第86話 一足お先に
花粉!まだまだ飛んでます。薬飲んでも気休めにしかならないです・・・。
「頼もうー!!!」「・・・。」
声が行き交う【ジザ】のギルド内が一瞬静かになったが、すぐにいつものざわめきが戻った。
新人冒険者にありがちな登場の仕方だったので、受付職員や古株、中堅辺りの冒険者は一斉に『こういう奴に限って大したことないんだよなぁ~。』と思いながらさりげなく会話に耳を澄ませた。
「おい、恥ずかしいからそういうのはやめろ。」
「え?!何がだよ。」
クラークがため息をひとつ。その横で、全く気にしていないミトラスが辺りをキョロキョロと見ている。
「さーてと・・・先に受付済ませるか?」
「そうだな。後でゆっくりギルドの中を見よう。」
「あの~、登録したいんですけど。」
「はい、こちらで承ります。」顔立ちのいい青年が説明してくれた。
「ではまず、こちらに触れて下さい。個人の 魔力の測定を行います。その後、登録用紙に必要事項を記載して頂きます。嘘の申告はなさらないのが身のためです。後々、厄介なことになりますので・・・。」
2人は顔を見合わせた。虚偽申告をするつもりはないが、後でどうなるのかが気になった。
「嘘の申告をしたらどーなるんですか?」
「ペナルティーのようなものが発生します。その時の状況や程度にもよりますので今ここで具体的には申し上げられません。」
「ふーん。」
「特殊な古代のアイテムなのかもな。」
「どなたから始めますか?」
「俺!」とミトラスがはりきって手を差し出す。台座に白く丸い珠を載せており、それに触れると微かに吸い付くような感覚があった。
「あれ?何も起こらないけど。」
「ありがとうございました。手を離して頂いて大丈夫です。」
「これで、終わり?」
「はい。こちらの用紙に記入をお願いします。次の方、どうぞ。」
クラークは無言で手を伸ばし、魔力測定器に触れた。珠の色が徐々に白から透明が混じり、霧がかかったような状態になった。
「ありがとうございました。あなたはこちらの用紙に記入をお願いします。」
ミトラスとは違う色の記入用紙を渡された。
「さっきの結果について教えてもらえますか?」
「はい。あなたは、白から濁りのある透明になったので空属性に近いという結果でした。」
魔法は光、闇、土、光、風、水と空属性があり、それぞれに一番適正のある色に変化するらしい。稀に複数の色になると、魔法使いとしての資質が高いため特別待遇を用意するギルドもあるという。
「ありがとうございました。これを書いたらすぐに依頼を受けてもいいですか?」
「はい。まずはギルド所属の認識板をお渡します。それと登録料金をお支払い頂けたら完了です。その間クエストボードをご確認頂くか、こちらの受付でお薦めの依頼を探すことも可能です。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「またわからないことがあればいつでもどうぞ。」
「書けた!先にクエストボード見てくる。」
「あぁ。俺も後から行く。」
新人の様子をそれとなく見ていた他の冒険者達は、魔力なしと普通魔力の若い男のコンビで、見た目はいい。女をパーティーに誘うときに使える、と思っている者もいた。まずはDランクになれるかだ。とりあえず頭の片隅に覚えておいてやるか、と視線でのやり取りが密かに行われていた。
周りが注目しているとは知らず、ミトラスはEランクの依頼のところに立っていた。
“雑用が多いな。草むしり、薬草採取、手紙を届けてほしい、倉庫の片付け・・・。数をこなして、一日も早く『暁の星』として動きたい!選り好みせずやっていくか”
「どうだ?面白そうなのはあるのか?」
「いや、雑用だ!でも早くDランクになって皆で旅したいからな。手当たり次第やっていく。」
「だな。依頼がいつもあるわけじゃない。それに今のところ報酬じゃなく、最速でDランクまでいくのが目標だ。」
「今すぐ始めるぞ!」
「あぁ、行くか。」
それぞれ適当に見繕い依頼を受付で受理。ギルドの認証板も無事に受取り、お互いに依頼先へと向かった。
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別の日。
「ごめん、待った?」
「大丈夫、行こう。」
リカのギルド登録と初依頼を手伝うために【ジザ】のギルドに向かっていた。今からリカは『リー』で、話言葉も含めて男として行動する。
ギルドに到着後、フラムに取り次いでもらい私はグレさんの元へ、リカは受付で登録するために一旦別れた。
「マスターは忙しいので、代理でお話を伺います。」
「すみません。僕、登録するまでに見習いをさせてもらいたくて来ました。報酬は要りません。実は・・・。」
曉の星の事など一通り話した。
「わかりました。見習いの件、大丈夫です。マスターには私から伝えておきます。一応、見習いにもギルドの仮認証板があるのでお渡しします。少しお待ち下さい。」
「ありがとうございます!」
『見習いかー』『依頼楽しみね!』
「うん。実践に勝るものはないからね。」
フラムから認識板を受取り、受付にいるリカの元へと向かった。
「終わった?オレは認識板を受取るだけ。」
「じゃあ依頼を見に行こう。リーもすぐに受けるつもりでしょ?」
「もちろん!」
Eランクの掲示板前に立っていると、若い男が声をかけてきた。
「よぉ~お前ら新人かぁ?俺が色々教えてやろう。ま、授業料はいただくけどな!そうだな、取り分は3割でどうだ?」
「・・・。」
「お気遣いありがとうございます。でも僕らは大丈夫です。それじゃあ。」
「待て待て!そこのフードの奴、よく見ると綺麗な面だな?新人でお前らみたいに子供や綺麗なのを連れてると狙われやすいぞ?」
「あの、ほんとにお構いなくっ!」
リカの手を引っ張り受付へと急いだ。危ない、あと数秒でリカの回し蹴りが炸裂するところだった。フードを被ってるけど何気にいい香りがする。やっぱり男の真似をしているだけで、リカの女子感は抜けていない。ここは先輩として後でさり気なく教えてあげよう。
強引に振り切ったのはいいけど、雑魚先輩が舌打ちしてこっちをめっちゃ睨んでいる。
ああやってセコい小遣い稼ぎしてる奴は、Dランク辺りでくすぶっているに違いない。新人からただでさえ少ない報酬を口車にのせて巻き上げてるんやろ。
「メイ。あんな奴は最初に一発、鼻っ柱砕くのが一番よ?」
「でも目立っちゃうよ。良いことで目立つのは仕方ないけど、避けられるものは避けたいんだ。この先の事もあるから。」
「あ、ごめん。はぁ・・・そうだな。やっぱりメイと一緒でよかった。」
こそこそ話をしていると、受付のお兄さんがいくつか依頼を提案してくれた。
「先程はすみません。暴力沙汰等になれば、職員も口出しできるのですが、あのような小競合は言い逃れされるので手が出せなくて。」
「いえいえ、あれくらい何ともないです。冒険者になるんだから、自分で対処できないとこれから先も困りますから。」
「そう言って頂けると助かります。すみません。」
「謝らなくていい、オレは絡まれやすいんだ。」
「それでは、依頼はこちらでよろしいですか?」
「お願いします。」「よろしく頼む。」
「気を付けていってらっしゃいませ。」
「いってきます!」
先程の雑魚先輩の横を通り過ぎたが、チラチラ見るだけで他の冒険者の気にしているのか今度は何もしてこなかった。
【ジザ】を出て、ロフ国立森林地帯に入るとようやくリカの緊張も解けたようで「あぁー!!」と急に大声で叫んだ。
「・・・ごめん。もうぉほんっとにあの男鬱陶しかったー!」
「うん。ああやって、新人からお金を巻き上げてるんだろうなぁ。」
「でも、止めてくれてよかった。騒ぎになってたら大変だったわ。」
「これからもああいう場面はあると思う。だから、僕らは冷静に怒りとか感情をコントロールするように心掛けないとね!」
「わかった。感情をコントロール、ね。依頼だけどちょうど昼前だし、【ノグ】でご飯食べてから行かない?」
「賛成!ちょうどその辺りの依頼だし、そうしよう♪」
まずは腹ごしらえ。まっすぐ小鳥のさえずり亭へと足を運んだ。