したガイルが見えて泣いていた。
マリーは嗚咽しながら、顔をうずめるようにカノンに抱きしめられている。
アーロンは目尻を拭って、”よかったなぁ”とミリューイの頭をポンポンッと撫でていた。
ミリューイと目が合うと笑顔で、声には出さず”よ、か、つ、た、わ、ね”と祝福してくれた。
”ありがとね、メイ”
ネイマもガイルの上から私を抱きしめてくれていた―――――
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その晩、大人達は遅くまで飲んでいたため、全員ジンクス家に一晩泊めてもらうことになったのだった。