第5章②波紋ー後編ー
何とか話はまとまったと思います。
首都【ノグ】国立魔法学院内、第3協議室ーーーーー
学院長と数名の上位教官、下級生担当教師が話し合いを行っていた。
「ミリューイ・ジンクスはまだ学院への入学は早かったんです!」
「まだ8歳ですよ。確かに規則を破ったことには何か罰を与えるべきですが、あの歳で【ドン】まで転移魔法を使える才能はこの学院には必要ですよ。」
「いくら魔法隊の元師団長の身内だからといって、甘い処分は控えるべきです!!
他の生徒にしめしがつきませんからな。」等と様々な立場で意見が飛び交っていた。
まだこの件は一部の人間にしか知られておらず、同室の生徒である『マリアンヌ・ホーン』にも他言しないようにときつく口止めをされていた。
マリアンヌ本人にも転移魔法を不用意に教えたことに対して、何かしらの処分が下るだろうと伝えられていた。
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“ミリュは大丈夫なのかしら・・・・”
マリアンヌは、安易に魔法を教えてしまった事に後悔をしていた。
ミリュの気持ちを紛らわせるくらいのつもりと早く仲良くなりたいと思っていただけなのに・・・
自分より小さい子が、あの距離で転移魔法を使ったらどんなに身体への負担になるのか。
想像を絶してしまい、ただただ無事を祈るしかなかった。
自分への処分のことなどは考える余裕もない程だった。
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ガイルはファブールの森へ来ていた。
あの日から一週間、ずっと探索を続けているが特に異変はなく、動植物の変化もみられなかった。
子供達が遭遇したのは、[バグド]という魔獣だった。
バグ(イノシシのような食用にもされる動物)が爆発的に増えた時に、一部で生まれる魔力を持つものがそれに当たる。
どの種でも急激に増えたり減ったりしたときにみられる現象だった。
“バグの数もそれなりにみられるし、バグドが突然現れた原因は何だ・・・?”
稀に隠れ住んでいた魔獣が、人の臭いで現れることもあるためそれかもしれないな、とも考えた。
“ネイマのときもそうだったしな・・・・”
そう思うと激しい感情が込み上げてくる。怒り、後悔、悲しみ、無力感、、、
どこにもぶつけようがないので、ガイルはひたすら仕事に没頭し、忘れるようにこの3年を生きてきた。
マリーには悟られないように。。。
そしてマリーも悪夢にうなされることはあるが、今はメイの前では必死に明るく振るまっていた。
子供達が無事であったことが、本当に良かった・・・。
ガイルは一度家に戻り、マリーとメイの様子を見に帰ることにした。
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ちょうどお昼ご飯の準備をしているマリーがいた。
「マリー先生、何か手伝うよ。食器並べておこうか?」と声をかけると
「ありがとう~でもまだ右手痛いでしょ?座って待っててちょうだいね。」
と優しく断られた。
“もうほとんど治ってるんやけどなぁ”と私は思いながら大人しく席に着いた。
あの出来事から一週間経ったけど、ガイルもマリーも疲れているようだった。
私はというと内出血がひどい右肩以外は、ほとんど痛みはひいていた。
傷も大きいのはまだ残ってるけど小さいすり傷はキレイになっていた。
ほんとに元気になったから、外に出て剣術の訓練とか身体を動かしたいんやけど、
二人がまだ安静にしとけって許可がおりなかった。
“まぁあんなに心配かけたから仕方ないかな”
とやることもないので、現在ひたすら言語の習得に勤しんでおります!
食事ができるのももう少しかかるみたいやし、絵本でも読もうかなと移動したとき
トントン、トントン
とドアをノックする音が聞こえた。
「はーい!」私が返事して扉を開けると
「坊主。久しぶりだなぁ。」とアーロンが立っていた。
「あ!こんにちは!お久しぶりです。」と元気よく答えると
「良かった・・・元気になってくれて。傷は大丈夫なのか?跡が残っているな・・・
痛みはどうなんだ?」とベタベタ身体を確認しだしたので
「おじさん?どうしたの?」と戸惑いを隠せなかった。
「あなた!そんなにアレコレ言ったらメイ君が混乱しちゃうでしょ!」と
後ろからキリッとしたクールビューティ-な女性が一喝した。
更にその後ろに誰か小さい子供が隠れているが、なんか見覚えが・・・
「あら~いらっしゃ~い♪」
マリーがアーロンと女性に声をかけた。
「この度はうちの娘がご迷惑をおかけして・・・本当にすみません・・・」
女性が深々と頭を下げた。アーロンもそれに続いた。
「あなたもきちんと謝りなさい!!」
後ろに隠れていた少女を引っ張り、頭をぐっと下げさせた。
「本当にごめんなさい!」と少女も大きな声で言った。
アーロンのとこの子供やったんや・・・
とか思っていると
「頭をあげて下さい。二人とも無事だったから本当に良かったわ。
ミリュちゃんも元気そうで良かった・・・」
気まずそうにアーロンとその妻が顔をあげた。
一方ミリューイは、ほんまに反省してんのか?と思うくらいこの場に不謹慎な表情だったので、私もつられて笑いそうになった。
だって、キラキラと興味津々な目で私の事をじっとみていたから。
「おーい!!」とこちらに向かって手を振りながらガイルがお昼ご飯を食べに戻ってきた。
“師匠!ナイスタイミングぅ~”
と重い空気が一気になくなり、マリーがアーロン一家を家に招き入れた。
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突然の訪問だったので椅子が足りないため、ガイルがアーロンと納屋に取りに行った。
テーブルには私とアーロンの妻、ミリューイが座っていた。
“何か話さないと”ソワソワする私をみて
「私はカノンよ。メイ君。改めてうちの娘を助けてくれてありがとうございました。」
ニコッと素敵な笑顔で言われて、綺麗な人に見つめられて私は女なのにドキドキした。
いや、今は男の子やから別にいいんか、とかステータス:混乱、魅了とか表示が出てそう等とごちゃごちゃ考えていた。
「は、はい。」としか返事ができないでいると
「私の魔法のおかげもあるけどね!」とミリューイが割って入ってきた。
「何いってるの!」と先程までの素敵な笑顔が一瞬にして消え、ミリューイを凄い表情で睨んでいた。
沈黙したミリューイだったが、何か言いたそうな表情で私をみている。
マリーが食事を運び出すとカノンも手伝い、ガイル達も戻ってきた。
「「「「「「いただきます。」」」」」」
食事が始まると
「「美味しーい!」」と子供組はかぶりついた。
「本当にマリーさんのお料理は最高ねぇ。」
「ガイルはこの料理とマリーさんにゾッコンだからな!」
とアーロンが言うとガイルが"子供らの前でやめろっ"とかなり顔を赤くして制止する。
「ガイルおじさんとマリーおばさんの話聞きたいー♪」とミリューイ。
「師匠と先生の出会いの話聞きたい!」と私もアーロンを援護射撃(笑)
"メイ君まで何言ってるの~"とマリーも照れている。
「だったらミリュ!お前の父さん達の話をしてやろう!」とガイルが言うと
冷たい笑顔で「ガイル?アーロン?その辺にしておいたら??」とカノンが一言。
一瞬で二人は元の席に戻り、「懐かしいやりとりね~。」とマリーはクスクスと笑っていた。
そのあとはあの出来事に触れることなく、和やかに過ごした。
「今日はお礼と謝罪に来たのに、すっかりご馳走になってしまった。」
「あなた。」とカノンに言われ、"あぁ、目的を忘れるとこだった"とワタワタと荷物を取りに行った。
アーロンは大量に薬や食料などを持ってきてくれており、おまけに私の服とかも渡してくれた。
「気を使わなくていいのに。もう大丈夫だからな。」とガイルは今回だけ気持ちだと思って受け取っておく、と伝えていた。
「傷の具合、またしばらくしたら一度診せに来てね。」とカノンが私に念を押した。
あの日、手当てしてくれてのはカノンだったらしい。
今日も色々確認した後、その場で薬草を調合して内出血のところに塗ってくれたのだ。
「はい。ありがとうございます。師匠と行かせて頂きます。」
ニコッと笑顔をみせてくれた。
"では失礼します"とアーロン一家は帰っていった。
見送り、家に戻ろうとしたら「今度はゆっくりお話しましょーー!!」
とミリューイが手を振って叫んでいた。
「わかったー!またねー」と手を振り返すと走り去っていった。
どうなるかと思ったけど、すっごい楽しかったなー。
次に会うのが待ち遠しくなった。