第5章②波紋-中編-
今回主人公は出番なしです
【ハラ王国】の都市【ノグ】にある国立魔法学院。
ここの1年生に在籍するミリューイ・ジンクスは、実家の自室で謹慎中であった。
「ミリュ。入るわよ。」
母親のカノンがロダティーを持ってきてくれた。
「調子はどう?」
「えぇ。大分良くなったわ。
ねぇママ。あの子のケガはどうなの?」
「重症ではないみたいだけど、傷はたくさんあったし打ち身もね。
完治には時間がかかるかもしれないけれど・・・
命には問題ないわ。本当によかった・・・」
それを聞いてミリューイも一安心した。
カノンはすかさず
「これに懲りて自分の力(魔力)を過信するのはやめなさいよ!
あと反省とメイ君に感謝しなさい。
落ち着いたら改めてお詫びに伺うけど・・・
もちろんあなたも一緒に行くのよ。」
キッと厳しい表情で真っ直ぐに見つめられ、ミリューイも思わず頷いた。
「わかってる!
本当に反省してます・・・
こんなことになるなんて思わなかったのよ。」
ロダティーを飲み干して、”もう休むから!”ベッドに潜り込んだ。
――――――――――
数日前の事を思い出していた。
転移魔法で都市【ノグ】から東の辺境地【ドン】へこっそりと戻る計画を立てていた。
”別にさみしいワケじゃないんだからね!”
と自分に言い聞かせるように実家の様子を見にいくつもりであった。
普段は寮で生活しているが、ミリューイは飛び級で特待生として入学したばかりなので
同じ年頃の友達もおらず、同室の1年生も年上なので馴染めないでいた。
まだ数か月しか経っていないが、8歳のミリューイにはもう何年も家族と会っていないような気持ちになり、時々布団の中で泣いていたのだ。
転移魔法は、同室のマリアンヌが見かねて教えてあげた。
適性や魔力も要するので、まだ幼さの残るミリューイには無理かもしれないと思いながらも
自分も離れた故郷を想う気持ちは同じで分かるからだ。
「ミリュ、転移魔法練習してみる?」
「え・・・あなた、できるの?」
「うん。私、これができるからこの魔法学院に入れたんだ。」
優しいマリアンヌは、いつもミリューイを気に掛けて声をかけたり、世話を焼こうとするが
ツンデレ系のミリューイは嬉しいのにいつも素直になれなかった。
「ふぅ~ん///(照れ)
じゃあ教えてもらおうかしら?」
その日からこっそり二人で練習をした。
適性はあったようで、短い距離ならすぐに移動はできた。
しかし、【ドン】までとなるとかなりの距離になるため、魔力も大量に必要になるので長距離はまだやめておこうとマリアンヌは判断した。
ミリューイも納得してはいたのだが・・・
今日はどうしても帰りたくなり、禁断の手を使った。
ロダティーは摂取すると魔力が一時的に膨れ上がる効果がある。これは魔力を持つものに限定されるのだが、その分後からの疲労感や使った魔法によっては大きな副作用があるため
『ロダティーを飲んでから1時間くらいは魔法を使わない』
これは魔法使いの間では常識であった。
”ごめんなさい。マリアンヌ!”
『すぐに戻ります。実家の様子を見てきます』
とメモを残してロダティーを一気に飲んだ。
ふぅ。。
集中して叫んだ
「"転移!"」
――――――――――――――
そっと目を開けると、周囲は予想していた位置とは違う所であった。
見覚えのない景色だった。
マリアンヌが距離が遠いと着地点のズレが大きいこともあるので、上級生になって訓練を積んでからしか転移魔法は使わないように、って言ってたわね・・・
”ここがどこかを調べないとね・・・”
そう思ったが、魔力が乏しいのがわかった。
身体はなんともないので、持ってきていた回復キャンディを舐めながら歩き出した。
回復キャンディは、うちのヒット商品だ。
父親:アーロン・ジンクスは、小さな商店を営んでいる。母親:カノン・ジンクスは国の元魔法団に所属していたこともあり、色々な魔法の知識と趣味の薬草庭園を造っている専業主婦。
カノンの提案で、回復薬よりは効果は弱いが、徐々に少しずつ魔力が回復する安価な商品を作ってみようということになり、数年がかりで、アーロンと自分の薬草庭園を利用して研究し、完成に至った。
始めはどこの商店にも相手にされなかったが、カノンは
「別にいいわよ。
子供達でも買える、ふつうにおいしいキャンディで売りましょ♪
魔力のある子にはサプライズでおもしろいでしょ?」
と子供が駄賃で買える値段で売り出した。
アーロンも子供たちが喜びそうだ!と二つ返事で同意した。
”ジンクス商店の回復キャンディは本当に魔力が回復する”
いつしか口コミが広がり、【ハラ王国】内では庶民が気軽に買える魔法回復薬として定着した。
回復薬は低、中、高とランクがあり、(低)であってもそこそこの値段はするが、
回復キャンディは元々が安価なため、利益はほとんどない。
またレシピを公開し、一般知識薬として登録をしたため、国からの定期的な材料費分の収入があるだけだった。
”うちがそこそこ商店なのは、パパもママも商売っ気に疎いからなのよねぇ・・・”
とか思いながら、本当は両親の功績が誇らしくて、もっと周りから評価されるべきだと幼心にも感じていたから。
・・・・・単純に自慢したかっただけなのだ。
歩くうちに少し魔力が戻ってきているように感じた。
「"感知(ディテクト")」周辺を探る魔法を発動したが、今のところは特に反応はなかった。
もう一つ回復キャンディをパクッと食べる。
ん~~~・・・
もしかしてここ、ファブールの森かな・・・?
タンダンの丘のもっと先にはファブールの森が広がっている。
【ハラ王国】の東の辺境地【ドン】は、この森から先の他国からの脅威や異変に備えるために作られた。
森を抜けたら海が広がっているらしいが、上陸できないわけではなく、また森があることで隠れ蓑にもなりえる。
だから、ガイルおじさんはいつもこの広大なファブールの森を探索し、警備しているのよね。
テクテク歩いていると、遠くで音がしたような気がした。
振り返ると砂煙があがっている。
走りながら「"感知"」
魔力が少ないからか、何もわからなかったが、確実にこちらに向かって何かが迫っているのはわかった。
”どうしよう・・・誰か!!”
声にならないが、必死で走った。
どんどん間合いが詰まってきており、恐怖を感じた。
はぁ、はぁ、はぁ――――-
あれ?足が動きにくい・・・
「ブヒヒーーン!!」
振り返る余裕もないが、怖くて後ろをみる勇気もなかった。
「・・・誰か・・・
誰か助けてーーー!!!」
”ガイルおじさん居ないの!?!?”
”パパ!ママー!!”
「うぅ・・・」
涙が出たが、必死で拭い去り最後の力を振り絞って叫んだ。
「誰かぁー!!
た、助けてーーー!!!」
もうダメ・・・と思った時に
”こっちだ”という声が聞こえて顔を上げた先に誰かが居るのがみえたので、再び足を動かすことができたのだった。
――――――――――
”ガイルおじさんの子どもではないわよね。親戚の子なのかしら?”
布団から顔を出し、ふと考えた。
この辺りではなかなかお隣さんとも会わないし、ましてや同年代の子どもなんてここ数年会っていない。
商品を買いに来るお客さんが唯一の遊び相手だったから。
「ふふ。あの子魔法適性はあるのかしら?
でも短剣を提げていたけど、魔法は使っていなかったわね。」
でも、あの時にロダティーを飲ませてくれたから・・・
それに私を庇ってくれたのよね!
「まぁいいわ。
お礼に友達になってあげましょう♪」
謝罪に行くことを忘れて、メイとの再会を楽しみにするミリューイだった。
――――――――――――――
「あなた・・・
マリーに何て言ったらいいのかしら。」
楽天家のカノンもさずがに今回の件は、楽観的ではいられない。
「ガイルのヤツにも負担をかけるなぁ・・・
我が娘のことながら、申し訳ない・・・。」
アーロンも幼馴染のことを思うとどう謝ればいいか頭を抱えていた。
パロット夫妻が抱える傷・・・
ようやく癒えてきたのに再びまたあの辛い日々を過ごすなんて・・・
「「はぁ~~~・・・」」
ジンクス夫婦の悩みは他にもある。
無断で魔法学院を抜け出した娘の処遇についてだ。
ひとまずは1か月の自宅謹慎。
罰則は協議してから判断すると。また、最悪退学も視野にいれておくようにと連絡があった。
「まぁ・・・
学院はいいのよ。あの子の責任だし、正直私は反対だったからね。」
「そうだなぁ。
あとはガイルとマリー。坊主にお礼と巻き込んだことの謝罪をしないとな・・・。」
ジンクス夫妻は目が合うとお互いまた深いため息をつくのだった。