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第5章②波紋ー前編ー

ちょっと長くなりました。


目が覚めた。

身体に鈍い痛みはあるけど、なんとか起きてみる。

手に力をいれると右肩の辺りが特に痛い。

座るとあとは我慢できる程度だった。


腕に巻かれた包帯を少しほどくと、大小の傷が無数にあった。でもどれも浅い。

内出血もみられたが、さほどひどくはないようで安心した。

脚は筋肉痛とだるさはあるが、こちらもかすり傷のみの様子。歩くのは問題ないやろう。


ゆっくりベッドから脚を下ろし、立ち上がった。


歩行も壁を支えにつたい歩きすれば行ける。

いつものようにリビングへ向かった。


「おはよう。」

声をかけたが、誰もいない。

今は朝か昼だろうけど、マリーも見当たらない。


程なくガイルが寝室から出てきて

「おはよう。

動いても大丈夫なのか?」


「うん。

師匠。昨日はありがとうございました。」


「本当にほっとしたぞ。お前を見つけたときは。

と近寄ってきて頭をグシャグシャと撫でた。

いつもはちょっと嫌がるが、今日はなんか嬉しい。


生きて帰ってこれたんだな・・・・・


と改めて実感したからだ。


「ねぇ師匠。

マリー先生は?」


「あ、あぁ・・・

今ちょっと体調を崩しててな。 休ませてる。

マリーもお前の無事を聞いて安心して眠ってるぞ。」


“マリー先生大丈夫なの?”と様子を見に行こうとすると

“今眠ってるからそっとしておいてくれ”と言われて制止されたので、椅子に座った。


「そ、それよりな。

昨日のことを詳しく教えてくれ。」


と話題を変えられた気もするけど、こっちのことも重要やしな。


ガイルは食事を運んでくれて、目の前に腰を下ろした。


食べながら、ゆっくりと昨日の詳細を話した。

時折思い出しながら、覚えている全てを伝えた。


ガイルは静かに話の全容を聴いていた。一言も言葉を発せずに。


「―――――、僕の覚えているのはここまで。

あとはガイルの声とぼんやり見えた灯りで記憶が途切れたんだ。」


「・・・・・

そうか。」


「あの女の子は大丈夫だったんだよね?」


「あぁ。それは心配ない。

今頃は魔力も回復して目を覚ましているだろう。」


「良かった・・・

あの子のおかげで助かったんだ。」


「そんなことないぞ!

メイがあの窮地の中で正しい決断をして、最後まであの女の子を守ってくれたから助かったんだ。

それは間違いない。あの子にはほとんど傷がなかった。

本当にありがとう。」


「俺の教えたことをちゃんと覚えてたんだな。」


え。

怒られると思ってたのに褒められたもんやから、一瞬反応に困った。


そんな様子を見て

「なんだ。

褒めたのに変な面して。」

とニカッと笑った。


「あ、実は逃げる途中にマリー先生からもらったお守りの鈴を落としたみたいなんだ。

大事なものだったでしょ?ごめんなさい。」


「なんだ。これのことか?」


ガイルは懐から、潰れて音が鳴らない鈴を取り出した。


「それ!見つかったんだ。」


「これのおかげでお前が岩場に行ったことに気がついたんだぞ。

本当に“・・・が”お前を守ってくれたんだな。」


「そっかぁ。鈴とこれを持たせてくれたマリー先生に感謝だね!先生も早く元気になるといいな。」


「あぁ。マリーは大丈夫だ。

少し風邪を引いただけで、病み上がりのメイにうつしたくないから用心してるだけさ。」


「わかった!

マリー先生に早く元気になってって伝えておいてね。あと心配かけてごめん、

 僕は元気だからって。お願いだよ!!」


ガイルは“わかった、わかった”と、いつもはマリーが世話を焼いてくれるんやけど、今日はガイルが忙しく動き回っていた。



――――――――――



パロット夫妻の寝室では、マリーが横になって休んでいた。


“あぁ。良かった・・・

二人の楽しそうな声が聞こえる・・・”


マリーはあの日、SOSの信号=煙の発見者だった。


急いでガイルに緊急連絡を知らせる内密シークレットウィスパーを発動させた。


この魔法は魔力がない者でも魔力珠マジックアイテムを使って、あらかじめ設定された特定の者にだけ伝言を伝えられる特別なものだ。転移魔法を応用したものらしい。


辺境の地に赴任してくる際、国からいくつか持たされた。そして秘匿義務を課せられた。


―――――――――


ガイルは煙の見える方向へ急いだ。

実は火石には特別な香りが塗ってあり、ガイルはその臭いが微かに残る方向と何かが通った後があるのを確認し、走り出した。


嫌な予感がする・・・!!


タンダンの丘はメイがいつも訓練しているお気にいりの場所だ。


そしてこのSOS信号は間違いなく、メイが出したもの・・・この香りはあの子用にとマリーが調合したものだから。


全力で走りながら、必死に無事を祈った。


“神よ!!

俺からあの子まで奪わないでくれ!!!”


草木が生い茂った場所にまでは辿り着いたが、その先の足取りが分からない。


実はこの草、厄介な種で直立不動草(ダルマ草)と呼ばれている。踏みつけても元に戻ってしまうため、足取りがわからなくなってしまうのだ。


オマケに年月が経つとけっこう長くなるため、小さい子供は隠れてしまうので、神隠し草とも言われている。


「くそっっ!!

どこに行ったんだ!!!」


焦るガイル。


・・・・あの時と同じだ・・・


ネイマ・・・


・・・・くそっ!!


激しい感情がガイルを襲う。もっと冷静になって手ががりを見つけなくてはならないのに・・・!


その時風が吹いた。


ほんの一瞬だが、ガイルの目の端に何かが動いているように見えた。


必死に探すが何もない。

見間違えか?


チリン―――


音がしたのを聞いた。

たった一回だけだか、ガイルは本能に任せて走り出した。足元で何かを踏みつけた。


これは・・・

ネイマの鈴・・・?


そういえばこの先にトンネルみたいな岩場があると前にメイが話ていた・・・


必死に草を掻き分けて走ると

グシャグシャに崩壊した岩場を見つけた。


嘘だろ・・・


何も音がしない。

が、祈るような気持ちで崩壊し積み重なった岩を退けながら「おーい!」

と何度も何度も叫んだ。


うす暗い奥へ進むほど不安が募る。

服の裾を破り、石に蔦を巻き付け火石で灯りをつけた。

声も少し枯れかけているが、不安を払拭するように更に大きな声で呼びかけた。



焦げ臭い・・・


少し走るとなんと黒焦げの大きな物体が横たわっている。


それが何かを確認するより先に進み

「メーイ!いるんだろー!?

返事しろーー!」


微かに何か聞こえた。


そこからすぐ足元にメイの姿が見えた。

そして少女の姿も。。。


――――――――――


マリーは、ボロボロの姿のメイを見て発狂した。

「落ち着け!マリー。

メイは生きてる!!」


その場に座り込み「いやーー!!いやーー!!」

と泣き叫ぶマリー。


「ネイマ!ネイマ!!ネイマァァーー!!」

と半狂乱だったが、一先ずメイをベッドに連れていく。


その後数時間泣き叫ぶマリーを抱きしめて落ち着かせ、疲れて眠ってしまったためベッドで休ませた。


――――――――――


“目を覚ましたのは夜中だったのよね”


泣き腫らした顔が気になったが、メイの様子を見に行き、30分程抱きしめたり、頭をなでたり、生きていることを確認した。


台所へ向かう途中、さすがに疲れてリビングの机に突っ伏して眠っていたガイルに毛布をかけた。

「あの子を見つけてくれて本当にありがとう。」

そっとキスをして、台所へ向かう。


明日の朝食の仕込みを始める。主に傷や打ち身、疲労回復に効く食材を中心に早く元気なるように祈りを込めて。


一通り出来上り、メイの様子をもう一度確認して寝室へ戻った。


しかし、その後眠ろうとすると、ネイマが亡くなった日の悪夢に繰り返しうなされ全く眠ることができなかった・・・


夜明け前、ガイルがルナの実を煎じた薬膳茶を飲ませてくれた。


“あの頃も眠れなくてよく飲んだわね・・・”


ガイルはマリーがまた悪夢にうなされているのを察していて、そっと肩を抱き寄せた。


「俺が上手く伝えておくから・・・」


「ええ。ありがとう。

あの子の回復を最優先してあげてね。」


“わかった”と優しくマリーの額にキスをして夜が明けるまで二人は寄り添っていた。

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