第71話 救出大作戦③
久しぶりの更新です。やはり3、4月は忙しいですね(^.^;コロナとか色々ありますが、お互い負けずに頑張りましょう!
漆黒の海に船は出航。
船内は静まり返り、波しぶきの音だけが響きわたる。
「・・・な、なぁ。本主様、大丈夫だよな?」ヨドから肯定的な言質をとろうと、船に乗り込んでからずっと側を離れないセヨハン。
「まずは取引を成功させることですよ。私が決めることではありませんから。」船を操縦しながら必要以上のことは話さないとばかりに、一切目は合わさない。それからまた、無言の時間が続いた。
沈黙を切り裂くように、ソラがふらっと現れ「約束は守ってもらうわよ・・・。」と告げ、消えて行った。
「何だ?約束?」思い当たる事を必死で考えた。ひょっとしてヨドが何か仕掛けたのではないかと、横目で見る。こいつ、どこまで信用していいのやら・・・。バルの次はまさか、俺じゃないだろうな・・・。
セヨハンが声を掛けようとしたそのとき―――――
ドドーーンッ!!
音の衝撃と同時に焦げた匂いがした。
「何が起こった?!」焦げた匂いの元へ駈けつけようと立ち上がり、側に居たはずのヨドに視線をやると姿が見えない。
「ヨド!!どこにいやがる?!」周囲を見渡すが、先ほどまで横にいたはずなのに全く気配がない。
くそっ!
とにかく事態を把握しようと船長室を出ると、人質がいる部屋の方から炎が見えた。
ララやレラ、キンとギンが甲板に出てきており、衣服があちこち焼け焦げて呆然と立ち尽くしていた。
「ギン!おい、何があった?!」
「・・・い・・・いきなり衝撃があって、慌てて出たら・・・一面火の海で・・・。」
「なんだと。あいつらはどうした?!樽の商品は?!」
「し、仕方ないだろ!!あの部屋から火が出たみたいで扉は吹き飛んでたし通路も燃えてて・・・近付こうにも無理だ!」
「ほ、本当です・・・。俺もギンに引きずられて脱出、したけど・・・あの火の勢いだと・・・な、中は・・・もう。」
ララとレラは呆然とその場に座り込み、炎を見つめていた。
・・・そういえば、ソラの姿がない。
「お前ら、ソラを見なかったのか?」
「わ、分かりません・・・い、一瞬の出来事だったので見てません・・・。」キンが真っ青な顔で話した。
ギンはようやく気持ちを立て直し始めていた。ゆっくりと周りを見るとこの場にはヨドとソラがいない。恐らくあと少しで、セヨハンは動き出す。その後でキンを連れて海に飛び込もうと決心した。
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ヨドは闇魔法で姿を隠し移動していたが、火の勢いが強すぎたので、再び船長室に戻っていた。
“熱い・・・”
衣服の一部が焦げてしまい、あちこちに小さな火傷もできていた。
「ネズミが紛れ込んでいたな。」
聖霊の気配と女が1人。あともう1人いたような気がするが姿は見えなかった。部屋に炎が広がっていたのに、何故か樽には影響がないように見えたのが気になった。でも・・・。
・・・今回の取引は諦めるか。まぁ、暇つぶしにはなったし。・・・この女も一応連れて行くか。
火傷を負い、気を失ったソラを抱え「“転移”」。愛しい人の待つ場所へと戻った。
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火魔法発射数分前。
「ジグザ、そろそろだがいけるか?」マーブルは久々の大仕事に興奮しつつも、タイミングを間違えないように慎重に声をかけた。
「もちろんです!絶っ対に許さない・・・。私のありったけの魔力を込めてぶつけてやる!」
「大きい声をだすなよ・・・。失敗できないんだからな。」
「はい・・・。」
『兄ちゃん。・・・凪いだ。波が凪いだ!合図だよ。』
「わかった。コヨチール!いくぞ。」
「『“水膜”』」マーブルとコヨチールはジグザや樽全体に水魔法をかけた。
「うわ、なんか冷んやりする。」
「今度はジグザの番だ、頼むぞ!」
深呼吸をして「いくわよ。”火炎放射”!」ジグザが唱えると一直線に扉めがけて炎が放たれた。
ドドーンッ!!
扉を吹き飛ばし、瞬く間に炎の道を築き上げていく。すぐ部屋全体にも火の粉が飛び火し、メラメラと燃え広がっていった。
「はぁ、はぁ。・・・あー!スッキリした!!」
「す、すげぇ威力だな!」
『兄ちゃん、感心してる場合じゃないよ。次の行動に移らなきゃ。』
「そうだな!もう少ししたらここも崩れる。ジグザ、お前泳げるのか?」
「まぁ浮く程度には・・・大丈夫。」
「まぁ溺れてもアクアベールの底に沈むだけだ。しばらく海中で息はできるから頑張れ!」
「はい!あいつら、必ず捕まえて下さいね!!」
「任せろ!」『任せといて!』
「『海防団の誓いにかけて!!』」と拳を握り、手の甲に刻まれた紋章を見せた。
樽からは悲鳴のような言葉にならない叫び声が上り、ガタガタと中から必死で出ようとする者が出始めた。
混乱した人が樽から出てしまう前に、海に飛び込む必要があった。
「ジグザ。今度はもう一発、この床の下に魔法をぶつけてくれるか?海に出るにはこれしかない。」
「魔力足りるかな・・・。」
「あ、これメイから預かってた回復薬!飲めよ。」
「ありがとうございます!あ、これ・・・あの時のね。よ、よーし!」一気に飲み干した後、ジワジワと身体に力が漲っていく。
「いける!・・・“火炎放射”!!」
ドドンッ!!「うわぁ!!」
床に大きな穴が開き、崩れ落ちていく灰や炭と化した板と共に次々樽が船底の暗い海の中へ沈んでいく。
「ひぃぃ!!」ジグザも魔法を放った後、下へまっ逆さまに落ちていった。
本当に息できるのよねー?!大丈夫よね?!信じるしかないけど~~!!と思いつつ、目を瞑り息を止めて海の中へ・・・。
ボコボコ・・・ブクブクブク・・・。
周囲からは泡が立つ音がそこかしこに聞こえている。恐る恐る目を開けると、樽が周りに見え皆無事なのか気になった。
そういえば息をしてない。く、苦しい!・・・あ、もう駄目!息が・・・。
手足をバタバタしていると、ガシッと肩を捕まれほっぺたを軽く叩かれた。
目を開けると、息をしろ!と叫ぶマーブルが見えた。
あ・・・思わず息を吸い込んだ。
あれ・・・?苦しくない・・・。
「えー!私、息してる!!すごい!」
「だから言っただろ?!話もできるぞ!」
「ど、どうしてですか?」
「そういう水魔法なの!んー、簡単に言うと大きな泡の中にいる感じ?」
「か、感動です~~!」
「とりあえず樽から人を助けるから、お前も手伝ってくれ!」
「はい!」
コヨチールは海流を操り、アクアベールで包まれている全員をテテュスのいる地点にまで運んでいた。マーブルは樽から捕らわれた人々を救出しつつ、アクアベールが切れないように魔法を重ねがけしサポートしていた。
ジグザは樽から出てきて状況の掴めない人々を、落ち着かせるように話しかけた。しかし、あまりにも不思議な光景に泣き叫んでいた者も次第に黙り込み、ただ身を任せるようになっていた。
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一方、テテュスは魔力の気配と海流の流れで、コヨチールが近付いているのを感じていた。
『もうすぐ皆来るわ。』
「人質とマーブル、コヨチールが到着するみたいです。」
「そうか!!よくやった・・・。」安堵の表情を見せるナナミ。遠くに見える炎を見つめ、また何かを考え始めていた。