第67話 闇の世界の住人
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「お気を付けて。」レドが見送り、小舟はフリナドゥ諸島のフ島方面へと速度全開で向かった。
「副団長~。本気で行けば夜中には着くよー!」
「悪いな。回復薬もあるが、倒れねぇ程度で頼むわ。」
「了解ー!!」
「あと、俺達が海防団と気付かれちゃマズイ。今から俺の事は”ナナ様”と呼べ。お前は俺の小間使いの”マー坊”だ。」
「何すか、それ?!ダセぇ・・・。21にもなってマー坊はないですよぉ。」
「うるさい。俺達は田舎の商人だ。俺は成金目指して、一攫千金狙いに来た感じにする。出来るな?」
「もっちろんです!!ナナ様!」
「よし、良い子だ。オラ、もっと飛ばせ!」
「ひー!人使いの荒いご主人様だー!!」
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時刻は夕方。海防団の人がどんな感じなのかわからないから、めっちゃ緊張してきた・・・。
カイトの知人は、いかにも海の男って感じらしいというなんともアバウトな特徴を教えてくれた。あと、近くに来たら、この腕輪が硬くなってくるという情報が頼りだった。
確かに、若干やけど最初に比べたらこの腕輪のプニプニ感がなくなってきたような?
『メーイ!考えても仕方ないんだから、身体を休めるかご飯食べるか、ちょっとは力を抜きなさい?』
”うん・・・。ありがとう、テテュス”
『ゴウにくらい挨拶したかったわよね~。』
”そうなんだよね。ロゼさんにもお世話になったのに、急に消えて心配させちゃうのと迷惑かけちゃうのとで申し訳ないよ”
『カイト、皆に何て言うつもりなのかな。このお金持ってきたときも”こっちは大丈夫。心配するな。自分の事だけ考えて、必ず生きて会いに来い”って言ってたわね。』
”うん。身勝手な僕の事を心配をしてくれて、バイトのお金もきっちり金貨10枚くれた・・・。最後まで船に乗れなかったのに”
『はいはい!暗くならないの。大変な事だけど、きっと乗り切れるから。だって聖霊が2人も傍に居るんだからね!』
”ほんとだよね!これってスゴイ事だよねー”
『ふふ。メイは笑ってなきゃだめよ?笑うなんとかには、えーっと・・・。』
”笑う門には福来たる!だよ”
『そうそう!同化したときに異世界の、日本のことわざとか色々文化に触れて面白かったわー。まだまだ私の知らないことありそうだし、私けっこう同化好きなのよ。』
”そうなの?まぁ、ネイマとテテ同時にはできないから交代でだし、最近は時間短いからごめんね”
『気にしないでー。負担はメイにかかるからねぇ。でも不思議な感覚よね~。』
“だよねぇ。僕にも2人の記憶とか感情が流れてくるから面白いよ”
アハハ!と笑って、ようやく私も心が解けた。お腹も空いてきたし、念話でネイマも呼んで夕食を済ませた。
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「おい。あいつら死んでないだろうな?」
「静かになっていいじゃない。」
「あ?!商品だぞ!!ちょっと様子見てこい!!」
「何よ、偉そうに・・・。わかったわよ!」
フ島の島主である『バル』から命令され、渋々1階奥の部屋へ向かった。「あー面倒ねぇ。こんなの下っ端にやらせればいいのに。」と文句を言いながら、部屋の前に立っていた見張りの男に入口を開けさせた。
灯りをつけさせて、部屋を見渡す。近くにあった樽を思い切り蹴とばした。
「んー!!」
樽はひっくり返り、ゴロゴロと揺れを繰り返し止まった。
「死んでないじゃない。」それから、コツコツと歩きだし、また近くの樽を2つ程蹴とばすと中から悲鳴や泣き声が聞こえてきた。
「キン!ギンと一緒にコレ、元に戻しておきなさい。」
「は、はい。」
「あー、足痛い!レラに治療させなきゃ。」そう言って、『ソラ』は出て行った。
足音が遠のいたのを確認し、『キン』は外扉にいる『ギン』に声をかけた。
2人で人が入った樽をゆっくりと起こす。
「・・・ごめんな・・・。」
「おい!キン!!同情はやめろ。主様に聞かれたら俺達もタダじゃ済まないぞ。」
「ご、ごめん。」
それからは黙々と作業をし、持ち場へと戻った。
3日前、ようやくこの底辺生活から抜け出せると希望を持ち、双子の弟のギンとこの闇の世界から出て行こうと決意した矢先・・・。
島主である『バル』に声をかけられて、とんでもない仕事をさせられる事になってしまった。
今までも生きるために盗みや盗品を売買したり、人に言えないこともさせられたが、人身売買にだけは手を染めなかった。自分達も奴隷ギルドに売られてここに来たからだ。・・・なのに、最後の最後でこんな目に遭うなんて、やおよろずの神は自分達を見放したのだと絶望していた。
ギンはこの仕事をやらされた時から必ず兄のキンとここを抜け出すと決め、隙ができる瞬間をずっと 窺っていた。
バルの行動や腹心のソラの動きを出来る限り観察していた。他にも男の見張り役が2人、御付きの女が2人いるが、気取られないように細心の注意を払っていた。
奴隷ギルドに売られてからの5年間、地獄の日々だった。生き抜いてこれたのは双子の兄弟がいたからだ。1人ならすぐに死んでいただろう。地を這い、泥を啜りながら、生きるために血の涙を流した。だから、もう涙は出ない。キンと助かるためにどんな非情な手段でも使うつもりでいた。
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深夜、ネイマとテテュスは交代で外の見回りをしていた。海防団の接触がいつかわからないのと、捕われた人達の事が気になっていたからだ。
『メイは寝てるよー。』
『そう。よかった・・・。さ、私達は見回り頑張りましょ!』
『おー!』
テテュスは島の外周、ネイマは島の内側と担当を決めて探索していた。島の外は海に囲まれているため、水の精霊であるテテュスの方が都合がいいと話し合いをした結果だった。
『あれ?何か近づいてくる?』
テテュスが砂浜に降りると、小舟から人影が見えた。・・・3人?話声を聞くと男が3人。いや、1人は子供?
木の陰に身を隠していたにも関わらず、急に子供が1人走り寄ってくる。
『えー?!どうしてわかったのかしら!まさか、あの子精霊使い?!』テテュスは焦ってしまい、オロオロしている内に距離を詰められてしまった。
『こんばんは、お嬢さん。こんな夜更けにお散歩ですか?』見た目は子供の男の子がにこっと顔を覗き込んできた。
纏う魔力の気配が懐かしいような似ているような・・・。『あなた、私が見えるってことは精霊か、聖霊使いね?いえ、水の精霊・・・。』
『正解だよ!僕はコヨチール。永遠の10歳さ♪あっちにいるのが、僕の契約者とその上司。で、お嬢さんはどうしてこんな所に居るの?』
『あなたに敵意がないことはわかるわ。でも、敵か味方か判断がつかない。』
『おおー!素晴らしいね。君まだ生まれて数年でしょ?その警戒心はけっこう修羅場を潜ってきたと見た!』
『褒めても何もでないわよ。私、契約者と大事な任務中なの。同じ水の精霊に出会えた喜びに浸っている場合じゃないのよ。』テテュスはちょっとイライラしていた。念話で応援を呼ぶべき?
『わかった!じゃあ先輩として、僕が先に話すね。君は悪い契約者と居るようには見えないからね!実は、僕の契約者は海防団の一員なんだ。海防団ってわかる?えーっと、海を守る・・・』
『海防団?!じゃあ、あなたの契約者が内密の受け取り人!!』
『お、ラッキー♪当たり日だね!今日は!!ちょっと向こうで話してくるねー。』
遠くで「何ーー!!マジでかー?!」と周りに気付かれるんじゃないかというくらい大きな声が聴こえたけど、すぐに静まり返り、例の3人が近づいてきた。