第80話 アドバイス
本日から1/3まで連日更新予定です!今年一年ありがとうございました。皆様、よいお年をお過ごし下さい。
帰国してから数日後、アーロンが訪ねてきた。
「メイ、お帰り!お、顔つきが男らしくなったんじゃないか?!」
「アーロンおじさん、お久しぶりです。おかげで目標の資金が貯まったよ!」
「そりゃよかった!そうだ、手紙を預かってるんだ。えーと、これこれ。」
差出人は・・・グァレンド・バズゥー!グレさんからや!!
「おじさんちょっとごめん!この手紙読んでくる!」
「あぁ、後でゆっくり旅の話を聞かせてくれよ。ライも会いたがってるから!」
自室に戻り開封すると、一言だけ書いてあった。”いつでもおいで”と。
「母さーん!!ちょっと出かけてくる!夕方には戻るから!」
「あらあら、アーロンがせっかく来てくれたのに慌ただしいわね。お茶も入れたのよ?」
「ごめん!急いでるから!」
「構わないさ、いつでも来れるんだ。メイ、気にせずに行ってこい。そうだ、そのかわり今度うちに遊びにおいで。ミリュにも声はかけてるから、きっと喜ぶぞ。」
「うん、わかった!じゃあ、行ってきます!」
転移魔法で行くつもりやけど、【ジザ】は着地点が不安やなぁ。距離もあるし同化で行くとして・・・そうや!ネイマのお墓のところなら、森林地帯にも近いし【ジザ】と首都【ノグ】の間やしちょうどいいよね。
ネイマとテテュスにも連絡。
『だったら位置は大丈夫だよー!僕に任せて♪』ネイマと同化した。
“さぁ行こう! 転移!”
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目の前に小さな墓石。
「人は・・・大丈夫。よかった、成功だね。」
横に枯れた花があった。周りを見渡して、野花を摘み差し替える。テテュスに『水薬』で墓石を洗ってもらうと、あっという間にピカピカになった。
花を手向けて手を合わせてから、【ジザ】に向かって歩き出した。
『フラムとも久しぶりだね。』『コーちゃんの事や聖霊ネットワークについて話したいわ!』
”僕もグレさんと色々話したいなぁ”
森林地帯を抜け足取りも軽く、あっという間に検問所に着くと門兵に声をかけられた。
「坊主、一人でどこに行くんだ?」
「冒険者ギルドです。あの、ギルドマスターのバズゥーさんに呼ばれてまして。」
「お、ちっこいが新米冒険者か?ギルドの認識板はあるか?」
「まだ登録してません。」
「そうか、これからなんだな。ま、通っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
検問所はわりと簡単な会話か、身分証提示、なじみになると顔パスで通れることも多い。詰所にまで連れ行かれることは滅多にないけど、首都や大きい街では身分証とかあったら面倒事に巻き込まれることも少ないんやけどね。
『あ、ここじゃない?』
中に入ると、相変わらずガヤガヤと賑やかだった。
受付で聞いてみよう、とギルドマスターへの取次ぎをお願いするとイケメンのお兄さんが奥にいる女性に何か話していた。あ、フラムやん。
フラムは気付くと「お久しぶりです。」と一言、そして2階に案内してくれた。
「あの受付の人は、フラムが見えてるんだね?」
「ええ、ここの受付の合格基準は見た目と聖霊視ができることが最低条件なの。だからなかなか人がこないのよね。」
グレさん・・・。
一番奥の部屋に入ると本が山積みになっていて、そこからひょこっとグレさんが現れた。
「おぉ来たか、坊主。ちょっと待っててくれ。」
フラムが別の部屋に通してくれて、そこでお茶を飲みながらグレさんを待った。その間、冒険者ギルドについて色々と説明してもらった。
冒険者ギルドのランクは、一番下がE(下級)、次がD、C(中級)、B、A(上級)、S(超級)の6段階。Sランクの登録者は非公開らしくて一部の関係者のみが存在を知る、幻のランクになってるらしい。依頼自体はランクに応じた内容を受けられるけど、戦闘依頼は条件付けがあってCランク以上でないとソロでの依頼は受けられない。正規の依頼でなければ報酬はギルドからは受けられないし、死亡した場合の補償も出ない。ちなみにDランクからパーティーで護衛や戦闘依頼を受注可能。Eランクは専ら雑用で、危険度は低いらしいから単独でもいいみたい。ただ、どの依頼も全く危険はないとは言い切れないので、冒険者稼業は常に命のやりとりを伴う事を肝に銘じるように言われた。
あと、最初に登録したギルドが所属ギルドとなる。変更はいくらかの手数料で可能だが、所属年数のカウントが0になるため、補償手当が変動するらしい。上級ランクは特別で、手数料さえ払えば所属年数はそのままなど、上位ランクには色々特典があるんやって。
「そっか。最初は受けられない依頼もあるんだね。」
「そうです。力を過信した新人が無茶をしないように、と決められているの。もちろん冒険者だからギルドを通さずに個人で請け負う仕事も可能よ。ただ、そこには自己責任というものがあり、依頼人との交渉や自分が怪我をした時、家族への補償というものはないわ。」
「もし、依頼が失敗したらどうなるの?」
「依頼主に違約金を支払うか、ギルド内で解決することもあるわ。その場合、他の仕事を無償で引き受けて貰ったり、何らかの奉仕をしてもらうけどね。」
「じゃあ所属ギルドによっても対応が違うってこと?」
「その通り!良い所に気が付いたわね。所属ギルドはよく考えて登録しないと後で痛い目をみる場合もあるの。一応規則で最低限の補償はランクや依頼内容に応じて取り決めがあるけど、あくまで最低限のもの。色々理由を付けて支払ってもらえなかったり、依頼を回してもらえない所もあるらしいの。さすがにあまりにひどいギルドは追及されるけど、証拠を提示するのが難しいのよねぇ。」
「あの、ランクはどうやって上げていくの?」
「Eランクは100件の依頼を達成すれば自動的にDランクへ昇格するわよ。DランクとCランクは依頼件数と護衛や戦闘などの依頼も含まれるから、大体の冒険者はこのランクで引退を迎える人が多いわ。降格は滅多にないんだけど、規則違反や依頼の失敗、年間の依頼件数不達成があると可能性はあるわね。BやAランクは国からの依頼もあるから、依頼件数とかの縛りはないの。それだけ信頼度が高い。でもね、緊急時の招集には特別な任務でない限り応じること、とか上級ランクならではの約束事もあるわよ。だからギルドに所属しないでフリーになっちゃう人も多い。そういうワケで、上級ランクは常に人手不足だし、どうしても中級ランク冒険者が飽和状態で依頼の奪い合いがあるのよね・・・。」
「なんか、冒険者ギルドも大変なんだね・・・。」
「そうなの!運営は大変なんです!!なのにマスターは趣味に没頭してしまうしギルド運営にもっと力を入れて欲しいのにー!!」
フラムが突然叫び出した。ネイマとテテュスがびっくりしている。
「お?こりゃフゥのお怒りが収まるまで、もうちょっと待っとるか。」
部屋に入ってきたグァレンドがそそくさと出て行こうとすると、フラウが瞬間移動で阻止した。
「マスター?さっさと用事を済ませて、お仕事にお戻りくださいね。」
怒りマークの笑顔で、グァレンドを椅子まで連れて行き、自分は仕事に戻って行った。
「はっはっはっ!フゥは突然爆発するから驚いただろ?」
「グレさん、フラムが有能で良かったですね。」
「そうだな!ところでお前さん、儂に相談があったのだろう?」
ミトラス達のこと、聖霊ネットワークのこと、あと手帳に書いたことを更に詳しく話した。コヨチールの事はとても喜んでいた。聖霊ネットワークにも興味を持ち、自分も知り合いに声をかけるからいつか集まろうという事になった。そして・・・。
「その友人とは期間限定でパーティーを組んではどうかの?例えばソロで戦えるCランクまで、とか。1年だけ一緒にいるとかな。冒険者は自由業、いつかは違う道を選ぶし、ずっと一緒かもしれんが命が消えるのは同じ時とは限らんからなぁ。そ奴らが優秀な者でもまだまだ実践の経験は不足しておる。それはお前さんもだ。だから最初は一緒に行動し、それぞれが好きな時に解散すればいい。それだけじゃないか?」
「そっか・・・。そうですね。僕だって1人だったら出来ない事でも仲間がいれば出来る事もある。・・・ただ、仲間には、やっぱりネイマやテテュスの事を話さないといけないと思うんです。」
「話せばいいじゃないか。昔はそこらに聖霊はいた。今も居るんだろうが、人々は見えないし感じなくなってきている。存在自体が幻のようなものになってしまっては、本当に居なくなってしまうんではないかと怖ろしくなる。今は数が少ないから希少扱いされておるが、聖霊を知る者や信じる者がいなければ、人々の心の中からも消えてしまうような気がしてなぁ。聖霊研究者である儂は、聖霊の存在を広めることこそ、聖霊を増やすことに繋がると思っているんだよ。」
「聖霊の存在か・・・。珍しいって聞いてたから、周りに話すと自分が浮いてしまうんじゃないかと思ってました。それに、ネイマやテテュスに害が及ぶんじゃないかと・・・。」
「聖霊は自由じゃよ。人がどうにかできる存在ではないと思っとるよ。ただ、邪悪なものは存在する。だから誰彼でも話すのではなく、自分の信じた者達にだけ話してはどうかの。信頼こそ、ギルドの大事な絆。裏切り者に容赦はないぞ?」
初めてグァレンドの少し怖いくらいの気迫を感じた。すぐにそれは雰囲気が戻り、いつものグレさんになったけど。
「さて、儂もそろそろ仕事に戻らんとな。」
「あ、今日はありがとうございました!僕ここでギルド登録させてもらいます。」
「待っとるよ。」
ギルドを出てから転移魔法で家に戻った。ネイマもテテュスもグァレンドの言う通り、私が信じる人達に聖霊の存在を打ち明ける事に賛成してくれた。元々、自然界に聖霊はいるとされてきた。知られたからって大したことはない、と言ってくれた。
グレさんからのアドバイスのおかげで、ミトラス達の元に向かう決心ができた。