第76話 軍郷
梅雨ですね。暑い・・・。バテないようにしっかり水分補給&暑さ対策で乗り切りましょう!
バウフル島はいわゆる軍郷だ。
軍郷とは、多くの軍事拠点を擁する地域を漠然とさして呼ぶ。国家が擁する軍隊やその関連施設の集中をこのように表現する、とステータスブックに載ってた。なんて便利な機能なんや・・・。
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「はー久しぶりに外出だー!開放されるー!!」マーブルが認識番を門番に見せた途端に叫んだ。
「うるさい、メイが驚いてる。」レドが注意する。
「うん。僕もなんか同じ気持ちだよ!」と両腕を伸ばした。
「海防団は寮生活だから、基本的には門限がある。」
「って言っても、訓練生や新人には厳しいが、団員はあってないようなもんだぜ!」
「バウフル島には海域連合軍に属しているいくつかの組織がある。そこで働く人々にとって物資や娯楽とか必要になるだろ?すると商売人が集り、流通が確立し、街ができるんだ。」レドが教えてくれた。
「ここから少し行くと、その軍の為に出来た街があるぞ!」張り合うようにマーブルも話す。
「歓楽街もあるが、メイにはちょっと早いからまた連れてきてやるよ!」マーブルがからかう。
「やめとけ。若いうちから女に溺れると身の破滅を招くぞ。」とすかさずレドのツッコミ。
「2人はほんとに仲いいなぁ。」
「一緒にするな!」「一緒にしないでほしい。」
ハモってるやん。息ピッタリ!
「どこに連れて行ってくれるの?」
「あー酒場だけど、わりと子供でも入りやすいとこだ。」
「安心しろ、俺がいる。」
「何食べれるのか楽しみ♪」酒場のツマミって美味しいからなぁ。これは期待できそうや!
町の入り口に着くと木製の家がまばらにあり、村の集落みたいな感じやった。
「この辺りはこの町で働く住民の居住区域だ。ここから少し先に商店や酒場とかの整備された区画がある。」
レドの説明を聞きながらずっと奥へ行くと、さらに大きな門があり、ようやく目的地が見えてきた。
「うわ~ここからは街って感じだね!」
「そんなに大きくはないんだけどな。この街を抜けると海防団とは反対に位置する陸衛団がある。」マーブルが苦々しい顔で教えてくれた。
「あと守人集ってのがいる。」
海は明確に縄張りを決められないので、各国で人材を集めて海域連合軍というのを創った。他の国が資源やエネルギーを独り占めしないようにそれぞれ見張らせてるんやって。
陸衛団は主に海に近い陸地での情報収集や水際での海と陸との連絡係であり、このバウフル島内を管轄としている組織で、守人集は島内での医療担当。その他、よろず屋的な仕事をしたり、軍事に関わらない中立組織として一応存在しているらしい。
「陸衛団とは仲が悪いの?」
「・・・どこもそうだが縄張り意識が強くて、うちとよく揉めるのが陸衛団だ。」
「あいつらは本当に面倒なことは押し付ける癖に、手柄だけは横取りするのが得意だからな!」
どうもこの話題は避けた方がいいらしい。
「酒場はまだ着かないのかなー!」とわざとらしくキョロキョロと辺りを見回す。
「あー、そこの角を曲がった所だ。」
酒場というより、隠れ家レストランバーみたいな雰囲気の店だった。うん、いいお店に連れてきてくれたみたい。
「3人いけるか?」
「はい、こちらへどうぞ。」
中に入ると給仕が案内してくれて、入り口から一番奥の席へ案内された。テーブル席は3つ、カウンター席は3人か4人くらいまでの小さな酒場。
「すごく落ち着ついた店だね。」正直意外なセレクト。
「だろ?ガヤガヤ騒げる酒場もいいけどさ、女口説くにはこういう所がオススメだぜ。」
「そういう知識でマーブルに敵うものはいない。」
「レドは女関係は疎いからな!メイも好きな子が出来たら俺に任せろよ!」
「頼りにしてるよ、兄貴。」
「とりあえず何か頼もう。」
料理も飲み物も全部美味しくて、デザートも出るし、あっという間の楽しい一時だった。
「2人とも今日は本当にありがとう!」お礼を言うとマーブルは顔をそっぽ向いて隠した。
「俺や・・・マーブルは親や兄弟がいないからな。こうやってメイがいると家族ができたように思えて嬉しかったんだろ。」レドが代弁した。やけに饒舌。あれ、こっちもかなり酔ってる?
「明後日には故郷に戻れるぞ。でもな、俺のこと忘れるなよ!」マーブルが肩を組んできた。
「忘れないよ。兄貴やレドはもう身内だよ。何かあれば僕だって駆けつけるよ。」
「メイ・・・。俺も友人以上に思ってくれるのか?・・・俺も・・・お前に何かあったら必ず力になるから。」
絶対酔ってる。レドも肩に手を回してなんか円陣組んでるし!しかもポロポロ泣き出した。
「わかったよー。2人ともちょっと水飲んで少し酔いを冷まそう?」
2人が落ち着いたタイミングで店を出た。
帰り道はマーブルもレドもボーッとした様子でほとんど何も話さずに寮に着いた。
『あれ?兄ちゃん酔ってる?』
『メイ、お帰り!』テテュスとコヨチールが待っていた。
「夕飯食べに行ってたんだ。2人にご馳走してもらった。」
『あーこれは相当酔ってるね!兄ちゃん連れていくよ。』
“ありがとう。僕はレドを送ってから部屋に戻る、テテ先に行っていいよ”
『わかった』
レドはなんとか自力で歩けたので、部屋まで見送ることにした。
2階の角部屋。ドアの前で帰ろうとしたけど、”ちょっとだけ寄っていけ”と中に入れてくれた。
造りはマーブルと同じやけど、更に何もない部屋だった。レドって一体どういう人なんやろ。
椅子に座り、ひと息ついた。
「これ、見せたかった。」レドが持ってきたのは、特別訓練生の時にナナミ副団長から貰った認識番だった。
「あ、この印ナナミ副団長のものだ!同じだね。」
腰に下げている小袋から、私の認識番を取り出して見比べた。
「これ、やる。持っててほしい。」
「え!大事なものでしょ?!貰えないよ。」
「俺は身内がいない。だから何かあったとき、悲しむ人がいない・・・でも、メイがさっき身内だって言ってくれただろ?嬉しかった。だから俺が一番大事にしてるもの、持っていて欲しい。俺が居たってわかる証だから。」
「・・・僕も、孤児みたいなものだった。今の両親が僕を拾って育ててくれたんだよ。家族にもなってくれた。レドの気持ち、わかるよ。」
「なら、持っててくれるか?」
「・・・うん。いつか、レドの本当の家族が出来るまで僕が預かるよ!レドだって好きな人ができたら、その人と家族になるでしょ?そしたら、僕がレドをよろしく頼みます、って渡すね。」
「あ、ありがとう。メイ・・・。」
「意外と泣き虫なんだね。」
そっと背中に手を置いた。そして、ポンポンッと泣いている子供をあやすように寄り添った。
私にはこの気持ちがとても理解できた。まっ裸でこの世界に来たとき、不安、孤独、恐怖とか色々な負の感情に支配されたから。
ガイル達に出会って、救われて、ひとりぼっちじゃないと感じたとき、自然に涙が出たもんなぁ。大人になったって、孤独はすごく怖い。平気なふりしてても、誰かに寄りかかりたくなるときは必ずある。
ウトウトしているレドの涙顔を拭いて、ベッドになんとか連れて行き休ませた。
年上だし身体も大きいけど、なんか小さな子供みたいに見えた。ほっとけなくてしばらく傍で、手を握っていた。
スー・・・スースー・・・。
寝息を確認してそれから部屋を出た。